白の部屋

迷空哀路

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5〈手紙〉

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「封筒? また手紙かなぁ」
声色はそこまでキツくないものの、顔は強張っていた。

『リツ~これを見つけるまで、そんなに時間はかからないハズだよね? 部屋をひっくり返せばすぐに見つかるハズ。
でもね、知ってる? ひとつ知ることは、ひとつ希望を失うんだよ。この場合は、どんどん選択肢が減っていくだけ。
あれあれ? 脱出でもできると思った? どこから? そんなものあった? 壁を壊してみる? 抜け穴とか探してみる? 
んー君ならやるんだろうけど、あんまり危ないことはしちゃダメだよ。そういうのはそこのでかい奴の仕事。リツは傷ついちゃダメだから。
どーする。どーする? このまま食べ物と水がなくなるのを怯えるだけの日々を過ごす?
あーいいね。その頃にはちっぽけなプライドも何もかもなくなって、僕なんかにも縋りついてくるハズだから。あはは、可愛いねぇ弱った人間っていうのは……。
まぁでも僕は君を愛しているから、あんまり可哀想なことはさせたくないんだ。そこの食べ物でよかったらいくらでも食べていいよ。餓死なんかさせないから。
じゃあここまで来た君に少し教えてあげよう。
ここはとある部屋の中に作った部屋。入り口も出口も存在しない。もしかしたら空中に浮かんでいるのかもしれないね? そしたら上も下も存在しないかもしれない。
でも、ここから出る方法はある。律、君が僕を選ぶことだ。
僕は見ているから、決まったらいらないものを消して。君のために作ったその部屋で、君の不必要を、可愛い君の手で――消して。』

「……っ」
「……こんなの」
いくら探したって、出られるところなんかない。ここから出るには……。視線はそっちに向いていた。今は写真の中に紛れている……ナイフに。
「……はっ」
呆れたようなため息が出た。消してって……ナオを殺せってことか? 冗談じゃない、そんなことするはずないだろ。そう思って隣を見ると、やけに穏やかな顔をしていた。
「んーまぁこんなところに連れてきちゃうぐらいだから、それなりに過激なことはするんだろうなと思ってたんだ。初めは飢え死にする前に何だろう……犯人? の望み? でも探すのかと思ってたけど、これが目的かぁー」
「……おい」
まるで外れたおみくじかのように軽い調子で紙を畳むので、思わず腕を掴んでいた。
「リツ?」
「……俺は、しない」
ハナからそんな選択肢はない。まだ身に直接的な危害が与えられていないから、実感が湧いていないだけかもしれない。でも、可能性がゼロということもないだろう。自分も、こいつも死なせない。こんな奴の手を取ることもあり得ない。
もし、本当に危機が来たとしたら……その時は二人で、この空間で……。
ぎゅっと掴んでいた手を、上から触れられてびっくりした。心配そうな顔で覗き込まれている。
「……リツ」
「……とりあえず、お前も俺も死なせないから」
「ふふ、自信満々だね」
前にこいつから言われたような台詞を言っていることに気づいて、口を閉じた。恥ずかしさを誤魔化す為に引き出しを戻す。
「あと見てないのは……あれぐらいかな」
恐らく中身はペットボトルと保存食だろうが、一応見ておくに越したことはない。
二人で箱を持ち上げて、床に落とした。次の箱にも同じようなものしか入っていない。でもこれだけあれば随分持ちそうだ。
次は違う食品でも入っていないだろうかと、箱を開いた。中には食品に紛れて、一回り小さいダンボールが入っていた。ガムテープで止められている。
「また何か変なものが……」
「開けてみようか」
ハサミでテープを切った。慎重に開けてみると、黒い布に何か包まれている。ところどころが盛り上がっていた。
「……えっ」
包みを開いて、二人で同じような声が出る。中身はまた先ほどと同じような写真だった。でもあれとは何か違う。
「……これお前の」
そうだ。今度写っていたのはナオの姿ばかりだ。色んな場所で、最近のものから……俺の知らない服を着たものもある。放心してそれを眺めていると、震えた声が聞こえてきた。
「……リツ、ごめん」
「なんで、お前が謝るんだよ」
その顔は悲しそうで、苦しそうだった。胸がギュッと痛めつけられる。怒りからなのか、体の奥底で火が灯ったように熱くなってきた。
「なにか、知ってるのか」
ナオはゆっくりと首を動かした。
「今のことと関係あるのかは分からない……でもね、思い出したことがあるんだ」
「……っ」
こちらを見ずに話す姿は、なんだか久しぶりだと思った。
「あのね……まだリツと出会う前のことなんだ。そのリツも知ってた通り、前に俺……ちょっと荒れてたっていうか、そういう時があったでしょ。あの時に……」
懐かしいと思った。セピア色の加工をしたみたいに声と表情に影ができる。こういう時のこいつは、嫌いではない。
「大学で歩いてた時に、急に話しかけられたんだ。どこから走ってきたの? って感じで、荒い息を吐きながら膝に手をついてさ……結構衝撃的だったからその瞬間だけ覚えてるんだよね。チェックのシャツで下はジーンズかな。で、髪が長くてよく顔は見えなかったんだけど……それよりびっくりしたのはその後。手紙を渡されたんだ」
まるでタバコを吐くような仕草で、ため息が漏れた。
「手紙?」
「なんかね、可愛い封筒だったよ、ピンクの。だから俺は隣にいた女の子に言ったんだと思ったよ。でもずっと視線は真ん中から逸れないの。手紙を受け取らない俺に痺れを切らしたのか、突然大声で貴方が好きですって叫ばれた。……はは、この話はみんな覚えてるんじゃないかな、結構の人に見られていたからね。……はぁここで優しく断ってたらよかったのかな。友達も女の子もいたし、つい酷いことを言っちゃったんだよね。その後から見てないんだけど……それから何ヶ月か経った頃、ストーカー紛いのことが始まったんだ」
その言葉で思い出した。父さんが再婚を決める前に、あれこれ自分に聞いてきた事を。ポストに入ってたものは指紋がついているかもしれないから、手袋をつけたほうがいいよな? 何て聞いてきた時には、てっきり何かやらかしたのかと思ってたけど……。
他にも防犯カメラの種類だったり、盗聴がどうのとかあったっけ。そんなの俺だって詳しいわけないだろと返事してたけど。
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