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3話 鍛冶師と錬金術師とミスリル
07.地下の工房
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***
ギルドへ帰り着いたのは日も暮れた19時頃だった。ギルドマスターに経過の報告をし、終了証明書を発行してようやく自由の身になる。
しかし、メイヴィスの仕事はむしろこれからだった。
というのも、先程ギルドの受付嬢から早速革屋の彼が加工してくれた魔物の革が届いた。曰く、「別にお前の為じゃないけど、丁度手が空いてたから一つだけやってやったぞ。まあ、怪我しない程度に頑張ればいいんじゃない?」、との事らしい。
「メヴィ、今から作業を始めるのか?」
「え、あ、はい。その……私にとって錬金術は、趣味のあの、延長線みたいなものなので……。折角革も作って貰ったし」
「そうか。しかし場所はあるのか?」
「地下が工房になっているんです。鍛冶場もそこにありますよ」
「錬金術か……。興味があるな。俺も見学していて構わないだろうか?」
「えっ!? い、いや、別に面白いものじゃないんですけど……」
「ああ、構わないさ」
緊張するので止めて欲しかったが、しかしアロイスが来るという事でじっとりと重い地下の空気が払拭される事は間違い無い。そもそも、断れる自信もなかったメイヴィスは、曖昧に微笑んだ。
場所をギルドの地下へと移す。アロイスはというと、地下に来た事が無かったのかしきりに感心していた。
「ここへは来た事が無いな。それにしても、広いギルドだ。オーガスト殿はいったい、この施設を幾ら掛けて造ったのだろうか」
「あ、それ、ギルド七不思議の一つです」
「誰も資金の出所を知らないのか? それは凄いな。本当に何者なのだろうか」
オーガストその人に関しては、実は人外説だの、親が大富豪説だの色々な憶測が飛び交っている。しかし、この間彼が連れて来た美形お兄さんと良い、自分としては前者を推したい。実は人じゃない説。
暑い空気を排出する鍛冶場を通り過ぎ、隣の部屋へ入る。部屋の中心には大きな錬金釜が置かれ、周囲にはメイヴィスが用意した自前の椅子と机、そして木製の大きな棚が置いてあった。何れも、ゴチャゴチャと散らかっている。
アロイスに椅子を用意する為、椅子の上に乗っていた大きな本を机の上へと移動させた。後で無くしたと思って探す事になりそうだ。
「あ、アロイスさん。ここ、座っててください」
「ああ、気を遣う必要は無い」
要らないようだ。
後ろをチラチラと確認しながらも、素材液の量を確認する。あまり減っていないので、このまま使えるだろう。
――あ、その前に、作って貰った術式を取り出さないと。
ただ革を素材液にブチ込んだだけではどうにもならない。目指すは術式と布の完全融合であり、常に魔法が発動している状態のローブだ。何が言いたいかというと、術式の設計図が無いと何も始まらない。
慌てて机を漁る。乗っている紙束を脇に退け、何に使おうとしていたのか分からないアイテムを棚に放り入れる。
そんなメイヴィスの様子を見かねたのか、アロイスが遠慮がちに声を掛けてきた。
「どうした? 何を探している?」
「いえ、術式を書いた紙……どこに行ったのかと思って……」
「大きさは? どのくらいだ?」
「えーっと、あー、依頼書くらいの大きさの紙で……えーっと、確か、千切ったノートに書いて貰ったんです……」
「そんなものでいいのか? 間違って捨てたりは……」
「無い、と思います。たぶん……」
アロイスが反対側の棚を調べ始めた。変な物は入れていなかったと思うが、別の緊張感を覚える。
「メヴィ、これは違うのか? 何だかたくさんあるが……」
「あっ! それです、それ! ありがとうございます!」
どこから抜き取ったのか、アロイスは紙束を持っていた。輪ゴムでしっかりと留められているが、あれは間違い無く自分が無くさないように術式をまとめた紙束だ。
どうやら前回、何かを使用した時に棚に投げ入れてしまったらしい。急いでいたのだろう、きっと。
引き攣った笑みを浮かべ、メイヴィスはその紙束を受け取る。術式の斜め上には効能の走り書きがしてあるので、それを見ながら一つを抜き取った。
アイディアはあったが、材料と暇が無かった為にお蔵入りしていた魔法道具を作る為の術式。まさか、意外な所で日を浴びる事になるとは。人生何があるか分からないものである。
「これだ!」
「それをどうするんだ?」
「まずは複写します。流石に術式の構造なんていちいち覚えていられないので、何十枚か刷っておいた方が良いでしょうね」
部屋の右隅にある四角い木製の機械。その上蓋を持ち上げる。透明なガラスが貼られたそれの下には、大きめの魔石が輝いていた。そこに術式の紙を滑り込ませ、上蓋を下ろす。
続いて、下の引き出しを開けた。
――紙が入っていない。
「紙、紙、っと……」
用紙入れの中にも使える紙は無かった。仕方ないので棚の一番下にある、ポリカブの根を取り出す。これを錬金して紙に替えよう。
束ごと釜の中へ入れた。立て掛けてあったヘラを取って来る。
「何をするんだ?」
「いや、紙の原材料しか無いので、紙を錬金しようかと……しかし、ポリカブの根なんてどこで採集して来たんでしょうね」
「それは、俺に聞かれてもな」
ギルドへ帰り着いたのは日も暮れた19時頃だった。ギルドマスターに経過の報告をし、終了証明書を発行してようやく自由の身になる。
しかし、メイヴィスの仕事はむしろこれからだった。
というのも、先程ギルドの受付嬢から早速革屋の彼が加工してくれた魔物の革が届いた。曰く、「別にお前の為じゃないけど、丁度手が空いてたから一つだけやってやったぞ。まあ、怪我しない程度に頑張ればいいんじゃない?」、との事らしい。
「メヴィ、今から作業を始めるのか?」
「え、あ、はい。その……私にとって錬金術は、趣味のあの、延長線みたいなものなので……。折角革も作って貰ったし」
「そうか。しかし場所はあるのか?」
「地下が工房になっているんです。鍛冶場もそこにありますよ」
「錬金術か……。興味があるな。俺も見学していて構わないだろうか?」
「えっ!? い、いや、別に面白いものじゃないんですけど……」
「ああ、構わないさ」
緊張するので止めて欲しかったが、しかしアロイスが来るという事でじっとりと重い地下の空気が払拭される事は間違い無い。そもそも、断れる自信もなかったメイヴィスは、曖昧に微笑んだ。
場所をギルドの地下へと移す。アロイスはというと、地下に来た事が無かったのかしきりに感心していた。
「ここへは来た事が無いな。それにしても、広いギルドだ。オーガスト殿はいったい、この施設を幾ら掛けて造ったのだろうか」
「あ、それ、ギルド七不思議の一つです」
「誰も資金の出所を知らないのか? それは凄いな。本当に何者なのだろうか」
オーガストその人に関しては、実は人外説だの、親が大富豪説だの色々な憶測が飛び交っている。しかし、この間彼が連れて来た美形お兄さんと良い、自分としては前者を推したい。実は人じゃない説。
暑い空気を排出する鍛冶場を通り過ぎ、隣の部屋へ入る。部屋の中心には大きな錬金釜が置かれ、周囲にはメイヴィスが用意した自前の椅子と机、そして木製の大きな棚が置いてあった。何れも、ゴチャゴチャと散らかっている。
アロイスに椅子を用意する為、椅子の上に乗っていた大きな本を机の上へと移動させた。後で無くしたと思って探す事になりそうだ。
「あ、アロイスさん。ここ、座っててください」
「ああ、気を遣う必要は無い」
要らないようだ。
後ろをチラチラと確認しながらも、素材液の量を確認する。あまり減っていないので、このまま使えるだろう。
――あ、その前に、作って貰った術式を取り出さないと。
ただ革を素材液にブチ込んだだけではどうにもならない。目指すは術式と布の完全融合であり、常に魔法が発動している状態のローブだ。何が言いたいかというと、術式の設計図が無いと何も始まらない。
慌てて机を漁る。乗っている紙束を脇に退け、何に使おうとしていたのか分からないアイテムを棚に放り入れる。
そんなメイヴィスの様子を見かねたのか、アロイスが遠慮がちに声を掛けてきた。
「どうした? 何を探している?」
「いえ、術式を書いた紙……どこに行ったのかと思って……」
「大きさは? どのくらいだ?」
「えーっと、あー、依頼書くらいの大きさの紙で……えーっと、確か、千切ったノートに書いて貰ったんです……」
「そんなものでいいのか? 間違って捨てたりは……」
「無い、と思います。たぶん……」
アロイスが反対側の棚を調べ始めた。変な物は入れていなかったと思うが、別の緊張感を覚える。
「メヴィ、これは違うのか? 何だかたくさんあるが……」
「あっ! それです、それ! ありがとうございます!」
どこから抜き取ったのか、アロイスは紙束を持っていた。輪ゴムでしっかりと留められているが、あれは間違い無く自分が無くさないように術式をまとめた紙束だ。
どうやら前回、何かを使用した時に棚に投げ入れてしまったらしい。急いでいたのだろう、きっと。
引き攣った笑みを浮かべ、メイヴィスはその紙束を受け取る。術式の斜め上には効能の走り書きがしてあるので、それを見ながら一つを抜き取った。
アイディアはあったが、材料と暇が無かった為にお蔵入りしていた魔法道具を作る為の術式。まさか、意外な所で日を浴びる事になるとは。人生何があるか分からないものである。
「これだ!」
「それをどうするんだ?」
「まずは複写します。流石に術式の構造なんていちいち覚えていられないので、何十枚か刷っておいた方が良いでしょうね」
部屋の右隅にある四角い木製の機械。その上蓋を持ち上げる。透明なガラスが貼られたそれの下には、大きめの魔石が輝いていた。そこに術式の紙を滑り込ませ、上蓋を下ろす。
続いて、下の引き出しを開けた。
――紙が入っていない。
「紙、紙、っと……」
用紙入れの中にも使える紙は無かった。仕方ないので棚の一番下にある、ポリカブの根を取り出す。これを錬金して紙に替えよう。
束ごと釜の中へ入れた。立て掛けてあったヘラを取って来る。
「何をするんだ?」
「いや、紙の原材料しか無いので、紙を錬金しようかと……しかし、ポリカブの根なんてどこで採集して来たんでしょうね」
「それは、俺に聞かれてもな」
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