アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

文字の大きさ
5 / 139
1話 夏の海と真珠と魚

05.無銘の錬金術師と元・王属騎士

しおりを挟む
 仕切り直すように、メイヴィスは視線をさ迷わせる。何か良い感じの話題は――

「お前は普段、何をしているんだ?」

 先手を打たれた。アロイスの視線は海に釘付けだが、質問の意図が上手く頭に伝達されない。普段?普段って何だ。
 混乱している事を読み取ったのか、アロイスが僅かに苦笑した。

「何か趣味とかはあるのか?」

 ――お見合いみたいだ!
 ご趣味は何ですか、と脳内に勝手に湧いた見ず知らずの女性がこれまた見ず知らずの男性に尋ねるイメージが奔る。

「え、っと……。私、自称・錬金術師で」
「ほう。錬金術師……。前の職場にもいたな、数名程。しかし、何故錬金術師がギルドに所属している?」
「平民の出の、その、私みたいなのは……雇ってくれるところが無いんです」

 名が知れれば或いは、とも言うが結局は錬金術師の技量で良い職場に就ける訳では無い。出自と運と、そして少しの技量。それが華やかに見える錬金術師の社会法則だ。生まれが平民であるという事は即ち、ゼロどころかマイナスからのスタートになる。
 錬金術で食って行きたいと思うのならば、自分はスタート位置の後方から走り出しているが為に、人より全力にそして速やかに走らなければならないだろう。

 という事実を説明する為の語彙力がアロイスに吸い取られたので、それが彼に伝わったのかは定かではない。しかし、目を細めて微かに頷いたのが見て取れた。

「それは先王も危惧していた問題だったな」
「先王?アロイスさん、その、失礼だったら良いんですけど、前は何を?」
「王属騎士をしていた。こちらにも事情があって、今は辞めてしまったが」
「あ、ああ、そうなんですか」

 訊いてはいけない事を訊いてしまった。
 王属騎士など、王宮を出入りする王の護衛を受けるような騎士だ。まずお目に掛かれる事は無い。
 言うまでも無く、アウリッシュ王国出身ならばそれは非常に名誉な事だ。騎士という職の目指すべきゴールとも言える。

 それを、辞めた。
 怪我をして一戦を退かなければならなくなっただとか、先王の名前を持ちだしてくるにあたり、現王のシーザー・グランデと折り合いが悪かっただとかそんな理由に違い無い。

 更に言うと、やはり自分とアロイスでは住む世界が違う。いっそ人種が違うくらいの差がある。

「――アーサー王がご存命であれば、お前の力量次第では王宮にパイプしても良かったのだがな」
「えっ、あ、いや、私なんてそんな大したもんじゃ……」
「所詮は机上の空論だが。これも何かの縁だ、俺は見ての通り暇だからな。何か手助けが必要なら声を掛けろ。勘違いならば悪いが、お前は戦闘クエストを受けられる程、物理的な強さは持っていないように思える」

 さらりと話題を変えたが、凄い事を今口走らなかっただろうか。この人、先王統治時代であったのならば平民を王への口利きで王宮に入れられるような人物だったとしか思えない。
 急に現実へ引き戻される心地を味わいつつ、しかし、覗かせた下心を包み隠せなかった。

「実は、その……私お金がいつも必要なんですけど、高額のクエストに行けなくて困ってるんです。ほら、私、戦闘スキルを持たないからただのお荷物だし」
「その高額クエストがどのようなものか知らないので断言出来ないが、必要なら俺に声を掛けるといい。辞めたとは言え騎士だった身、人助けには慣れている」
「ぐぅっ……!」
「?」

 至近距離で綺麗な笑顔を見てしまい、変な声が漏れた。慌てて茶を飲む。さっきは味を感じなかったが、よくよく味わってみると心底苦かった。これは失敗である。

「そうだ、お前は錬金術師だと言ったな。俺はそっち方面には疎いのだが、何を作るんだ?この大剣は王宮錬金術師に設計して貰ったものだが」
「ああ、大きな釜があれば……作れそうですよね」

 今は下ろされて砂の上に横たわっている大剣をちらりと見る。自分が持っている錬金用の釜では、これをすっぽり収める事など出来ない。釜より一回り小さな物しか造れないからだ。
 ――どうしよう、これを見てしまうと私のアイテムのショボさが際立つな。
 それに、武器は専門外だ。余程で無い限り、人が振るう武器を錬金術で生成する事は無い。あくまで武器類は鍛冶士に打って貰った方が完成度が高くなるからだ。

 しかし、アロイスの大剣は明らかに特注品。あれを打つとなると狭い鍛冶屋では無理かもしれない。

「あの、ちょっと訊いてもいいですか?」
「ああ、何でも訊いてくれ。とはいえ、俺に答えられる事などそうはないが」
「いやっ、その……その大剣って、何の魔法式を……?」
「これはただの鉄の塊だな」
「魔法は使わないんですか?」
「使う。俺は――俺に限らず、騎士は大抵魔法も使うな。斬り合っている時に詠唱は舌を噛みそうで危険だし、魔法式は起動に気を取られ過ぎる。と言うわけで儀式魔法を使う輩が多い」
「はぁ……。だったら、剣の腹にでも魔法式を組み込めば任意で発動出来たのでは?」
「……それが出来れば苦労はしない」

 それは――それは、王宮錬金術師は武器の表面に魔法式を組み込む事も出来ない、という意味なのだろうか。それとも、この大剣には術式を組み込めなかった、という意なのだろうか。

 ちなみに儀式魔法とは、主にステップや動作などで魔法を発動させる手法だ。
 神に捧げる大規模魔法なんかを編む儀式魔法と、既存の魔法を威力と引き替えにショートカットで呼び出す簡易儀式魔法がある。アロイスが先程から言っているのは後者だ。斬り結んでいる時のステップなどで、目眩まし程度の魔法を呼び出すのだろう。

「あの、迷惑でなければ……、大きな釜さえ手に入れば再錬金しますよ」
「何?」
「ひっ……。いやその、戦闘の事とかよく分からないですけど、ほら、すでに描かれている状態なら、あれじゃないですか。あの、ほらあれ、そう、魔法式を起動させた方が楽で良いでしょう?」

 不気味な沈黙が場に満ちる。アロイスは最早海から視線を外し、メイヴィスをまんじりと見つめていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※基本週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...