アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

文字の大きさ
74 / 139
8話 魔道士の国

10.フィリップの情報

しおりを挟む
 買い物を終え、レジに並ぶ。先程の店長が会計をしていたのだが、本当に半額になった。この買い物のしわ寄せは誰へ行くのだろうか。袋詰めをしていた店長さんが不意に手を止め、ちらとアロイスを見やる。

「そっちのお連れ様は、えー、もしかして、騎士か何かですか?」

 メイヴィスもまた、背後を見た。アロイスではなく、自分の後にレジに並んだ人がいないかどうかを確認したのだ。残念な事に、疎らにいる店内のお客達は未だ買い物をしており、会計する気は無いようだった。
 仕方ないので店長の問いに答える。どことなく詰るような一言だったので、言葉を慎重に選んでだ。

「あ、はい。私の保護者的な人なんですけど……。何かマズイんですか?」
「ああ、いやいや! 見るからに魔道職じゃなさそうなので、どうして素材屋に来たのかと疑問に思っていまして!」
「そ、そうなんですか? 彼は私の護衛をしてくれていて、その、女性の一人暮らしって何かと物騒だし?」
「そうでしたか! いやいや、すいません。何分、ヴァレンディアは魔道士の国。何故どこぞの騎士サマがうちの店にいるのかと、警戒してしまって。いやあ、失礼しました。これ、品物です。良いヴァレンディア生活を!」

 そちらから話し掛けて来たにも関わらず、押し付けられるように袋を渡される。メイヴィスはそれをローブの中に仕舞うと、一応は店長に半額の礼を言って店の外へ出た。
 出て、もう一度店の方を振り返りアロイスに声を掛ける。

「何でさっきの店長さん、あんな感じだったんでしょうかね?」
「……確信が持てないから何とも言えないが、ヴァレンディアのカラクリが分かってきたな」
「え? そ、そうなんですか? 私にも何の事か教えて下さいよ」
「いや、実際にそうだと根拠がある訳でもない。俺の推測は机上の空論に過ぎないからな。分かった事があれば、教えよう。ただ、この国において俺は個人行動を慎んだ方が良さそうだ」
「……?」

 この後、更に店を2軒、3軒回ったがどこへ行っても未来の錬金術師と持て囃される結果となった。かなり安くで素材が大量に揃ったし、喜ばしい事のはずなのだが釈然としない気持ちの方が勝る。

「アロイスさん、フィリップさんの館に行ってみますか? 着く頃には日も沈んでるでしょうし」
「そうだな。俺も、彼には個人的に聞きたい事がある」

 今からはアトノコンとやらの情報収集だ。報酬が高額だったし、素材も初めて見る素材なので是非とも有力な情報が欲しいところである。

 ***

 日がどっぷりと沈み、辺りが暗闇に包まれる頃。ようやくメイヴィスは館へ到着した。明かりが灯っているのが分かる。

「お帰りなさいませ。旦那様に用事ですか?」

 ドアをノックするより早く、玄関からシオンが出て来た。光の加減だろうか、その双眸は爛々と輝いているようにも見える。

「はい。ちょっとフィリップ……様に、お尋ねしたい事があって」
「ええ、承知致しました。旦那様は既にお目覚めになっております。他に用件が無ければ、すぐにお会い出来るはずです」

 シオンに招かれるまま、館へ入る。静謐な空気が満ちたそこは、2人で住むには些か広すぎるようにも感じた。
 廊下を曲がると、丁度部屋から出て来ていたフィリップその人に遭遇。少しだけ驚いた顔をした館の主は「どうかしたのか?」、とだけ訊ねた。

「あ、その、少し訊きたい事があって……。今お時間良いですか?」
「構わん。その話は長くなるのか? 長話をするつもりならば、客間に移動するが」
「あっ、いや。ただ、アトノコンについて知っている事を教えて頂きたいだけなんです」
「アトノコン? ああ、あの、シルベリア国境付近に出る魔物か。お前たちの住む場所にはいないのか?」
「いませんでした」

 そうか、頷いたフィリップは腕を組むと必要な情報をペラペラと話始めた。

「アトノコンは鉱石系の魔物だ。言うまでも無く、物理的な攻撃で倒すのは骨が折れるだろうな。奴等は体内に液袋を持っていて、吐き出す液で全身をコーティングしている。そのコーティングされた物質を差して、『アトノコン』と呼ばれているようだな」
「物理で倒すのは難しい……」
「呑気に魔物狩りか?」
「いえ、素材収拾です」
「そうか。では、液袋は中身ではなく袋ごと採集する事を勧める。アトノコンは大気に触れると一瞬で固まるぞ」
「そうですか、えーっと、分かりました! ありがとうございます」
「構わん」

 ――それで、とフィリップの視線がメイヴィスを通り越しアロイスへと向けられた。その青い双眸が可笑しそうに細められる。

「お前はどうだった? ヴァレンディアは」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

物語は始まりませんでした

王水
ファンタジー
カタカナ名を覚えるのが苦手な女性が異世界転生したら……

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

処理中です...