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8話 魔道士の国
09.素材ショップの店長さん
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***
ヴァレンディアの街並みは非常に穏やかだ。相変わらず行き交う人々は魔道ローブを着用している。心なしか新しい建物が多いようだった。ただし、新築の中には今にも崩れそうな、人の住めないような建造物がチラホラと混じっている。開拓が完全に終わっていない、どこかアンバランスな新しさのある街だと言えるだろう。
「あのー、あの、アロイスさん」
「うん?」
「素材ショップに寄っても良いですか? お金があるうちに、減っている素材を買い足したいです!」
「ああ、好きにしたらいい。しかし……どこに入る?」
「え?」
気付く。よくよく注意して辺りを見回してみれば、素材ショップと銘打たれた店は二軒も三件もあるのだ。コゼット・ギルドに居た時は素材屋が無くて非常に難儀したと言うのに、その倍は店がある。
メイヴィスは分かり易く顔をしかめた。素材ショップなど、魔道士でさえ差ほど使わない店だ。それがよくもこの小さな国土の中に何軒もあるものだと、不審感を覚える。
「どうして、こんなにたくさんの素材屋があるんでしょうね……」
「そうだな。建っているという事は、使う者がいるという事だ。この国の実情が見えて来たな」
――えー、いや全然私には見えてこないんですけど!!
こちらを素通りして、目を眇めたアロイスは行き交う人々を眺めている。まるでメイヴィスその人も分かっている体で話しているが為に、何が見えているのか問うのが憚られる。
いやだがしかし! 聞くのは一瞬、聞かぬのは一生の恥と言うし、ここは素直に何のこっちゃと話題の方向性を正すべきだろう。
「アロ――」
「店には入らないのか?」
「あ、はい。入ります」
――私の心! 弱い!!
望み通りの問いを投げ掛けるどころか、正直な身体はアロイスに言われた通り素材屋の方を向いている。何て度胸のない小娘なんだ、自分は。
項垂れながらも、一番手近にあった店へ入る。視界に入っている他一軒も気にはなるが、ヴァレンディア初上陸なので違いが分からない。というか、同じ物を売っているのでは?
店に入ってみると、ユリアナの店と似たような香が鼻を擽った。これは、新築の匂いだ。ここも新しい店なのかもしれない。
「何が足りていないんだ?」
「えーっと、うーん、思い出せないんですけど、見れば無かったなあって分かります」
「変な所で適当だな、メヴィ」
「こういうのって、フィーリングじゃないですか」
棚にあったリトリカルの花弁を手に取る。薄桃色の花弁が小瓶に詰められていた。採集が難しい素材なので少々お高めだが買っておこう。
「ようこそ、ヴァレンディアへ!」
「っ!?」
聞き慣れない声がすぐ近くでした。驚いて振り返ると、店員らしき中年の男がニコニコと手を振っている。知り合いかと一瞬考えたが、間違い無い。こんな知り合いはいない。
「申し遅れました。私、この店の店長をやっている者です」
「あ、はい。どうも……えっと、何か?」
「いえいえ! お客さん、外から来たんでしょう? ヴァレンディアはどうですか? こう見えて、魔道士の移住率ナンバー1を記録しているんですよ。貴方も、移住されて来たクチですかな?」
「移住? いえ、私は錬金術の修行に……」
「ああ! そうでしたか! いやあ、素材の店がこんなにある国は、うちを置いて他にありませんよ! 良い選択です」
どうやら男はメイヴィスを素通りして、身に纏っているローブを見ているようだった。ギルドは客商売。対峙している相手の視線を辿るのは初歩の初歩だ。その人物が、何に興味を持っているのか。視線とは雄弁にそれを物語る判断ツールである。
「そちらのローブは? 見ない銘柄というか、あれ、見た事があるような……」
「こっ、これは知り合いのデザイナーさんが有料で作ってくれたオーダーメイドなんです」
「ああ、ああ! そうでしたか! いやでも、何かロゴをどこかで見た事が……どこだったかな……」
ローブを繕ったのはグレアムだ。そしてあの人は、かつてそれはそれは名の知れたファッションデザイナーだったらしいが詳細は不明である。
「えーっと、店長さん? 仕事に戻らなくて良いんですか?」
「おっと! お客さん、錬金術修行で来たと言っていましたね。レジにて半額にしますから、たくさん買って行って下さいよ!」
まさか半額は盛り過ぎだろう、とメイヴィスは曖昧な笑みを浮かべてレジへ戻って行く店長の背を見送った。何だったのだろうか。
ヴァレンディアの街並みは非常に穏やかだ。相変わらず行き交う人々は魔道ローブを着用している。心なしか新しい建物が多いようだった。ただし、新築の中には今にも崩れそうな、人の住めないような建造物がチラホラと混じっている。開拓が完全に終わっていない、どこかアンバランスな新しさのある街だと言えるだろう。
「あのー、あの、アロイスさん」
「うん?」
「素材ショップに寄っても良いですか? お金があるうちに、減っている素材を買い足したいです!」
「ああ、好きにしたらいい。しかし……どこに入る?」
「え?」
気付く。よくよく注意して辺りを見回してみれば、素材ショップと銘打たれた店は二軒も三件もあるのだ。コゼット・ギルドに居た時は素材屋が無くて非常に難儀したと言うのに、その倍は店がある。
メイヴィスは分かり易く顔をしかめた。素材ショップなど、魔道士でさえ差ほど使わない店だ。それがよくもこの小さな国土の中に何軒もあるものだと、不審感を覚える。
「どうして、こんなにたくさんの素材屋があるんでしょうね……」
「そうだな。建っているという事は、使う者がいるという事だ。この国の実情が見えて来たな」
――えー、いや全然私には見えてこないんですけど!!
こちらを素通りして、目を眇めたアロイスは行き交う人々を眺めている。まるでメイヴィスその人も分かっている体で話しているが為に、何が見えているのか問うのが憚られる。
いやだがしかし! 聞くのは一瞬、聞かぬのは一生の恥と言うし、ここは素直に何のこっちゃと話題の方向性を正すべきだろう。
「アロ――」
「店には入らないのか?」
「あ、はい。入ります」
――私の心! 弱い!!
望み通りの問いを投げ掛けるどころか、正直な身体はアロイスに言われた通り素材屋の方を向いている。何て度胸のない小娘なんだ、自分は。
項垂れながらも、一番手近にあった店へ入る。視界に入っている他一軒も気にはなるが、ヴァレンディア初上陸なので違いが分からない。というか、同じ物を売っているのでは?
店に入ってみると、ユリアナの店と似たような香が鼻を擽った。これは、新築の匂いだ。ここも新しい店なのかもしれない。
「何が足りていないんだ?」
「えーっと、うーん、思い出せないんですけど、見れば無かったなあって分かります」
「変な所で適当だな、メヴィ」
「こういうのって、フィーリングじゃないですか」
棚にあったリトリカルの花弁を手に取る。薄桃色の花弁が小瓶に詰められていた。採集が難しい素材なので少々お高めだが買っておこう。
「ようこそ、ヴァレンディアへ!」
「っ!?」
聞き慣れない声がすぐ近くでした。驚いて振り返ると、店員らしき中年の男がニコニコと手を振っている。知り合いかと一瞬考えたが、間違い無い。こんな知り合いはいない。
「申し遅れました。私、この店の店長をやっている者です」
「あ、はい。どうも……えっと、何か?」
「いえいえ! お客さん、外から来たんでしょう? ヴァレンディアはどうですか? こう見えて、魔道士の移住率ナンバー1を記録しているんですよ。貴方も、移住されて来たクチですかな?」
「移住? いえ、私は錬金術の修行に……」
「ああ! そうでしたか! いやあ、素材の店がこんなにある国は、うちを置いて他にありませんよ! 良い選択です」
どうやら男はメイヴィスを素通りして、身に纏っているローブを見ているようだった。ギルドは客商売。対峙している相手の視線を辿るのは初歩の初歩だ。その人物が、何に興味を持っているのか。視線とは雄弁にそれを物語る判断ツールである。
「そちらのローブは? 見ない銘柄というか、あれ、見た事があるような……」
「こっ、これは知り合いのデザイナーさんが有料で作ってくれたオーダーメイドなんです」
「ああ、ああ! そうでしたか! いやでも、何かロゴをどこかで見た事が……どこだったかな……」
ローブを繕ったのはグレアムだ。そしてあの人は、かつてそれはそれは名の知れたファッションデザイナーだったらしいが詳細は不明である。
「えーっと、店長さん? 仕事に戻らなくて良いんですか?」
「おっと! お客さん、錬金術修行で来たと言っていましたね。レジにて半額にしますから、たくさん買って行って下さいよ!」
まさか半額は盛り過ぎだろう、とメイヴィスは曖昧な笑みを浮かべてレジへ戻って行く店長の背を見送った。何だったのだろうか。
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