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2話 花の咲く家
08.『子』
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手持ちのアイテムを探している間に、アロイスが背負った大剣をベルトから外す。対照的にヘルフリートは警戒したように後退った。怯え、という感情は伺えないが積極性も無いようだ。その手には双剣を持っている。
一方でヒルデガルトはメイヴィスの動きを牽制するように手を差し出している。これより前には出るな、と言われずとも分かる挙動だ。そんな彼女は空いた手で身の丈程もあるランスを持っている。
「あ、アロイス殿、どうしますか!?」
「真正面からやり合いたくはないが……やむを得まい。応戦し、隙を見て脱出するとしよう。確か、プロパガティオは火が弱点だ。大火ならば追い払う事が出来るかもしれん」
「承知しました……!」
臨戦態勢に入ると思われたヒルデガルトはしかし、腕で示したボーダーラインごと数歩下がった。下がった上で、こちらに顔を向ける。
「メイヴィス殿、危ないのでもっと離れていて下さい。出来れば貴方から離れない方が良いのでしょうが、状況が状況ですので」
「あ、ああ、はい」
「良いですか、奴が近付いて来たら出来るだけ遠くへ遠くへ避難して下さい。間違っても自ら奴の間合いに入らぬよう」
割と雑な避難誘導後、駆けて行ったヒルデガルトはアロイスの隣に並んだ。そのまま一言二言交わし、両者が反対方向へ走り出した。バラバラに動いて狙いを定めさせないようにしているのだろう。
――ヘルフリートさんは……?
壁際からチラと彼に視線を移す。一応、双剣を構えているその人はゾッとする程の無表情で2人の立ち回りを観察していた。
そのヘルフリートの視線が、メイヴィスへ向けられる。それまでの殺伐さが嘘だったかのように、人の良い笑みを浮かべられた。
「メヴィ、俺も今から出るが、くれぐれも気をつけてくれ!すぐには助けに入れないかもしれない」
「え?あ、はい」
「じゃ、後はよろしく。アイテムを使う時は、一度誰かに声を掛けてくれよ!」
軽い足取りでヘルフリートがプロパガティオの背後へ回る。アロイスが牛ならば、ヘルフリートは犬だ。彼等の戦闘スタイルは根本が違う。
当然のようにアロイスを囮にしたヘルフリートは神魔物の死角を的確に攻めていく。アロイスにばかり集中する攻撃をヒルデガルトが捌く――実に役割がはっきりと分担された、どこかバラバラでありながらも統率の取れた動き。
目を見張りながらも、ローブに突っ込んでいた手を引き抜く。ちらちら、と魔物の動きを追いながら握りしめたそれに視線を落とす。
それは丸いフォルム、手の平サイズのガラス玉だ。ただし、その中では煌々と小さな炎が揺れている。
――圧縮魔法錬金・火のエレメント。大規模な魔法を使用出来ない人間でもこれを投げつけるだけで今日から大魔道士、そんな売り出しで作ったマジックアイテムの一つだ。
ギルドにおわします魔女と評判の大魔道士に手伝って貰い、大規模魔法を展開して貰ってそれを圧縮し、ガラス玉の中に収めた。数ヵ所火傷した痛い思い出はあるものの、渾身の出来だと自負している。
が、一つだけ問題が。ここは何と室内。こんなものを炸裂させると、最悪家が一瞬で灰になってしまう事だろう。しかし、背に腹は代えられないか。仲間の命が懸かっている上、住民はすでにプロパガティオの一部と成り果ててしまった。
戦況に目を移す。
アロイスにはまだまだ余裕がありそうだが、ヒルデガルトはすでに満身創痍だ――
「退避!子を吐き出すぞ!」
鋭いアロイスその人の声。慌てた様子でこちらを見たヒルデガルトより先に、とても身軽なヘルフリートに腕を捕まえられた。
刹那。一番大きなプロパガティオの花弁と、伸びた蔓の間から何か小さい蠢く『何か』がわーっと出て来た。それはさながら、砂糖に群がる蟻のように。しかもそれはすぐに肉眼で捉えられる程に成長する。
先程までは豆粒程のサイズだったそれらは蝉が羽化するかのように、乾燥していた物が水に沈んで広がるように、大きく成長する。広げた手の平くらいの花弁を携え、植物であるはずの『子』は根を張ること無く真っ直ぐに人間へと向かって来た。
「メヴィ、一度家から出よう!奴等の脚力が発達しているようには見えない!」
「うわ!?」
ほとんど引き摺られるような形で玄関から外へ。他2人も逃げて来ると思われたが、ヘルフリートは叩き付けるようにドアを閉めてしまった。
「あ、アロイスさん達がまだ中に!」
「大丈夫だ、俺達が逃げられたんだから、あの人達が逃げられないはずがない」
「な、何だか変な説得力が……あ!そうだ、あの、炎の魔法を使えるアイテムを発見しました!」
「何、本当か!?でかしたぞ、メヴィ!早速それを奴にお見舞いしてやろう!」
「いやあの、実は一つ問題が。これ、大規模魔法を閉じ込めてあって、家は跡形もなく消し飛ぶ可能性があります」
僅かに目を見開いたヘルフリートは思案するように目を閉じた。ややあって、手を打つ。
「アロイス殿達に指示を仰ごう。そのアイテムは使い方を誤れば仲間を巻き込むだろうからな」
そうヘルフリートが言った直後だった。家の中から小さく何かが弾けるような音がしたのは。
一方でヒルデガルトはメイヴィスの動きを牽制するように手を差し出している。これより前には出るな、と言われずとも分かる挙動だ。そんな彼女は空いた手で身の丈程もあるランスを持っている。
「あ、アロイス殿、どうしますか!?」
「真正面からやり合いたくはないが……やむを得まい。応戦し、隙を見て脱出するとしよう。確か、プロパガティオは火が弱点だ。大火ならば追い払う事が出来るかもしれん」
「承知しました……!」
臨戦態勢に入ると思われたヒルデガルトはしかし、腕で示したボーダーラインごと数歩下がった。下がった上で、こちらに顔を向ける。
「メイヴィス殿、危ないのでもっと離れていて下さい。出来れば貴方から離れない方が良いのでしょうが、状況が状況ですので」
「あ、ああ、はい」
「良いですか、奴が近付いて来たら出来るだけ遠くへ遠くへ避難して下さい。間違っても自ら奴の間合いに入らぬよう」
割と雑な避難誘導後、駆けて行ったヒルデガルトはアロイスの隣に並んだ。そのまま一言二言交わし、両者が反対方向へ走り出した。バラバラに動いて狙いを定めさせないようにしているのだろう。
――ヘルフリートさんは……?
壁際からチラと彼に視線を移す。一応、双剣を構えているその人はゾッとする程の無表情で2人の立ち回りを観察していた。
そのヘルフリートの視線が、メイヴィスへ向けられる。それまでの殺伐さが嘘だったかのように、人の良い笑みを浮かべられた。
「メヴィ、俺も今から出るが、くれぐれも気をつけてくれ!すぐには助けに入れないかもしれない」
「え?あ、はい」
「じゃ、後はよろしく。アイテムを使う時は、一度誰かに声を掛けてくれよ!」
軽い足取りでヘルフリートがプロパガティオの背後へ回る。アロイスが牛ならば、ヘルフリートは犬だ。彼等の戦闘スタイルは根本が違う。
当然のようにアロイスを囮にしたヘルフリートは神魔物の死角を的確に攻めていく。アロイスにばかり集中する攻撃をヒルデガルトが捌く――実に役割がはっきりと分担された、どこかバラバラでありながらも統率の取れた動き。
目を見張りながらも、ローブに突っ込んでいた手を引き抜く。ちらちら、と魔物の動きを追いながら握りしめたそれに視線を落とす。
それは丸いフォルム、手の平サイズのガラス玉だ。ただし、その中では煌々と小さな炎が揺れている。
――圧縮魔法錬金・火のエレメント。大規模な魔法を使用出来ない人間でもこれを投げつけるだけで今日から大魔道士、そんな売り出しで作ったマジックアイテムの一つだ。
ギルドにおわします魔女と評判の大魔道士に手伝って貰い、大規模魔法を展開して貰ってそれを圧縮し、ガラス玉の中に収めた。数ヵ所火傷した痛い思い出はあるものの、渾身の出来だと自負している。
が、一つだけ問題が。ここは何と室内。こんなものを炸裂させると、最悪家が一瞬で灰になってしまう事だろう。しかし、背に腹は代えられないか。仲間の命が懸かっている上、住民はすでにプロパガティオの一部と成り果ててしまった。
戦況に目を移す。
アロイスにはまだまだ余裕がありそうだが、ヒルデガルトはすでに満身創痍だ――
「退避!子を吐き出すぞ!」
鋭いアロイスその人の声。慌てた様子でこちらを見たヒルデガルトより先に、とても身軽なヘルフリートに腕を捕まえられた。
刹那。一番大きなプロパガティオの花弁と、伸びた蔓の間から何か小さい蠢く『何か』がわーっと出て来た。それはさながら、砂糖に群がる蟻のように。しかもそれはすぐに肉眼で捉えられる程に成長する。
先程までは豆粒程のサイズだったそれらは蝉が羽化するかのように、乾燥していた物が水に沈んで広がるように、大きく成長する。広げた手の平くらいの花弁を携え、植物であるはずの『子』は根を張ること無く真っ直ぐに人間へと向かって来た。
「メヴィ、一度家から出よう!奴等の脚力が発達しているようには見えない!」
「うわ!?」
ほとんど引き摺られるような形で玄関から外へ。他2人も逃げて来ると思われたが、ヘルフリートは叩き付けるようにドアを閉めてしまった。
「あ、アロイスさん達がまだ中に!」
「大丈夫だ、俺達が逃げられたんだから、あの人達が逃げられないはずがない」
「な、何だか変な説得力が……あ!そうだ、あの、炎の魔法を使えるアイテムを発見しました!」
「何、本当か!?でかしたぞ、メヴィ!早速それを奴にお見舞いしてやろう!」
「いやあの、実は一つ問題が。これ、大規模魔法を閉じ込めてあって、家は跡形もなく消し飛ぶ可能性があります」
僅かに目を見開いたヘルフリートは思案するように目を閉じた。ややあって、手を打つ。
「アロイス殿達に指示を仰ごう。そのアイテムは使い方を誤れば仲間を巻き込むだろうからな」
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