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6話 烏のローブ
01.欲張り
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朝一のギルドにて。
メイヴィス・イルドレシアは地下の工房でスケルトン・ロードから採集したマントを片手に、震える手を抑えていた。というのも、まさか出来るとは思わなかった夢の魔道ローブが、完成するかもしれないという興奮を抑えられなかったのだ。
すでにグレアムに頼んで女性ローブサイズに調整して貰った布2枚。そして、ウィルドレディアから編んで貰った術式の紙――2枚。それぞれに違う術式が描かれている。
良い布を入手したので、少しばかり欲が出た。幸い、布はまだローブ4着分くらいはあるので少しばかり実験してみようと思ったのだ。自分でも作れるローブが、他の錬金術師に作れないはずもない。少しでも秀でた部分を作る必要がある。
あとついでに、物が出し入れ出来る夢のローブ、自分用にも1着確保したい次第だ。
「よし、やるぞ……私は出来る……!」
緊張を和らげる為に呟きながら、まずはマントの布を錬金釜に入れる。続いて、『物を出し入れする』部分を司る術式を投入。更に『自己再生』――リジェネとでも言うのだろうか。その性質を付与させる術式を投入した。
これについては簡単で、ローブと言えば戦闘に晒されるものだ。破けてしまったのを何度も繕うのは少しばかり恥ずかしいし、布の品質を損なう。であれば、自己回復する術式を組み込み、ローブの修正をローブに任せてしまえば良いのではないだろうか。
ちなみに、この案を術式作成係の魔女に話した所、ドン引きされた。流石に貧乏性が過ぎるのでは、と。
金色の指示液を投入する。焼き鳥屋であるある、秘伝のタレといった具合でこれに関しては師ではなく自分の推量で調合し、新しく作った指示液だ。重複する作業を同時に進行してくれる。
「んん!?」
段々調子が出て来て、鼻歌交じりに作業をしていたら、鍋の中に金糸のような何かが奔った。爆発するかと思い、慌てて伏せる。しかし、数秒経っても何も起きなかった。恐る恐る釜の中を覗き込む。
やはり、蝶の鱗粉でも散るかのように金色の粉が液体の中を漂っている。
失敗した? 流石に術式2つは欲張り過ぎたのかもしれない。
布をすっと掬い上げてみる。見た目は黒々とした布で、裏地に刻むべき術式が刻まれているのが分かった。ただし、どちらか一方の術式だけ。というか、あれ、これ、術式重なってないか? ブレてる?
一応、落ち着くべき性能に落ち着いたであろうその布。丁度机の上に散乱していた紙の束にそれを掛けてみた。
手品のように一瞬で消える紙と紙と紙。収納の術式は作用している。
続いて、カッターナイフを手に布の真ん中をさっくりと斬り裂いてみた。それは徐々に徐々に――まるで人の怪我が治るかのように、だんだんと傷口が修正されていく。
「え? あ、これ成功してない!? これ成功してるよ多分!!」
今日は見学者も冷やかしもいないので自分独りのアトリエに、寂しく言葉が反響する。しかも、正常な物差しを持った観客もいないのでこの布がオーダー品として正しいのかを見極めてくれる者もいない。開発品の欠陥とは、得てして開発者が気付かない部分にある。
ともあれ、成功くさいのでもう1枚の布も全く同じように錬金して術式と擦り合わせた。自分用のローブも作りたいと常々思っていたからだ。
2枚の布を持って地上へ戻る。この布をグレアムにローブにして貰わなければならないし、何より正否の判定が欲しい。
ギルドのロビーは閑散としていた。朝早すぎて、あまり人がいない。とはいえ、誰もギルドにいない訳では無いのだから早起き人間も一定数いるという事だ。
そんな中、逞しい背中のタイガーマスクを発見。言うまでもなくギルドマスター・オーガストだ。
「マスター! オーガストさん、ちょっと良いですか!」
「おおっ! グッ! モーニンッ!! 君が朝からギルドにいるのは珍しいな!!」
「はい! おはようございますっ!!」
「その手に持っているのは! 新しい発明品かな!」
はい、と流石にこのテンションにも疲れを感じていたメイヴィスは神妙そうに頷いた。確か、彼にそのまま納品するよう依頼人からは言われていた気がする。
「そうなんです。例の依頼人から頼まれた品なんですけど……こう、不備は無いか点検して貰って良いですか?」
「ふむ。珍しいな、君が自分の作った物を他人に品定めさせるのは!」
「いや、あんなに金を積まれてたのに思いの外あっさり完成して夢でも視ているのかと……」
「ははははっ!! もっと自身を持ちなさい! 君はそういう所があるなッ!! しかし良いだろう! 私としても、あの方に嘘の報告をする事は出来ないからなッ!!」
何の納品物なのかを説明すべきか、と思ったが意外な事にオーガストは依頼の内容を覚えているようだった。彼は物忘れが酷い訳では無いが、自分に関係無い事はあまり記憶していてくれないだけに、本当に意外だったと言えよう。
手に持っていたダンベルを布の中に収納したり出したり、布の色を確かめる為に光に透かしてみたり、と大雑把なオーガストには似合わない一連の動作終了後、ぽつりと彼は言葉を溢した。
「何だ、塩らしい態度を取るから何事かと思えば、きちんと依頼を遂行しているじゃないか」
メイヴィス・イルドレシアは地下の工房でスケルトン・ロードから採集したマントを片手に、震える手を抑えていた。というのも、まさか出来るとは思わなかった夢の魔道ローブが、完成するかもしれないという興奮を抑えられなかったのだ。
すでにグレアムに頼んで女性ローブサイズに調整して貰った布2枚。そして、ウィルドレディアから編んで貰った術式の紙――2枚。それぞれに違う術式が描かれている。
良い布を入手したので、少しばかり欲が出た。幸い、布はまだローブ4着分くらいはあるので少しばかり実験してみようと思ったのだ。自分でも作れるローブが、他の錬金術師に作れないはずもない。少しでも秀でた部分を作る必要がある。
あとついでに、物が出し入れ出来る夢のローブ、自分用にも1着確保したい次第だ。
「よし、やるぞ……私は出来る……!」
緊張を和らげる為に呟きながら、まずはマントの布を錬金釜に入れる。続いて、『物を出し入れする』部分を司る術式を投入。更に『自己再生』――リジェネとでも言うのだろうか。その性質を付与させる術式を投入した。
これについては簡単で、ローブと言えば戦闘に晒されるものだ。破けてしまったのを何度も繕うのは少しばかり恥ずかしいし、布の品質を損なう。であれば、自己回復する術式を組み込み、ローブの修正をローブに任せてしまえば良いのではないだろうか。
ちなみに、この案を術式作成係の魔女に話した所、ドン引きされた。流石に貧乏性が過ぎるのでは、と。
金色の指示液を投入する。焼き鳥屋であるある、秘伝のタレといった具合でこれに関しては師ではなく自分の推量で調合し、新しく作った指示液だ。重複する作業を同時に進行してくれる。
「んん!?」
段々調子が出て来て、鼻歌交じりに作業をしていたら、鍋の中に金糸のような何かが奔った。爆発するかと思い、慌てて伏せる。しかし、数秒経っても何も起きなかった。恐る恐る釜の中を覗き込む。
やはり、蝶の鱗粉でも散るかのように金色の粉が液体の中を漂っている。
失敗した? 流石に術式2つは欲張り過ぎたのかもしれない。
布をすっと掬い上げてみる。見た目は黒々とした布で、裏地に刻むべき術式が刻まれているのが分かった。ただし、どちらか一方の術式だけ。というか、あれ、これ、術式重なってないか? ブレてる?
一応、落ち着くべき性能に落ち着いたであろうその布。丁度机の上に散乱していた紙の束にそれを掛けてみた。
手品のように一瞬で消える紙と紙と紙。収納の術式は作用している。
続いて、カッターナイフを手に布の真ん中をさっくりと斬り裂いてみた。それは徐々に徐々に――まるで人の怪我が治るかのように、だんだんと傷口が修正されていく。
「え? あ、これ成功してない!? これ成功してるよ多分!!」
今日は見学者も冷やかしもいないので自分独りのアトリエに、寂しく言葉が反響する。しかも、正常な物差しを持った観客もいないのでこの布がオーダー品として正しいのかを見極めてくれる者もいない。開発品の欠陥とは、得てして開発者が気付かない部分にある。
ともあれ、成功くさいのでもう1枚の布も全く同じように錬金して術式と擦り合わせた。自分用のローブも作りたいと常々思っていたからだ。
2枚の布を持って地上へ戻る。この布をグレアムにローブにして貰わなければならないし、何より正否の判定が欲しい。
ギルドのロビーは閑散としていた。朝早すぎて、あまり人がいない。とはいえ、誰もギルドにいない訳では無いのだから早起き人間も一定数いるという事だ。
そんな中、逞しい背中のタイガーマスクを発見。言うまでもなくギルドマスター・オーガストだ。
「マスター! オーガストさん、ちょっと良いですか!」
「おおっ! グッ! モーニンッ!! 君が朝からギルドにいるのは珍しいな!!」
「はい! おはようございますっ!!」
「その手に持っているのは! 新しい発明品かな!」
はい、と流石にこのテンションにも疲れを感じていたメイヴィスは神妙そうに頷いた。確か、彼にそのまま納品するよう依頼人からは言われていた気がする。
「そうなんです。例の依頼人から頼まれた品なんですけど……こう、不備は無いか点検して貰って良いですか?」
「ふむ。珍しいな、君が自分の作った物を他人に品定めさせるのは!」
「いや、あんなに金を積まれてたのに思いの外あっさり完成して夢でも視ているのかと……」
「ははははっ!! もっと自身を持ちなさい! 君はそういう所があるなッ!! しかし良いだろう! 私としても、あの方に嘘の報告をする事は出来ないからなッ!!」
何の納品物なのかを説明すべきか、と思ったが意外な事にオーガストは依頼の内容を覚えているようだった。彼は物忘れが酷い訳では無いが、自分に関係無い事はあまり記憶していてくれないだけに、本当に意外だったと言えよう。
手に持っていたダンベルを布の中に収納したり出したり、布の色を確かめる為に光に透かしてみたり、と大雑把なオーガストには似合わない一連の動作終了後、ぽつりと彼は言葉を溢した。
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