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8話 魔道士の国
04.フィリップのお願い
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依頼の件だが、というフィリップの言葉で思考が引き戻される。
「――いや、先に工房の件を話した方が良いか。実は、この館の地下と街にある店の地下工房を借りている。しかしまあ、見て分かる通り私の館は街からそれなりに遠い。君の活動拠点は恐らくそのアイテムショップになるので、そちらに借りた」
「はあ……」
「面倒な事になる前に言っておくが、私としても街の工房を使ってくれた方が助かる。夜型でね。昼に出入りされるのは安眠妨害だ。それで、依頼の件だが。魔道を囓る者として言うが私の依頼は私の館でやった方が効率が良いだろう」
「何を依頼されるのか分かりませんが、嵩張る物なら運ぶ時の都合上、現地で作れた方が建設的ではあると思います」
フィリップの依頼は恐らく生半可なそれではないだろう。簡単に作成できる物ならば、ヴァレンディア国にいる錬金術師に頼ればいい。自分を頼って来たのは、偶然にもスポンサーが頼んだローブを作成出来たからに違い無いはずだ。
依頼内容を何故か一瞬だけ言い淀んだ館の主は天井を仰ぎ、呟いた。
「私の依頼なのだがね、この館を――そう、いつ何時でも夜の状態にして欲しいからだ。先にも述べたが、昼夜逆転生活を送っていてね。ふと思い立った時、買い物へ行っても夜なので店が開いていない」
「そっ、それは案外切実な問題ですね……」
「ああ。しかし私の体質上、昼に起きていると言うのは居心地が悪くてね。であれば、いっそこの館が常に夜であればいい。それならば長く起きている事が出来るだろう?」
――知らんがな。
そう思ったが本人は至って真面目なので、メイヴィスもまた真面目くさった顔で頷いた。しかし、笑っちゃう理由ではあるが依頼内容はかなり厳しい。現状、良い方法を1つだけ思い付いてはいるが根本的な問題も1つ思い付いている。
次、ギルドへ帰った時にウィルドレディアと要相談と言ったところか。
悶々と思考モードに入っていると、ドアがノックされた。すぐにシオンが入って来て、丁寧に湯気の上がる紅茶を並べる。
「――すまない。誰も言わないから俺が聞きますが、店とは?」
ずっと黙っていたアロイスが口を開いた。フィリップに咎められたらどうしようと思ったが、彼は肩を竦めるのみだ。
「ああ、そうだったな。街に新しく開くマジック・アイテムショップがある。メイヴィス、お前の面倒を見るという名目で店主に資金援助をしていてね。とはいえ、彼女は私に借金をしている。返済に店が必要だと言うので貸し与えたのだが、そのブースの一部に君の作ったマジック・アイテムを並べたいとの事だ」
「借金……」
「誤解のないように言っておくが、私は金を持っている。館の周囲開拓を拒否する代わりに、国民に寄付という名の援助をしているだけだ。返済の目処が立たないのなら、金なぞ要らんよ。増やそうと思えば幾らでも増やせる」
スポンサーの彼もそうだが、この人等、金銭感覚がおかしい。狂っていると言っても過言では無いだろう。
いや、それはいい。彼等はちょっと常軌を逸しているのでマトモに取り合っても無駄だ。それより、店のブースの方が気に掛かる。
「ブースに私の作った物を並べる?」
「ああ。とはいえ、私は君の腕をよく知らん。エディスが勧めて来た錬金術師である以上、一定の水準は満たしているのだろうが。売れる売れないは君の腕次第だ」
「おおー」
なんちゃってお店屋さんを楽しめるらしい。ショップの店主と会ったら宜しく言っておかなければ。
「館のルールについてだが、否、ルールなどという小難しいものはない。ただ、昼の間は私を起こさないでくれ。店の2階に君達の居住スペースも借りている。私の館にいちいち帰って来る必要は無いと思っていい。ギルドに加入していると言っていたな。そこへ帰る時も、いちいち申請しなくて良いぞ。どうせ、大陸間を行き来するんだろう?」
「あ、はい、了解です」
「では、これからよろしく。シオン、彼女達を店まで送りなさい」
ドアの付近に控えていたシオンが恭しく一礼した。メイヴィスもまた、慌ててソファから立ち上がる。正直、館の話より店の話が気になって仕方ない。
「――いや、先に工房の件を話した方が良いか。実は、この館の地下と街にある店の地下工房を借りている。しかしまあ、見て分かる通り私の館は街からそれなりに遠い。君の活動拠点は恐らくそのアイテムショップになるので、そちらに借りた」
「はあ……」
「面倒な事になる前に言っておくが、私としても街の工房を使ってくれた方が助かる。夜型でね。昼に出入りされるのは安眠妨害だ。それで、依頼の件だが。魔道を囓る者として言うが私の依頼は私の館でやった方が効率が良いだろう」
「何を依頼されるのか分かりませんが、嵩張る物なら運ぶ時の都合上、現地で作れた方が建設的ではあると思います」
フィリップの依頼は恐らく生半可なそれではないだろう。簡単に作成できる物ならば、ヴァレンディア国にいる錬金術師に頼ればいい。自分を頼って来たのは、偶然にもスポンサーが頼んだローブを作成出来たからに違い無いはずだ。
依頼内容を何故か一瞬だけ言い淀んだ館の主は天井を仰ぎ、呟いた。
「私の依頼なのだがね、この館を――そう、いつ何時でも夜の状態にして欲しいからだ。先にも述べたが、昼夜逆転生活を送っていてね。ふと思い立った時、買い物へ行っても夜なので店が開いていない」
「そっ、それは案外切実な問題ですね……」
「ああ。しかし私の体質上、昼に起きていると言うのは居心地が悪くてね。であれば、いっそこの館が常に夜であればいい。それならば長く起きている事が出来るだろう?」
――知らんがな。
そう思ったが本人は至って真面目なので、メイヴィスもまた真面目くさった顔で頷いた。しかし、笑っちゃう理由ではあるが依頼内容はかなり厳しい。現状、良い方法を1つだけ思い付いてはいるが根本的な問題も1つ思い付いている。
次、ギルドへ帰った時にウィルドレディアと要相談と言ったところか。
悶々と思考モードに入っていると、ドアがノックされた。すぐにシオンが入って来て、丁寧に湯気の上がる紅茶を並べる。
「――すまない。誰も言わないから俺が聞きますが、店とは?」
ずっと黙っていたアロイスが口を開いた。フィリップに咎められたらどうしようと思ったが、彼は肩を竦めるのみだ。
「ああ、そうだったな。街に新しく開くマジック・アイテムショップがある。メイヴィス、お前の面倒を見るという名目で店主に資金援助をしていてね。とはいえ、彼女は私に借金をしている。返済に店が必要だと言うので貸し与えたのだが、そのブースの一部に君の作ったマジック・アイテムを並べたいとの事だ」
「借金……」
「誤解のないように言っておくが、私は金を持っている。館の周囲開拓を拒否する代わりに、国民に寄付という名の援助をしているだけだ。返済の目処が立たないのなら、金なぞ要らんよ。増やそうと思えば幾らでも増やせる」
スポンサーの彼もそうだが、この人等、金銭感覚がおかしい。狂っていると言っても過言では無いだろう。
いや、それはいい。彼等はちょっと常軌を逸しているのでマトモに取り合っても無駄だ。それより、店のブースの方が気に掛かる。
「ブースに私の作った物を並べる?」
「ああ。とはいえ、私は君の腕をよく知らん。エディスが勧めて来た錬金術師である以上、一定の水準は満たしているのだろうが。売れる売れないは君の腕次第だ」
「おおー」
なんちゃってお店屋さんを楽しめるらしい。ショップの店主と会ったら宜しく言っておかなければ。
「館のルールについてだが、否、ルールなどという小難しいものはない。ただ、昼の間は私を起こさないでくれ。店の2階に君達の居住スペースも借りている。私の館にいちいち帰って来る必要は無いと思っていい。ギルドに加入していると言っていたな。そこへ帰る時も、いちいち申請しなくて良いぞ。どうせ、大陸間を行き来するんだろう?」
「あ、はい、了解です」
「では、これからよろしく。シオン、彼女達を店まで送りなさい」
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