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2話 花の咲く家
04.騎士同盟のルール
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「そういえば、メイヴィス殿は錬金術師としてギルド内では結構有名だとか」
「ああ、それは俺も思ったよ。騎士は公務員みたいなものだからな、錬金術師もてっきりそうかと……。フリーもいたんだな」
ヒルデガルトの言葉にヘルフリートが同意する。確かに野良錬金術師はあまりいないかもしれない。研究費が掛かるし、何より地味であまり人気が無いからだ。魔法を扱うのもそうだが、魔道職は少なからずセンスが必要とされる役職。
そして――センスのある人物が、必ずしも魔道職を歩む訳では無いのだ。センスと個性、それらの円が重なった、丁度少しの人口しかいないという事実は受け止めて欲しい。
つまり何が言いたいかと言うと。
「フリーで錬金術師をやってると、確実に食いっぱぐれますからね……。自慢したい訳じゃないですけど、私はまだ成功してる方ですよ。ギルドも良い所に入れましたし」
と言うわけだ。
端的に言って、自分はかなり運が良かった。大きなギルドに入る事が出来、その上、売る場所があるのでマジック・アイテムをある程度の値で売る事も可能。錬金術師の道に躓く事はあれど食うに困る事は余程ではない限り無い。
しかし、公務員である騎士連中はその言葉に難色を示した。
「問題だな。お前程の才能があっても、『まだ』成功している方か」
アロイスの少し恐い顔に対し、ヘルフリートは首を傾げる。
「と言うと、メヴィは良い腕なのか?まあ、さっき出て来た魔法道具を本当に作れるのなら、良い方なのか……」
「いや、俺が言いたい問題はそこではなく、結局は努力した者より生まれが重要視されるという話だ。お陰様でアウリッシュの錬金術は衰退の一途を辿って居るぞ」
「アウリッシュだけではありませんよ。大陸全土に言える事です。ちなみに、私の意見はアーノルド公国を見て来た上での発言ですので、まるっきり間違えなんて事はありません」
まあ何にせよ、と酷く冷めた様子でヘルフリートが話を締めくくった。興味が無い、と言うより自分達が口を挟むべき問題ではないと言わんばかりの調子だ。
「俺達がここで押し問答した所で、何かが変わる訳では無いでしょうね。騎士はあらゆる試練を受けてなれる者。間引きは丁度良い俺達が外野の職について論じたところで、説得力は皆無でしょう。俺達は成っている、者ですからね」
「まあ、そうだがな……」
「アロイス殿、実力は単純に言えば持ち得る力です。歴史はいつだってたった一人のずば抜けた強者に塗り替えられ、そちらに統合されるもの。それが現れるまで、待つ他無いんですよ。実の所」
「自然界の理だな。しかし、戦闘職と技術職ではまた違った話だとは思わないか?」
「だったら、貴方が王宮にでも行って直談判する他ありませんね」
僅かに目を見開いたアロイスはしかし、その首を横に振った。少しだけ険悪になった空気。それに気付いたのかもしれないし、王宮とは即ち陛下に直談判しろと言われている事に不敬だと腹を立てたのかもしれない。
一瞬の間を置いて、アロイスその人の口から出たのは実にテンプレートな受け答えだった。
「俺のような下賤の者が、今更王宮に近付ける訳が無いな。そんなに虫の良い話は無いだろうよ」
「……へぇ?」
「――前にもお前達とはそう約束したとは思うが、ここにいる『元騎士』は皆、腹に一物抱えた者ばかりだ。ヘルフリート、お前がどういう事情でここにいるのか、それを訊いたりはしない。が、それはお前も尊重すべきルールとして受け入れて貰わなければ困るな」
「……ええ、そういえばそうでしたね。失礼しました」
「いや、いい。王宮なぞの話になると突っ掛かって来る者がいる事は織り込み済みだ。俺の失言だったのだろうさ」
――口、挟み辛っ!
お騎士サマトークが始まってしまい、錬金術師のメイヴィスは言葉を失った挙げ句、目のやり場にも困ってしまい周囲を見回す。
が、ここで救世主が現れた。男達のやり取りを端で見ていたヒルデガルトだ。
「――そういう壮大な話は置いておいて。まずは我々に出来る事を始めましょう。緊急クエストに出発する、とか……」
「ふふっ、全くだな。空気を悪くして済まなかった。では出発しようか、オーガスト殿が緊急と判を押すくらいだ。それはそれは急ぎなのだろう」
流石は公務員を自称するだけある。クエストを始めるぞ、という空気になると険悪なムードを放っていたアロイスとヘルフリートの両者共、かっちりと態度を入れ替えた。スイッチがオンになるような、全く完璧な切り替えに舌を巻く。
「それで、クエストの場所はどこだったかな?」
「ええ、アウリッシュ王国、スティール村の民家です。住所が書いてあるので、村へ入ってからはこれを頼りに探しましょう」
「分かった。では行こうか。メヴィ、騒がしくして悪かった。俺達はこうやって言い争う事もたまにはあるけど、だからといって非力な非戦闘員を放置しておく程忘れっぽくはないから安心してくれよ!」
「はぁ……」
酷く頼りない言葉だったが、同じ言葉をアロイスから言われたらころっと信じてしまいそうなあたり、人柄って大事なんだなと思った。こう、ヘルフリートは会話をしやすい好青年だが、言葉に重みがない。
それが彼のスタイルであり、騎士である以上、有言実行型なのだろうが。印象とは扱いが難しいものだ。
「ああ、それは俺も思ったよ。騎士は公務員みたいなものだからな、錬金術師もてっきりそうかと……。フリーもいたんだな」
ヒルデガルトの言葉にヘルフリートが同意する。確かに野良錬金術師はあまりいないかもしれない。研究費が掛かるし、何より地味であまり人気が無いからだ。魔法を扱うのもそうだが、魔道職は少なからずセンスが必要とされる役職。
そして――センスのある人物が、必ずしも魔道職を歩む訳では無いのだ。センスと個性、それらの円が重なった、丁度少しの人口しかいないという事実は受け止めて欲しい。
つまり何が言いたいかと言うと。
「フリーで錬金術師をやってると、確実に食いっぱぐれますからね……。自慢したい訳じゃないですけど、私はまだ成功してる方ですよ。ギルドも良い所に入れましたし」
と言うわけだ。
端的に言って、自分はかなり運が良かった。大きなギルドに入る事が出来、その上、売る場所があるのでマジック・アイテムをある程度の値で売る事も可能。錬金術師の道に躓く事はあれど食うに困る事は余程ではない限り無い。
しかし、公務員である騎士連中はその言葉に難色を示した。
「問題だな。お前程の才能があっても、『まだ』成功している方か」
アロイスの少し恐い顔に対し、ヘルフリートは首を傾げる。
「と言うと、メヴィは良い腕なのか?まあ、さっき出て来た魔法道具を本当に作れるのなら、良い方なのか……」
「いや、俺が言いたい問題はそこではなく、結局は努力した者より生まれが重要視されるという話だ。お陰様でアウリッシュの錬金術は衰退の一途を辿って居るぞ」
「アウリッシュだけではありませんよ。大陸全土に言える事です。ちなみに、私の意見はアーノルド公国を見て来た上での発言ですので、まるっきり間違えなんて事はありません」
まあ何にせよ、と酷く冷めた様子でヘルフリートが話を締めくくった。興味が無い、と言うより自分達が口を挟むべき問題ではないと言わんばかりの調子だ。
「俺達がここで押し問答した所で、何かが変わる訳では無いでしょうね。騎士はあらゆる試練を受けてなれる者。間引きは丁度良い俺達が外野の職について論じたところで、説得力は皆無でしょう。俺達は成っている、者ですからね」
「まあ、そうだがな……」
「アロイス殿、実力は単純に言えば持ち得る力です。歴史はいつだってたった一人のずば抜けた強者に塗り替えられ、そちらに統合されるもの。それが現れるまで、待つ他無いんですよ。実の所」
「自然界の理だな。しかし、戦闘職と技術職ではまた違った話だとは思わないか?」
「だったら、貴方が王宮にでも行って直談判する他ありませんね」
僅かに目を見開いたアロイスはしかし、その首を横に振った。少しだけ険悪になった空気。それに気付いたのかもしれないし、王宮とは即ち陛下に直談判しろと言われている事に不敬だと腹を立てたのかもしれない。
一瞬の間を置いて、アロイスその人の口から出たのは実にテンプレートな受け答えだった。
「俺のような下賤の者が、今更王宮に近付ける訳が無いな。そんなに虫の良い話は無いだろうよ」
「……へぇ?」
「――前にもお前達とはそう約束したとは思うが、ここにいる『元騎士』は皆、腹に一物抱えた者ばかりだ。ヘルフリート、お前がどういう事情でここにいるのか、それを訊いたりはしない。が、それはお前も尊重すべきルールとして受け入れて貰わなければ困るな」
「……ええ、そういえばそうでしたね。失礼しました」
「いや、いい。王宮なぞの話になると突っ掛かって来る者がいる事は織り込み済みだ。俺の失言だったのだろうさ」
――口、挟み辛っ!
お騎士サマトークが始まってしまい、錬金術師のメイヴィスは言葉を失った挙げ句、目のやり場にも困ってしまい周囲を見回す。
が、ここで救世主が現れた。男達のやり取りを端で見ていたヒルデガルトだ。
「――そういう壮大な話は置いておいて。まずは我々に出来る事を始めましょう。緊急クエストに出発する、とか……」
「ふふっ、全くだな。空気を悪くして済まなかった。では出発しようか、オーガスト殿が緊急と判を押すくらいだ。それはそれは急ぎなのだろう」
流石は公務員を自称するだけある。クエストを始めるぞ、という空気になると険悪なムードを放っていたアロイスとヘルフリートの両者共、かっちりと態度を入れ替えた。スイッチがオンになるような、全く完璧な切り替えに舌を巻く。
「それで、クエストの場所はどこだったかな?」
「ええ、アウリッシュ王国、スティール村の民家です。住所が書いてあるので、村へ入ってからはこれを頼りに探しましょう」
「分かった。では行こうか。メヴィ、騒がしくして悪かった。俺達はこうやって言い争う事もたまにはあるけど、だからといって非力な非戦闘員を放置しておく程忘れっぽくはないから安心してくれよ!」
「はぁ……」
酷く頼りない言葉だったが、同じ言葉をアロイスから言われたらころっと信じてしまいそうなあたり、人柄って大事なんだなと思った。こう、ヘルフリートは会話をしやすい好青年だが、言葉に重みがない。
それが彼のスタイルであり、騎士である以上、有言実行型なのだろうが。印象とは扱いが難しいものだ。
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