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6話 烏のローブ
02.生態系の破壊者
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何だか合格ラインには達しているようだったので、メイヴィスはほっと安堵の息を吐き出す。
「じゃあ、グレアムさんに渡して来ますね」
「いやいい! ローブに加工せず、布のまま渡そう!!」
「ええ?」
「あとはあの方がお好きなように再加工して下さるだろう! どんな女性に送るつもりなのかは知らないが、布のまま渡した方が良いはずだ!」
本当にそうなのかとも思ったが、オーガストがあまりにも自信満々にそう言うのでそれで納得する事にした。出来上がった注文品をそのまま納品する。そのうち依頼人が受け取りに来るはずだ。
「オーガスト殿!」
聞き覚えのある声。途端に高鳴る胸を押さえつつ、メイヴィスは振り返った。ただし、自分が呼ばれた訳では無い事は十二分に理解している。
そこには珍しく慌てた様子のアロイスが立っていた。出掛けるのだろうか、完全に武装している。今から魔物の討伐クエストにでも赴くような格好だ。
――何だか忙しそう。
スケルトン・ロードのマントのおかげで納品が滞りなく終わった事を伝えて、感謝の気持ちを述べようと思ったのだがそういう雰囲気では無さそうだ。とても急いでいるようにも見えるし。
空気を読んで口を閉ざしたメイヴィスは、ちらとギルドマスターを見上げる。タイガーマスクのせいで表情は伺えないが、少なくとも彼自身はあまり慌てているようには見えない。
「人は集められたかね、アロイス!」
「ナターリアとヘルフリートには会えました。この面子で向かおうと思います」
「そうか! 丁度良い、ここに納品を終えたばかりで手隙状態のメヴィもいるッ!! 見た所、魔法職はいないようだし連れて行くと良いッ!!」
何か自分の知らない話が勝手に進行している。いつもの如く「そうですね」、とこちらの非力さを勘定せずそう言い出しそうなアロイスだったが、今回ばかりはその首を横に振った。
「メヴィを連れて行くのは流石に危険かと」
「しかし! 川の水を止めるのに魔道士達は出払っているぞッ! 物理攻撃でアレをどうにかするのは難しいと思うが!」
「川の水を止める!?」
唐突な自然の摂理に反していく発言に目を剥く。川の水を止めるだなんて、一人の魔力じゃ絶対に無理だ。ウィルドレディアでもそんな事は出来ないだろう。というか、止める事は出来てもそれを維持する事が出来ないはずだ。
アロイスが胡乱げな視線をオーガストへ向ける。
「……メヴィに何の話か説明は……」
「うむ! そういえばしていない!! 喜ばしい納品の報せに、すっかり忘れていた! ハッハッハッハ!!」
最早ギルドマスターの言葉をスルーし、騎士がこちらへ向き直る。そうして事の概要を簡潔に説明した。
「実はギルド裏で神魔物『ウタカタ』が出現した。ウタカタは水場に現れると、その水が途切れなく存在する塊に多大な影響を及ぼす。水に浸かった全ての生物を、自身と同じ強度の物質に上書きする、という影響だ」
その話なら以前に聞いた事がある。
例えば、ウタカタが大きな水槽に棲み着いたとしよう。その瞬間、水槽の水は彼女と同化する。そしてそれは、彼女の領域へ踏み込んだ生物すべてをウタカタと同じ強度に上書きする影響力を持つ。
ウタカタとは即ちあぶく、泡。ウタカタが存在する水に浸かった全ての生物は泡と同じ強度に上書きされる。突けば割れる、何かと衝突すれば呆気なく粉々になる、泡に。
ウタカタは神魔物の中でもトップクラスの生態系破壊能力を持つ。彼女が川に現れただけで、広範囲の魚介類が泡となって弾けてしまうからだ。余談だが、20年前の記録によると泡になって弾けて消えた生物達の血で川が赤く染まったとか何とか。
しかし裏を返せば水続きでなければどうとでもなる。よって、魔道士達がこぞって出払い、結界を張るなり何なりして水の流れをせき止めているのだろう。
「狙撃するとか、魔道士じゃなくとも遠距離攻撃の出来る誰かはいないんですか?」
「それはもうやった。日付が変わった頃からウタカタが出現したからな。しかし、奴自身は水さえあればその場で何度でも復活する。別のアプローチが必要だろう」
「えー、ぐ、具体的にはどう……?」
凍らせる、とそう言い放ったのはオーガストだ。
「凍らせた上で粉々にウタカタを破壊、それでどこへなりとも消えるはずだ!」
「殺す事は出来ないんですね」
「出来ん! 神魔物を完全に殺害する為には作成者の書いた文献を全て解読し、鍵となる手順に則った上で! それを完璧に遂行する必要があるッ!! 無論、私にはその方法など分からないが!!」
アロイスが目を細める。どこか怪訝そうに。
「よくそのような事を知っていますね。オーガスト殿」
「ハハハハッ! 私は人類の常識の百年先を生きているようなものだからな! そうさな、あと数十年もすれば私の認識がお前達人類の認識になるだろうさ!」
「じゃあ、グレアムさんに渡して来ますね」
「いやいい! ローブに加工せず、布のまま渡そう!!」
「ええ?」
「あとはあの方がお好きなように再加工して下さるだろう! どんな女性に送るつもりなのかは知らないが、布のまま渡した方が良いはずだ!」
本当にそうなのかとも思ったが、オーガストがあまりにも自信満々にそう言うのでそれで納得する事にした。出来上がった注文品をそのまま納品する。そのうち依頼人が受け取りに来るはずだ。
「オーガスト殿!」
聞き覚えのある声。途端に高鳴る胸を押さえつつ、メイヴィスは振り返った。ただし、自分が呼ばれた訳では無い事は十二分に理解している。
そこには珍しく慌てた様子のアロイスが立っていた。出掛けるのだろうか、完全に武装している。今から魔物の討伐クエストにでも赴くような格好だ。
――何だか忙しそう。
スケルトン・ロードのマントのおかげで納品が滞りなく終わった事を伝えて、感謝の気持ちを述べようと思ったのだがそういう雰囲気では無さそうだ。とても急いでいるようにも見えるし。
空気を読んで口を閉ざしたメイヴィスは、ちらとギルドマスターを見上げる。タイガーマスクのせいで表情は伺えないが、少なくとも彼自身はあまり慌てているようには見えない。
「人は集められたかね、アロイス!」
「ナターリアとヘルフリートには会えました。この面子で向かおうと思います」
「そうか! 丁度良い、ここに納品を終えたばかりで手隙状態のメヴィもいるッ!! 見た所、魔法職はいないようだし連れて行くと良いッ!!」
何か自分の知らない話が勝手に進行している。いつもの如く「そうですね」、とこちらの非力さを勘定せずそう言い出しそうなアロイスだったが、今回ばかりはその首を横に振った。
「メヴィを連れて行くのは流石に危険かと」
「しかし! 川の水を止めるのに魔道士達は出払っているぞッ! 物理攻撃でアレをどうにかするのは難しいと思うが!」
「川の水を止める!?」
唐突な自然の摂理に反していく発言に目を剥く。川の水を止めるだなんて、一人の魔力じゃ絶対に無理だ。ウィルドレディアでもそんな事は出来ないだろう。というか、止める事は出来てもそれを維持する事が出来ないはずだ。
アロイスが胡乱げな視線をオーガストへ向ける。
「……メヴィに何の話か説明は……」
「うむ! そういえばしていない!! 喜ばしい納品の報せに、すっかり忘れていた! ハッハッハッハ!!」
最早ギルドマスターの言葉をスルーし、騎士がこちらへ向き直る。そうして事の概要を簡潔に説明した。
「実はギルド裏で神魔物『ウタカタ』が出現した。ウタカタは水場に現れると、その水が途切れなく存在する塊に多大な影響を及ぼす。水に浸かった全ての生物を、自身と同じ強度の物質に上書きする、という影響だ」
その話なら以前に聞いた事がある。
例えば、ウタカタが大きな水槽に棲み着いたとしよう。その瞬間、水槽の水は彼女と同化する。そしてそれは、彼女の領域へ踏み込んだ生物すべてをウタカタと同じ強度に上書きする影響力を持つ。
ウタカタとは即ちあぶく、泡。ウタカタが存在する水に浸かった全ての生物は泡と同じ強度に上書きされる。突けば割れる、何かと衝突すれば呆気なく粉々になる、泡に。
ウタカタは神魔物の中でもトップクラスの生態系破壊能力を持つ。彼女が川に現れただけで、広範囲の魚介類が泡となって弾けてしまうからだ。余談だが、20年前の記録によると泡になって弾けて消えた生物達の血で川が赤く染まったとか何とか。
しかし裏を返せば水続きでなければどうとでもなる。よって、魔道士達がこぞって出払い、結界を張るなり何なりして水の流れをせき止めているのだろう。
「狙撃するとか、魔道士じゃなくとも遠距離攻撃の出来る誰かはいないんですか?」
「それはもうやった。日付が変わった頃からウタカタが出現したからな。しかし、奴自身は水さえあればその場で何度でも復活する。別のアプローチが必要だろう」
「えー、ぐ、具体的にはどう……?」
凍らせる、とそう言い放ったのはオーガストだ。
「凍らせた上で粉々にウタカタを破壊、それでどこへなりとも消えるはずだ!」
「殺す事は出来ないんですね」
「出来ん! 神魔物を完全に殺害する為には作成者の書いた文献を全て解読し、鍵となる手順に則った上で! それを完璧に遂行する必要があるッ!! 無論、私にはその方法など分からないが!!」
アロイスが目を細める。どこか怪訝そうに。
「よくそのような事を知っていますね。オーガスト殿」
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