アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

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6話 烏のローブ

03.いつメン

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 ともかく、とオーガストが強制的に話を締める。

「メヴィを連れて行き、それでもどうにもならなければ昼までに別の対策を立てようッ!」

 あの、とメイヴィスは口を開く。どうも、こんなものは最早ギルドの管轄ではない気がするのだ。しかも、民間の依頼でもないから恐らくはボランティア。生態系破壊なんていうパワーワードの持ち主相手にボランティアもクソも無いが、「ギルドを運営する上での振る舞い」としては不適切と言えよう。
 ギルドは慈善事業ではない。コゼット・ギルドのように大規模なギルドならばそれなりに余裕はあるだろうが、それだってギルド登録者を湯水のように使って死人が出るかもしれないボランティアへ駆り立てる程の余裕は無いだろう。

「――お国に任せた方が良くないですか? 私達が下手に手を出すより、ずっと上手く事を解決してくれそうですけど」
「師団が派遣されるまでに1日以上掛かる。放っておけば川が死に、下手をすれば川を伝って海にまで被害が及ぶだろう。それに、国も間抜けではないさ。我々が働いた分は金銭補助という形でギルドに還ってくる」
「そ、そうなんですか? うわ、何だか生々しい事を聞いてしまったような……。すぐには騎士団って派遣して貰えないんですね」

 まあな、とアロイスは肩を竦めた。

「騎士とは国が造る事の出来る個人の力の象徴。そう易々とは貸し出してはくれないさ。それは仕方のない事だが、同時に仕方が無いとも言い切れない事でもある」
「あの……アロイスさん、師団にいたんですよ、ね?」
「ああ」

 ぶつ切りに途切れた会話。その短い肯定の言葉が明らかにこれ以上の言及を避けているようだったのを肌で感じて、メイヴィスは口を閉ざした。
 ただ、これは憶測に過ぎないが彼が何故ギルドに所属しているのかはうっすらと理解出来る。お人好しすぎる彼に、お呼びが掛かるまで国の中枢で大人しく「待て」をしなければならないスタイルは――多分、合わない。それはもう絶望的なまでに。彼は他者に対して献身的が過ぎる。

 放っておけば無茶をしてしまうような危うさがアロイスにはあると言えるだろう。本当は行きたく無いし、別の魔道士がやって来るであろう時間まで待っていて欲しいと言いたいが、その言葉は呑み込む。

「あの、私、頑張って来ますね、オーガストさん」
「本当に着いてくる気か、メヴィ? お前は危機察知能力がそれなりに高い。行きたく無いのなら、そう言って良いんだぞ?」
「いえ、良いんです。私もたまにはギルドの役に立ちますからね!」

 ――あなたがいるから一緒に行きたいんです、とまでは流石に言えなかった。烏滸がましい発言は自身の自制心が許さない。

 行く準備をするべく、完成した布地の片方を肩に掛ける。まだローブですらないが、この布1枚持参しているだけであらゆるアイテムの持ち運びが可能だ。適当にピンか何かで前を留めておけば肩から落ちて来る事も無いだろう。

「あろ――アロイスさん! 私、ちょっと地下へ準備をしに行って来ますね!」

 相手が規格外の化け物なので、準備も周到に。物量戦だ。スケルトン・ロードの時と同じ轍は踏まない。

 ***

 10分後、ロビーに集まった実働部隊を見てメイヴィスは苦笑した。聞いてはいた話だが、最近この面子での絡みは多すぎる気がする。
 自分とアロイス、そしてヘルフリートにナターリア。よくもまあ、朝一でこの面子が揃ったものだ。ナターリアに至っては朝8時より前にギルドにいる確率など天文学的数値に等しい。

「おはよー、メヴィ。ねむ……」

 寝惚けているのか猫を被りきれていないナターリアが締まりの無い朝の挨拶をする。一方で、騎士であるヘルフリートは完全に覚醒した様子。いつものフレンドリースマイルで「おはよう!」、と実に爽やかな挨拶をして来た。ただし、外は雨が降っている。

「ところでメヴィ、その、その端布はどうしたんだ? 金が無いと常日頃からそう言っていたが、この間、金が入ったという話もしていただろう?」
「いやいや。金が無くてローブも買えない子だと思ってたんですか、ヘルフリートさん。これは! 今回のお役立ちアイテムです! 今朝仕上がったばかりなので、まだローブの形になっていないだけ!」
「へぇ、出来立てホヤホヤってやつか!」

 やんややんや、と煽ててくれるヘルフリートにメイヴィスは不敵な笑みを手向けた。

「見てて下さいよ、湿地帯の時みたいな失敗は、もう二度とやらかしませんから」
「止めてくれ、その話題は俺の心も抉る」
「ヘルフリートさん、重かったなあ」

 何故か先日、全くの無傷で生還を果たしたナターリアが意地の悪い笑みを浮かべる。対し、若い騎士は酷く渋い顔をした。湿地帯での出来事は彼のプライドに深い傷を刻みこんでいると見える。
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