3 / 139
1話 夏の海と真珠と魚
03.「公平を期しての」くじ引き
しおりを挟む
一応のフォローを終えた運営達はギルドマスターに経過を報告すべく、まるで潮が引くような勢いで片付けを終え去って行った。後には自分とアロイス、そしてかなり離れた所で様子を伺っているナターリアだけが残される。
大きく呼吸したメイヴィスは、チラリとアロイスの様子を伺った。いつもは遠目から見ているだけのアイドル的存在は最後、運営ズに渡された資料に目を通しているようだ。
床とアロイスの顔、視線を行き来させながら何と声を掛けるべきか逡巡する。
というか、このままマトモに会話出来なかったらどうしよう。現状、顔を見るだけで心拍数は上がり、声を掛けられるだけで頭が爆発するくらいには緊張するのだが。
ふふっ、と含んだような笑い声が聞こえて来た。恐る恐るアロイスの様子を伺う。僅かに口角を上げた彼が、先程よりゆっくりと言葉を紡いだ。
「慣れてきたか?」
「え、あ」
「そう焦らなくていい。今日1日俺は暇だからな。しかし、その夏のイベントとやらはもうすぐなのだろう?今日はそれだけ説明出来るくらいには慣れてくれ」
「あ、はい」
――ちなみに。別に人見知りする方ではない。フリーの錬金術師なぞ客商売なのだから当然のスキルなのだが、この慌てっぷりを鑑みると酷く恥ずかしい気分になってきた。
自己嫌悪に陥りだしたところで、少し落ち着いたと思われたのかアロイスが再び口を開く。しかし、視線は例の資料に落とされたままだ。
「本名、メイヴィス・イルドレシアとなっているが……。メヴィは愛称か?」
「え、あー、はい。……ん?」
そういえば自己紹介しなかったな、と一瞬だけ考えて、今の会話が酷く不自然な事にも気付いた。
それは資料を見た上で出た質問なのだろうか。
ぺら、とアロイスがホッチキスで留められた資料の1枚目を捲る。その左端に見慣れた自分の顔写真を発見した所で合点がいった。
――それ!私の!履歴書じゃん!!
何と言う事だろう。うちのギルドにはプライバシーという言葉が存在しないのだろうか。人の履歴書を勝手に見せるな。しかも証明写真は――証明写真に限らず、写真写りが悪くて死にかけの魚のような覇気のなさ。勘弁してくれ。
履歴書を取り戻さなければ。一昨年のデータを人目に触れさせるなど冗談ではない。何より、こんな綺麗な人に平民であり凡々人である自分のプロフィールなど見せられたものではないだろう。
「あ、のー。それ私の履歴書……返して貰っていいですか?」
「ん?ああ、さっきの彼女達に渡されたが、確かに人の個人的な書類を覗くのは趣味が悪かったな」
思ったよりあっさりと履歴書が戻って来た。
よし、喋り方を忘れたかのような言語能力から回復してきたし、そろそろ夏のボランティアイベントについて彼に説明しなければならない。
「あの!そろそろ説明します」
「ああ、頼む」
夏のボランティアイベントとは。
コゼット・ギルドを含む王都の三大ギルドが交代で行う、アルト・ビーチでのボランティア作業の事だ。うちのギルドでは丁度明後日からがボランティアの期間で、これは何があっても毎年やらなければならない行事のようなものである。
不慣れなメンバーは2人一組くらいで、アロイスは完全に新人なので誰か着いていなければならない。
「――と言うわけです」
「主な仕事は何をするんだ?」
「えっと、浜辺に現れる魔物の討伐とか、です」
「そうか。人が集まる場所には魔物が寄って来やすいからな。何か用意する物はあるか?」
「無いですけど……。暇な時は遊んでていいそうですよ。というか、大体いつも暇ですね。濡れても大丈夫な格好が良いと思います」
「分かった。当日はどこで落ち合う?」
ギルドに一度集合してもいいが、それではアルト・ビーチまで精神が保たなそうなので、現地集合にした。
「現地で。海の家にいます」
「了解した。何かあればまた訊きに来る。俺は今から昼を摂りに行くが、お前はどうする?」
「あっ、わ、私はお昼食べました!」
そうか、と頷いたアロイスは手を振ると食堂の方へ歩いて行った。腹が減っていただろうに、自分に何十分も付き合う姿勢を見せる優しさ。
ぼんやりと後ろ姿を見送っていると、肩を叩かれた。ナターリアだ。
「良かったね、メヴィ!これでラブラブ浜辺デートができるよっ!」
「話ブッ飛び過ぎッ!いや、緊張した。当日これ大丈夫かな、私」
「大丈夫だってっ!」
それにほとんど出来レースのようなくじ引きだったが、それに周囲は納得するのだろうか。それをナターリアに聞いてみると、彼女はうっすらと笑みを浮かべた。
「アロイスさんって近付き難いでしょ?実際はそんな人じゃないだろうけど。だから、今日までのメヴィみたいに遠巻きで良いって言う子が多いみたいっ!不満があるのなら、くじ引きに参加しなかったその子達が悪いんだよ!」
「い、苛めとかに発展しそうな言い分……!あのくじ引き、出来レースだったけど私以外にも普通の参加者がいたら、普通にくじ引きだったのかな?」
「そうだよ。だって公平を期してるのに、メヴィにだけ有利だったらズルいでしょっ!」
実際には他の人はいなかった訳だが。
楽しんでおいでよ、とナターリアに背を叩かれる。獣人の凶悪な腕力で口から内臓が飛び出しそうになった。
大きく呼吸したメイヴィスは、チラリとアロイスの様子を伺った。いつもは遠目から見ているだけのアイドル的存在は最後、運営ズに渡された資料に目を通しているようだ。
床とアロイスの顔、視線を行き来させながら何と声を掛けるべきか逡巡する。
というか、このままマトモに会話出来なかったらどうしよう。現状、顔を見るだけで心拍数は上がり、声を掛けられるだけで頭が爆発するくらいには緊張するのだが。
ふふっ、と含んだような笑い声が聞こえて来た。恐る恐るアロイスの様子を伺う。僅かに口角を上げた彼が、先程よりゆっくりと言葉を紡いだ。
「慣れてきたか?」
「え、あ」
「そう焦らなくていい。今日1日俺は暇だからな。しかし、その夏のイベントとやらはもうすぐなのだろう?今日はそれだけ説明出来るくらいには慣れてくれ」
「あ、はい」
――ちなみに。別に人見知りする方ではない。フリーの錬金術師なぞ客商売なのだから当然のスキルなのだが、この慌てっぷりを鑑みると酷く恥ずかしい気分になってきた。
自己嫌悪に陥りだしたところで、少し落ち着いたと思われたのかアロイスが再び口を開く。しかし、視線は例の資料に落とされたままだ。
「本名、メイヴィス・イルドレシアとなっているが……。メヴィは愛称か?」
「え、あー、はい。……ん?」
そういえば自己紹介しなかったな、と一瞬だけ考えて、今の会話が酷く不自然な事にも気付いた。
それは資料を見た上で出た質問なのだろうか。
ぺら、とアロイスがホッチキスで留められた資料の1枚目を捲る。その左端に見慣れた自分の顔写真を発見した所で合点がいった。
――それ!私の!履歴書じゃん!!
何と言う事だろう。うちのギルドにはプライバシーという言葉が存在しないのだろうか。人の履歴書を勝手に見せるな。しかも証明写真は――証明写真に限らず、写真写りが悪くて死にかけの魚のような覇気のなさ。勘弁してくれ。
履歴書を取り戻さなければ。一昨年のデータを人目に触れさせるなど冗談ではない。何より、こんな綺麗な人に平民であり凡々人である自分のプロフィールなど見せられたものではないだろう。
「あ、のー。それ私の履歴書……返して貰っていいですか?」
「ん?ああ、さっきの彼女達に渡されたが、確かに人の個人的な書類を覗くのは趣味が悪かったな」
思ったよりあっさりと履歴書が戻って来た。
よし、喋り方を忘れたかのような言語能力から回復してきたし、そろそろ夏のボランティアイベントについて彼に説明しなければならない。
「あの!そろそろ説明します」
「ああ、頼む」
夏のボランティアイベントとは。
コゼット・ギルドを含む王都の三大ギルドが交代で行う、アルト・ビーチでのボランティア作業の事だ。うちのギルドでは丁度明後日からがボランティアの期間で、これは何があっても毎年やらなければならない行事のようなものである。
不慣れなメンバーは2人一組くらいで、アロイスは完全に新人なので誰か着いていなければならない。
「――と言うわけです」
「主な仕事は何をするんだ?」
「えっと、浜辺に現れる魔物の討伐とか、です」
「そうか。人が集まる場所には魔物が寄って来やすいからな。何か用意する物はあるか?」
「無いですけど……。暇な時は遊んでていいそうですよ。というか、大体いつも暇ですね。濡れても大丈夫な格好が良いと思います」
「分かった。当日はどこで落ち合う?」
ギルドに一度集合してもいいが、それではアルト・ビーチまで精神が保たなそうなので、現地集合にした。
「現地で。海の家にいます」
「了解した。何かあればまた訊きに来る。俺は今から昼を摂りに行くが、お前はどうする?」
「あっ、わ、私はお昼食べました!」
そうか、と頷いたアロイスは手を振ると食堂の方へ歩いて行った。腹が減っていただろうに、自分に何十分も付き合う姿勢を見せる優しさ。
ぼんやりと後ろ姿を見送っていると、肩を叩かれた。ナターリアだ。
「良かったね、メヴィ!これでラブラブ浜辺デートができるよっ!」
「話ブッ飛び過ぎッ!いや、緊張した。当日これ大丈夫かな、私」
「大丈夫だってっ!」
それにほとんど出来レースのようなくじ引きだったが、それに周囲は納得するのだろうか。それをナターリアに聞いてみると、彼女はうっすらと笑みを浮かべた。
「アロイスさんって近付き難いでしょ?実際はそんな人じゃないだろうけど。だから、今日までのメヴィみたいに遠巻きで良いって言う子が多いみたいっ!不満があるのなら、くじ引きに参加しなかったその子達が悪いんだよ!」
「い、苛めとかに発展しそうな言い分……!あのくじ引き、出来レースだったけど私以外にも普通の参加者がいたら、普通にくじ引きだったのかな?」
「そうだよ。だって公平を期してるのに、メヴィにだけ有利だったらズルいでしょっ!」
実際には他の人はいなかった訳だが。
楽しんでおいでよ、とナターリアに背を叩かれる。獣人の凶悪な腕力で口から内臓が飛び出しそうになった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※基本週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる