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7話 日常と旅支度
02.根本的な問題
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というか、と先程まで鍛冶師云々と言っていたシノが当然のようにさらりと話題を変えた。彼女はこういうマイペースな一面がある。
「実際問題、アロイスはギルドに留まるような奴じゃないだろ。ぶっちゃけ、メヴィに護衛として着いていくメリットはほぼ無いし息抜きしたかったんじゃないの?」
「え~? でもでもっ! アロイスさんはメヴィに経験を積ませたい、だの何だのって前に言ってたよ!」
「まあ、アロイス殿は現状の技術者に対して憂いているように感じますけれど」
女3人がわちゃわちゃと考察を始める。しかし、同時に思うのだ。
――多分アロイスさんは、意外と何も考えてない!
と。
後さあ、とシノが話題に飽きたのか鋭い視線をこちらに寄越す。
「メヴィ、お前工房はどうなってんの? 隣大陸、つったらギルドの地下は使えなくなる訳じゃん」
「……あっ! ほ、ホントだ。どうするんだろ!? えー、どこか借りなきゃいけないのかなあ。でも、マーブル大陸なんて生まれてこの方行ったこと無いよ!?」
錬金術師として修行しに行くのに、肝心要の工房が押さえられないのではただの旅行になってしまう。プチパニック状態に陥っていると、ヘルフリートが宥めるように呟いた。
「いや、スポンサーとやらが取ってくれているんじゃないのか? 君が大陸から出るのが初めてだって知っているんだろ?」
「ど、どうでしょう。そういう話をした記憶は無いですけど……」
「そ、そうか。それに、君は金をあまり持っていないらしいし、勝手に工房を借りさせるようなことはしないと思うけどな」
――確認を取る必要がありそうだ。
あのスポンサーの依頼人は世間に疎そうな印象がある。とても頭の良い人物なのは佇まいから感じられるが、毎回オーガストを介して会っているところが不安で堪らない。そもそも、錬金術師に必要なアイテムを理解しているとは思えないのが不安を更に煽る。
グルグルとした思考はしかし、ギルドマスターであるオーガストがタイミング良く現れた事で中断させられた。
「やぁやぁやぁ! おはよう諸君!! 君達は実に仲が良いなッ!! 実に微笑ましい事だ! ハッハッハッハ!! ところで、メヴィを借りてもいいかね? 少し用事があるのだが」
「あっはい! ごめん、ちょっと行って来る! 帰って来なかったら解散してて下さい」
テーブルに陣取る面子にそう言って、慌ててオーガストの後を追う。彼は決して速く歩いている訳ではないのだが、大柄なので足の長さというコンパスの差が必然的にメイヴィスを早足にしてしまうのだ。
***
受付まで移動したところで、オーガストが足を止めた。タイガーマスクは相変わらず健在なので表情はほとんど伺えないが、不思議な事にいつも通り上機嫌である事が分かる。
「朝から連絡があってな! 例の御仁からの連絡だ、心して聞きたまえ!」
「うわっ、何ですか? 悪い報せとかじゃないですよね?」
「業務連絡と言えばそれが近いな! 皆忘れていたようだが、工房の件だ!」
「凄い! タイムリーな話題!」
「うむ、あまり大声では言わぬようにしよう。そのだな、私も何度か聞き返してみたのだが――」
整理するようにオーガストが一瞬黙り込む。何だろうか、空き場所が無かったのだろうか。それとも土地が高すぎて借りられなかったとか。
しかし、次の言葉で認識が甘かった事を悟る。
「私も一応そこまでしなくて良いと言ったし、ゴチャゴチャするので話を着けて欲しいと言ったのだがね。君が来週向かうのはマーブル大陸、ヴァレンディア国という小さな国だ。えー、でだな。その、宿泊先も取って下さっている」
「わっ、至れり尽くせりですね……。それがどうかしたんですか?」
「ううむ、それがだな、宿泊先の主人が夜型でな。地下にある使われていないスペースを提供してくれるそうなのだが、大した持て成しをする事が出来ないというので、何故か町中にあるアイテムショップの地下にも工房を取ってくれた。君には使用出来る空間がその、2つある……」
「ええ? 死ぬ程面倒臭い事になってますよね、それ」
「ああ。しかも、宿泊先も必然的に2つあるという事になる。意味が分からない」
つまり、スポンサーが取った宿泊先と工房。その主人が更に別所に工房と宿泊先を押さえたという事になる。これはどっちを使えば失礼に当たらないのだろうか。
「ち、ちなみに場所は?」
「船から降りたらそのまま案内して下さるそうだぞ」
「そっ、そうですか」
――金持ちはやる事が違うなあ。
ゴチャゴチャと面倒な事になっている自分の処遇から逃避するように、メイヴィスは天井を仰いだ。
「実際問題、アロイスはギルドに留まるような奴じゃないだろ。ぶっちゃけ、メヴィに護衛として着いていくメリットはほぼ無いし息抜きしたかったんじゃないの?」
「え~? でもでもっ! アロイスさんはメヴィに経験を積ませたい、だの何だのって前に言ってたよ!」
「まあ、アロイス殿は現状の技術者に対して憂いているように感じますけれど」
女3人がわちゃわちゃと考察を始める。しかし、同時に思うのだ。
――多分アロイスさんは、意外と何も考えてない!
と。
後さあ、とシノが話題に飽きたのか鋭い視線をこちらに寄越す。
「メヴィ、お前工房はどうなってんの? 隣大陸、つったらギルドの地下は使えなくなる訳じゃん」
「……あっ! ほ、ホントだ。どうするんだろ!? えー、どこか借りなきゃいけないのかなあ。でも、マーブル大陸なんて生まれてこの方行ったこと無いよ!?」
錬金術師として修行しに行くのに、肝心要の工房が押さえられないのではただの旅行になってしまう。プチパニック状態に陥っていると、ヘルフリートが宥めるように呟いた。
「いや、スポンサーとやらが取ってくれているんじゃないのか? 君が大陸から出るのが初めてだって知っているんだろ?」
「ど、どうでしょう。そういう話をした記憶は無いですけど……」
「そ、そうか。それに、君は金をあまり持っていないらしいし、勝手に工房を借りさせるようなことはしないと思うけどな」
――確認を取る必要がありそうだ。
あのスポンサーの依頼人は世間に疎そうな印象がある。とても頭の良い人物なのは佇まいから感じられるが、毎回オーガストを介して会っているところが不安で堪らない。そもそも、錬金術師に必要なアイテムを理解しているとは思えないのが不安を更に煽る。
グルグルとした思考はしかし、ギルドマスターであるオーガストがタイミング良く現れた事で中断させられた。
「やぁやぁやぁ! おはよう諸君!! 君達は実に仲が良いなッ!! 実に微笑ましい事だ! ハッハッハッハ!! ところで、メヴィを借りてもいいかね? 少し用事があるのだが」
「あっはい! ごめん、ちょっと行って来る! 帰って来なかったら解散してて下さい」
テーブルに陣取る面子にそう言って、慌ててオーガストの後を追う。彼は決して速く歩いている訳ではないのだが、大柄なので足の長さというコンパスの差が必然的にメイヴィスを早足にしてしまうのだ。
***
受付まで移動したところで、オーガストが足を止めた。タイガーマスクは相変わらず健在なので表情はほとんど伺えないが、不思議な事にいつも通り上機嫌である事が分かる。
「朝から連絡があってな! 例の御仁からの連絡だ、心して聞きたまえ!」
「うわっ、何ですか? 悪い報せとかじゃないですよね?」
「業務連絡と言えばそれが近いな! 皆忘れていたようだが、工房の件だ!」
「凄い! タイムリーな話題!」
「うむ、あまり大声では言わぬようにしよう。そのだな、私も何度か聞き返してみたのだが――」
整理するようにオーガストが一瞬黙り込む。何だろうか、空き場所が無かったのだろうか。それとも土地が高すぎて借りられなかったとか。
しかし、次の言葉で認識が甘かった事を悟る。
「私も一応そこまでしなくて良いと言ったし、ゴチャゴチャするので話を着けて欲しいと言ったのだがね。君が来週向かうのはマーブル大陸、ヴァレンディア国という小さな国だ。えー、でだな。その、宿泊先も取って下さっている」
「わっ、至れり尽くせりですね……。それがどうかしたんですか?」
「ううむ、それがだな、宿泊先の主人が夜型でな。地下にある使われていないスペースを提供してくれるそうなのだが、大した持て成しをする事が出来ないというので、何故か町中にあるアイテムショップの地下にも工房を取ってくれた。君には使用出来る空間がその、2つある……」
「ええ? 死ぬ程面倒臭い事になってますよね、それ」
「ああ。しかも、宿泊先も必然的に2つあるという事になる。意味が分からない」
つまり、スポンサーが取った宿泊先と工房。その主人が更に別所に工房と宿泊先を押さえたという事になる。これはどっちを使えば失礼に当たらないのだろうか。
「ち、ちなみに場所は?」
「船から降りたらそのまま案内して下さるそうだぞ」
「そっ、そうですか」
――金持ちはやる事が違うなあ。
ゴチャゴチャと面倒な事になっている自分の処遇から逃避するように、メイヴィスは天井を仰いだ。
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