すきなひとの すきなひと と

迷空哀路

文字の大きさ
28 / 42

28〈バッドエンド〉

佐々木side《2》

理解が追いつかないゲームや本を読んだこともあったけど、あんなのでもまだマシだった。
どこのトレンディドラマだとつっこみたくなるでかいマンションの高層部で、指紋を読み取り扉を開けた。
さっきのは冷静じゃなかったから、ぶっ飛んだことをしたのだと思った。今は少し落ち着いているように見えたのに、それはどうやら見当違いらしい。
どうぞと言われた部屋に上がると、その豪華さは想像していたが、それより先に出てきた人物に足が止まってしまった。
「ただいま、正人」
「お帰りなさい……宗介くん」
部屋の端にポツンと座っていた。子供のように小さい体に近づくと、まるでペットにそうするみたいに頭を撫でて、留守番ありがとうと言う。その少年の頬は微かに染まった。
そんな光景を見ながらも、奥にある異質な物が気になってしょうがない。こんなものを置いて、何故こいつらは普通に過ごせているんだ。
「あれは……何だ」
少年に構っていた体を反転させて、こちらに振り向いた。
「檻ですよ。非日常のものが一つあれば、退屈も減ると思いませんか」
そんな軽い調子で用意できるものではないだろう。天井とほぼ同じ高さの鉄、ワンルームぐらいのスペースはありそうだ。何でこんなものを家の中に……。
「入ってみてください。案外楽しいですよ、秘密基地みたいで」
ぐいぐいと押されて、半ば無理やりに入れられた。構っていた少年は大人しく、鉄の外で何も言わずに座っている。
「おいっ……」
「下には柔らかいマットを敷いて、ほら簡易ですけどトイレと洗面台もあるんですよ。もうそのまま生活出来そうですよね?」
「……っ」
言葉を失った隙にあっちの体が動く。一歩遅れて振り返ると、ガチャリと音がした。南京錠が付けられている。
「あ、もう一個付けちゃいますね」
「何してるんだ……」
「食事の時には出してあげます。あとお風呂も。とりあえずその服じゃ窮屈でしょうから、今着替えを持ってきますね」
声が出なかった。何と言えばいいか分からなくて、その場に膝をつく。冷たい鉄格子はピクリとも動かない。部屋の中に目をやると、いつの間にか少年は消えていた。
「これ着心地が良いって評判なんですよ。着替えてみてください」
「……お前、本気でこんなことを」
「本気って……。考えてみてくださいよ。ここに来れば家賃も電気代もその他諸々タダですよ。食事も、僕は作れないんで取り寄せたものがほとんどだと思いますが、たまに爺も作りに来てくれるので。荷物もここにお運びしますね。そうしたら不便なことは無くなっちゃいますよ。それなのに、断る方がおかしいと思いませんか」
「そんな訳ないだろ。こっちはあんな場所でも満足してるんだよ! こんなところで……なんて」
「最初だからですよ。先輩だって新しい家に引っ越した時、いくつか不便なことはありましたよね? だんだんと買い揃えて、慣れ始めて、今の暮らしがあるはずです。だから必要なものがあったら用意していきましょう。とりあえず一日過ごしてみてください。……あと、ついでに言っておきますと、この檻から出られたとしても、この部屋からは出られませんよ。窓も開かないし、玄関も僕の指紋が無いと開きません。先輩がここに住むと決心してくれたら、先輩の指紋も登録してあげますね。じゃあちょっと買い物に行ってきますから、少しだけ待っててください」
いつものように人当たりの良い笑みを浮かべて、二人で出ていった。

音が聞こえなくなってから上着を脱ぐ。さっきまで暑かった体は震える程に冷えていた。
どうしてこうなったのか、どうしたら回避できたのかを考えても分からない。
ただこんなペットのような扱いをされるのは無理だ。何をするにも檻の外から見られて……でも誰かと住んでいても、見られることは同じか? 檻という存在がいけないのか? 
ここにカーテンでもあれば、壁に囲まれていれば俺は受け入れていたか? いや、そうじゃないだろう。あの家を気に入っているかは分からないけど、家の荷物が全部ここにあっても拒否していたと思う。勝手なのが、一方的なのがダメなんだ。
受け入れられないのは、三上への裏切りなのか? 愛があれば何でも許せたのか? 
……あの少年なら受け入れたかもしれない。現に今もここにいる。もしかしたらもう同じように、檻に入れられて過ごした後なのかもしれない。
「圏外……」
これも三上が設定したのか。でもまだ何か打開策があるはずだ。檻の中を観察した。隅々まで見たけど、方法は一つしか思い浮かばなかった。
上着を拾って制服を着直す。気合いが入った気がした。ここで気落ちしたら絶対に出られない。

ああ、こんなの普通に過ごしていたら、絶対経験できないぐらいレアだ。数々のヤンデレヒロインを見てきたが、まさか自分がこんな目に合うとは……。
檻に閉じ込めてどうにかするなんて無理だと思っていたが、三上の財力と性格ならなんとかなってしまいそうだ。このまま思考を停止して付き合ったら楽だろうし、あいつを傷付けなくても済む。でもそれはバッドエンド、破滅への道だ。二人の間でだけはハッピーエンド、なんてそんな終わりは認めない。俺はこう見えて、大団円で終わる物語が好きなんだ。
結局説得しか方法は無い。このまま出してくれとお願いするか、こんなことしなくても大丈夫だと訴えてみるか……。
前者は今まで起きたことは夢だと片付けて、全て無かったことにする。また一人に戻るけど、どうせそろそろ卒業だ。そうなったら関係は嫌でも離れていくだろう。
俺は全てを受け入れて愛せる程、まだあいつのことを知らない。後者は……どうなるか分からない。そんな言葉だけの繋がりは信じられないと、俺が捨てられるのだろうか。どちらを選んでも、もう詰みなのかもしれない。

二人が帰ってきた。少年は何も話さないが、視線や仕草がすぐ三上に向かっている。二人で並んで袋を持っている姿に、先日のことが蘇って頭を振った。
「ただいまです先輩。今日は久しぶりに手作りしてみようかと思って。簡単なものだから失敗はしないと思いますよ。ね、正人」
「……うん」
少年が控えめに頷いた。未だにこちらと視線は合っていない。
「三上」
「どうしました?」
「ここから出してくれ」
数秒黙った後、無言のままゆっくりとこちらに近づいてきた。
「それが先輩の答えですか」
どこか冷めたような、そんな声色で鍵を取り出した。青色のリボンに二つの鍵が通されている。それを檻の中へと投げた。
「一つ嘘をつきました。玄関は内側からなら、普通に出ていけます」
少しばかり引き止められるような気もしていたから、こうもあっさりなのは驚いたけど、三上の中では全て答えが決まっているような気がした。
鍵を取って、背中を向けている三上へと声をかける。
「……ごめんな、でもあいつには優しくしてやれよ」
「……っ」
二つの鍵が床に落ちた。言いたいことは沢山あったけど、それは全て言い訳とか、そんなものにしかならないから押さえ込む。

感想 0

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

先生と俺

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 ある夏の朝に出会った2人の想いの行方は。 二度と会えないと諦めていた2人が再会して…。 Rには※つけます(7章)。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

5時間の向こう側

Lillyx48
BL
一度離れた2人が再会するお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。