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1話 夏の海と真珠と魚
06.無銘の錬金術師と元・王属騎士
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ややあって、緊張の息を吐き出すようにふっとアロイスは息を漏らした。
「――もしお前にそれをする技量があるのであれば、やはりここで燻っているような人材ではないのだろうな。勿体ない事だ」
「こんなの、誰だって出来ますよ……。その、手法を教えてくれたのは私の、師匠だったし」
「王属錬金術師の技量が低いという事か。だがしかし、最早王都の事に関しては俺が口を挟む問題ではないが。良ければ、俺にもお前の作品を見せてはくれないか?」
視線をさ迷わせる。今日は何か自作のマジック・アイテムを持ち込んでいただろうか。いつもは予備を4つ、5つ持ち合わせているが、今日はシャツの下が水着。穿いているズボンも水着。
ポケットがあるあたりに手を突っ込んでみる。最近の水着というのは何故かポケットも着いているらしく、するりと手が入っていった。コツンと硬い感触が指先に当たる。相当浮かれて準備をしていたから、護身アイテムを忘れている可能性も危惧していたが杞憂だったようだ。
それを取り出してみれば日光を受けて透明度の高い青色の光を撒き散らした。吸い込まれそうな青――これは譲って貰った傷物のサファイアで作った代償魔法発動用のマジック・アイテムだったはずだ。
ゆっくりと日光に透かしてみれば、深い大きな傷が付いたサファイアの内部に金色の魔法式が刻み混まれている。
「ほう。見事なものだ。マジック・アイテムの類か」
「あっ、はい」
「どんな効果がある?」
――錬金術馬鹿と名高い自分に、錬金術の話題を振って来るメンバーはいない。
人付き合いが苦手な人間の特徴。自身の独壇場になるとトークがまさにノンストップ。相手に口を挟む余地すら与えないマシンガンを乱射するかのように口が止まらなくなるからだ。
案の定、一瞬だけ言葉を詰まらせたメイヴィスはしかし、次の瞬間今までのしどろもどろさが全て演技だったかのように滑らかに口を開いた。
「これっ、これ、宝石屋の護衛クエストを引き受けた時に、店主から貰った傷物のサファイアで作ったんです。代償魔法の応用で!致命傷になりかねない攻撃をどんなものでも一度だけ反射するように出来てます!」
「それは、興味深いな」
「だって宝石の価値は万国共通なんですよ!私達人間は宝石に傷が入っていたら価値が下がると思っていますが、傷が付いているだけでサファイアの成分とか何とかに違いは無いんです。だから、傷物だろうが何だろうか等しく平等に!代償魔法は発動出来るんです!凄いですよね魔法って!」
「……代償魔法か」
「代償魔法って言うのは、召喚術と錬金術の応用で出来ています。錬金術によって術式を埋め込まれた物質を媒介に、不自然現象を召喚する!20年程前には人体にそれを描き込んだ大魔道士もいるとか……!それで――はっ」
不意に我に返る。白熱して1人で喋っていたが、見ればアロイスは少しばかり苦笑しているようだった。当然である。
恥ずかしさで固まったメイヴィスを余所に、アロイスが手を差し出す。
「近くで見ても良いだろうか」
「あ、はい、どうぞ。あの、何なら差し上げますよ。それ」
「お前の護身アイテムだったんじゃないのか?」
「いや、多分、私より……アロイスさんの方が、その、大変な目に遭いそうっていうか。危険な橋を渡ってそう、っていうか……」
「ふっ、それもそうだな。有り難く受け取ろう」
サファイアの中にある術式を物珍しげに覗き込むアロイス――はっきり言って、眼福ものである。
一頻りそれを眺めたアロイスが不意に浜辺に視線を移す。
「ど、どうしたんですか?」
「そういえば、お前は海で遊ぶような格好をしているな」
――今更!?
とは思ったが恐らく最初から気付いていたに違い無い。メイヴィスは動揺をおくびにも出さず、はい、とだけ答えた。
「思えば錬金術師だと言っていたし、ここにも素材を集めに来たのだろう?」
「えっ!?……いや、あ、はい!実は!」
ガッツリ遊ぶつもりで来たのだが、そういう事にしておいた。感心したように頷く憧れの人を見ていると否定出来なかったからだ。
それに、海洋物は海のエネルギーというか、そういった類の力を秘めている。相性の良い代償魔法もある事だし集められるのならその方が良い。そう、きっとそうだ。
自身を何故か無理矢理納得させる。
そうこうしているうちに、アロイスがその場から立ち上がった。
「海は凪いでいるな。アイテムの礼だ、俺も素材の回収を手伝おう。今は魔物がいる様子でもない」
「は!?え、でも、手が汚れますよ、多分」
「今更だな。それに、折角の海だ。俺も波打ち際へ近付いてみたい。この服装では海水に浸かるのが難しいだろうが」
心なしか楽しそうだ。断る気も勿論無いし、よくよく考えてみれば波打ち際のお散歩――
要らない思考をした。意識しだすと途端に顔が熱くなる。一昨日まで数十メートルは離れた距離にいたその人と、今日は50センチくらいの距離にいるという事実。人生って何が起きるか分からない。
静かに決心を固め、昂ぶる精神を鎮めているとアロイスに呼ばれた。怪訝そうな声音で。なお、昂ぶる精神を鎮める事は出来なかった。
「――もしお前にそれをする技量があるのであれば、やはりここで燻っているような人材ではないのだろうな。勿体ない事だ」
「こんなの、誰だって出来ますよ……。その、手法を教えてくれたのは私の、師匠だったし」
「王属錬金術師の技量が低いという事か。だがしかし、最早王都の事に関しては俺が口を挟む問題ではないが。良ければ、俺にもお前の作品を見せてはくれないか?」
視線をさ迷わせる。今日は何か自作のマジック・アイテムを持ち込んでいただろうか。いつもは予備を4つ、5つ持ち合わせているが、今日はシャツの下が水着。穿いているズボンも水着。
ポケットがあるあたりに手を突っ込んでみる。最近の水着というのは何故かポケットも着いているらしく、するりと手が入っていった。コツンと硬い感触が指先に当たる。相当浮かれて準備をしていたから、護身アイテムを忘れている可能性も危惧していたが杞憂だったようだ。
それを取り出してみれば日光を受けて透明度の高い青色の光を撒き散らした。吸い込まれそうな青――これは譲って貰った傷物のサファイアで作った代償魔法発動用のマジック・アイテムだったはずだ。
ゆっくりと日光に透かしてみれば、深い大きな傷が付いたサファイアの内部に金色の魔法式が刻み混まれている。
「ほう。見事なものだ。マジック・アイテムの類か」
「あっ、はい」
「どんな効果がある?」
――錬金術馬鹿と名高い自分に、錬金術の話題を振って来るメンバーはいない。
人付き合いが苦手な人間の特徴。自身の独壇場になるとトークがまさにノンストップ。相手に口を挟む余地すら与えないマシンガンを乱射するかのように口が止まらなくなるからだ。
案の定、一瞬だけ言葉を詰まらせたメイヴィスはしかし、次の瞬間今までのしどろもどろさが全て演技だったかのように滑らかに口を開いた。
「これっ、これ、宝石屋の護衛クエストを引き受けた時に、店主から貰った傷物のサファイアで作ったんです。代償魔法の応用で!致命傷になりかねない攻撃をどんなものでも一度だけ反射するように出来てます!」
「それは、興味深いな」
「だって宝石の価値は万国共通なんですよ!私達人間は宝石に傷が入っていたら価値が下がると思っていますが、傷が付いているだけでサファイアの成分とか何とかに違いは無いんです。だから、傷物だろうが何だろうか等しく平等に!代償魔法は発動出来るんです!凄いですよね魔法って!」
「……代償魔法か」
「代償魔法って言うのは、召喚術と錬金術の応用で出来ています。錬金術によって術式を埋め込まれた物質を媒介に、不自然現象を召喚する!20年程前には人体にそれを描き込んだ大魔道士もいるとか……!それで――はっ」
不意に我に返る。白熱して1人で喋っていたが、見ればアロイスは少しばかり苦笑しているようだった。当然である。
恥ずかしさで固まったメイヴィスを余所に、アロイスが手を差し出す。
「近くで見ても良いだろうか」
「あ、はい、どうぞ。あの、何なら差し上げますよ。それ」
「お前の護身アイテムだったんじゃないのか?」
「いや、多分、私より……アロイスさんの方が、その、大変な目に遭いそうっていうか。危険な橋を渡ってそう、っていうか……」
「ふっ、それもそうだな。有り難く受け取ろう」
サファイアの中にある術式を物珍しげに覗き込むアロイス――はっきり言って、眼福ものである。
一頻りそれを眺めたアロイスが不意に浜辺に視線を移す。
「ど、どうしたんですか?」
「そういえば、お前は海で遊ぶような格好をしているな」
――今更!?
とは思ったが恐らく最初から気付いていたに違い無い。メイヴィスは動揺をおくびにも出さず、はい、とだけ答えた。
「思えば錬金術師だと言っていたし、ここにも素材を集めに来たのだろう?」
「えっ!?……いや、あ、はい!実は!」
ガッツリ遊ぶつもりで来たのだが、そういう事にしておいた。感心したように頷く憧れの人を見ていると否定出来なかったからだ。
それに、海洋物は海のエネルギーというか、そういった類の力を秘めている。相性の良い代償魔法もある事だし集められるのならその方が良い。そう、きっとそうだ。
自身を何故か無理矢理納得させる。
そうこうしているうちに、アロイスがその場から立ち上がった。
「海は凪いでいるな。アイテムの礼だ、俺も素材の回収を手伝おう。今は魔物がいる様子でもない」
「は!?え、でも、手が汚れますよ、多分」
「今更だな。それに、折角の海だ。俺も波打ち際へ近付いてみたい。この服装では海水に浸かるのが難しいだろうが」
心なしか楽しそうだ。断る気も勿論無いし、よくよく考えてみれば波打ち際のお散歩――
要らない思考をした。意識しだすと途端に顔が熱くなる。一昨日まで数十メートルは離れた距離にいたその人と、今日は50センチくらいの距離にいるという事実。人生って何が起きるか分からない。
静かに決心を固め、昂ぶる精神を鎮めているとアロイスに呼ばれた。怪訝そうな声音で。なお、昂ぶる精神を鎮める事は出来なかった。
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