84 / 139
9話 アルケミストの武器
04.ナターリアの腕前
しおりを挟む
ギルドの庭に出て来た。いつもは誰かが腹筋したり、手合わせしたりと賑やかなのだがこの日に限って無人。何なんだ一体。
「わあっ! 広々と使えるねっ! メヴィ!」
「いやうん、そうなんだけどさ。ナターリア、殺意高く無い?」
既に臨戦態勢に入っている友人を視界に入れ、メイヴィスは顔を青くした。それは隣に立っていたウィルドレディアも同じだ。目を白黒させ、戦闘態勢に入っているナターリアを凝視している。彼女のこんなレアな横顔、そうそう見れないぞ。
しかし、いち早く我に返った魔女はどうどう、と可愛らしい獅子を宥める。
「ちょっと待って。ルールを決めて始めた方が良いんじゃないかしら? 怪我なんてしたら事よ」
「どうもこうも、メヴィはクッソ雑魚だし! 大丈夫、本気で掛かってきなよ。返り討ちにしてあげるからさ」
獰猛な方の猫科のお面を被ったナターリアが嗤う。もう完全に捕食者のそれだし、返り討ちどころか病院送り、果てには冥界送りにされそうだが本当に大丈夫だろうか。
とはいえ、それはつまり十八番であるアイテムを幾らでも使って良いと言っているのか、とどのつまりは。
――ここで物怖じしてても始まらない。何かやらなきゃ!
気持ちを切り替え、ローブに手を突っ込む。今更意味無いような気もしたが、アロイスが負傷した日から前よりずっと多くの攻撃用マジック・アイテムを所持している。コストもそんなに掛からないし、模擬戦とはいえ使用して良いだろう。
流石に火は危険だと判断し、氷系統のアイテムを取り出す。右手と左手に2つずつだ。
「オッケー、メヴィ! それは時間の無駄だって事をまず知らなきゃねっ!!」
拳と拳を打ち合わせたナターリアが地を蹴る。軽やかな動作とは裏腹に凄まじい速度が初動で叩き出されるのを、見た。
ナターリアとの距離はかなり離れていたはずだ。少なくとも10メートル。小さな部屋の端と端に立っているくらいには距離が空いていた。
――にも関わらず、ナターリアの行動を見送る。
二段目の加速、メイヴィスとの距離を半分くらい詰めた彼女が更に地を蹴って速度を増す。最早、戦闘慣れしていないこの目には残像しか写っていなかった。
次に彼女の姿を捉えられたのは、ナターリアが目の前に立ち拳を振り上げた瞬間だった。狙い澄ますようにピタリと照準を定めた彼女は、そのままもう一度地を蹴って拳を振るう。
――あっ、マズイ死ぬ。
と、そう思ったが重ねたガラスがそのまま粉々に砕かれるような音で我に返った。音の正体は魔石による結界だ。つまり、携帯していた魔石が少なくとも1つは駄目になったという意味である。
「つっかまーえたっ!」
「……っ!? ……!!」
模擬戦のはずなのに底知れない、本能的な恐怖を覚えた瞬間、足払いを掛けられる。ナターリアが手首を掴んでいたので酷く尻餅を着かずに済んだが、実戦なら間違い無く死んでいただろう。
ぐっと顔を近付けて来た友人は機嫌良く、しかし肉食獣めいた獰猛な笑みを浮かべている。
「がおー。どう? 恐かった?」
「こっ……恐かった……! 狩られる魔物の気分を味わえたよ……」
震える脚で地面を踏みしめた。如何に自分が無力な存在か思い知っただけでなく、結界が破壊されただけで平常心を失う、メンタル面の弱さにまで気付かされる始末。
やや落ち込んでいると、一部始終を見ていたウィルドレディアが近付いて来た。
「メヴィ、貴方、戦闘には向かないんじゃないかしら? 今更ちょっと鍛えたところで何かが変わるとは思えないのだけれど」
「そうだねっ! だってメヴィには闘争心が足りないもんっ!」
「何さ、闘争心って……」
そうねえ、と何やら考え込んだ魔女が1枚のメモにさらさらと何かを書き綴った。
「こっちを使ってみたらどう? 魔法は使えるでしょう、メヴィ。今はアイテムを取り出す時間を勘定に入れなかったけれど、恐らく術式を発動させる方が早いわ」
「ああっ! 失敗失敗! メヴィがアイテムを出す前段階で始めなきゃ、意味無かったねっ!」
「まあ、貴方はそのアイテムすらも完封したけれど……。いやでも、それなら魔法の発動も間に合わないのかしら?」
何故棒立ちするか分からない、とナチュラルに貶して来た魔女は頭を抱えている。何だか戦闘以前の問題な気がしてならない。
「棒立ちっていうか、あたしの動きが見えて無いんじゃないかなっ! 焦点が合ってないっていうか、明後日の方向を見てるよね!」
「いやだって、速すぎて目で追えないんだもん」
「戦場では先に敵を見つけた方が勝つんだよっ! 見つかる前に、殺れ!」
しかも、今気付いたがナターリアは普段の魔物討伐クエストでアホみたいに野蛮なハンマー武器を装備している。なお、今は素手。
彼女と自分の間には、分かっていた事だが大きすぎる力の差があるようだ。
「わあっ! 広々と使えるねっ! メヴィ!」
「いやうん、そうなんだけどさ。ナターリア、殺意高く無い?」
既に臨戦態勢に入っている友人を視界に入れ、メイヴィスは顔を青くした。それは隣に立っていたウィルドレディアも同じだ。目を白黒させ、戦闘態勢に入っているナターリアを凝視している。彼女のこんなレアな横顔、そうそう見れないぞ。
しかし、いち早く我に返った魔女はどうどう、と可愛らしい獅子を宥める。
「ちょっと待って。ルールを決めて始めた方が良いんじゃないかしら? 怪我なんてしたら事よ」
「どうもこうも、メヴィはクッソ雑魚だし! 大丈夫、本気で掛かってきなよ。返り討ちにしてあげるからさ」
獰猛な方の猫科のお面を被ったナターリアが嗤う。もう完全に捕食者のそれだし、返り討ちどころか病院送り、果てには冥界送りにされそうだが本当に大丈夫だろうか。
とはいえ、それはつまり十八番であるアイテムを幾らでも使って良いと言っているのか、とどのつまりは。
――ここで物怖じしてても始まらない。何かやらなきゃ!
気持ちを切り替え、ローブに手を突っ込む。今更意味無いような気もしたが、アロイスが負傷した日から前よりずっと多くの攻撃用マジック・アイテムを所持している。コストもそんなに掛からないし、模擬戦とはいえ使用して良いだろう。
流石に火は危険だと判断し、氷系統のアイテムを取り出す。右手と左手に2つずつだ。
「オッケー、メヴィ! それは時間の無駄だって事をまず知らなきゃねっ!!」
拳と拳を打ち合わせたナターリアが地を蹴る。軽やかな動作とは裏腹に凄まじい速度が初動で叩き出されるのを、見た。
ナターリアとの距離はかなり離れていたはずだ。少なくとも10メートル。小さな部屋の端と端に立っているくらいには距離が空いていた。
――にも関わらず、ナターリアの行動を見送る。
二段目の加速、メイヴィスとの距離を半分くらい詰めた彼女が更に地を蹴って速度を増す。最早、戦闘慣れしていないこの目には残像しか写っていなかった。
次に彼女の姿を捉えられたのは、ナターリアが目の前に立ち拳を振り上げた瞬間だった。狙い澄ますようにピタリと照準を定めた彼女は、そのままもう一度地を蹴って拳を振るう。
――あっ、マズイ死ぬ。
と、そう思ったが重ねたガラスがそのまま粉々に砕かれるような音で我に返った。音の正体は魔石による結界だ。つまり、携帯していた魔石が少なくとも1つは駄目になったという意味である。
「つっかまーえたっ!」
「……っ!? ……!!」
模擬戦のはずなのに底知れない、本能的な恐怖を覚えた瞬間、足払いを掛けられる。ナターリアが手首を掴んでいたので酷く尻餅を着かずに済んだが、実戦なら間違い無く死んでいただろう。
ぐっと顔を近付けて来た友人は機嫌良く、しかし肉食獣めいた獰猛な笑みを浮かべている。
「がおー。どう? 恐かった?」
「こっ……恐かった……! 狩られる魔物の気分を味わえたよ……」
震える脚で地面を踏みしめた。如何に自分が無力な存在か思い知っただけでなく、結界が破壊されただけで平常心を失う、メンタル面の弱さにまで気付かされる始末。
やや落ち込んでいると、一部始終を見ていたウィルドレディアが近付いて来た。
「メヴィ、貴方、戦闘には向かないんじゃないかしら? 今更ちょっと鍛えたところで何かが変わるとは思えないのだけれど」
「そうだねっ! だってメヴィには闘争心が足りないもんっ!」
「何さ、闘争心って……」
そうねえ、と何やら考え込んだ魔女が1枚のメモにさらさらと何かを書き綴った。
「こっちを使ってみたらどう? 魔法は使えるでしょう、メヴィ。今はアイテムを取り出す時間を勘定に入れなかったけれど、恐らく術式を発動させる方が早いわ」
「ああっ! 失敗失敗! メヴィがアイテムを出す前段階で始めなきゃ、意味無かったねっ!」
「まあ、貴方はそのアイテムすらも完封したけれど……。いやでも、それなら魔法の発動も間に合わないのかしら?」
何故棒立ちするか分からない、とナチュラルに貶して来た魔女は頭を抱えている。何だか戦闘以前の問題な気がしてならない。
「棒立ちっていうか、あたしの動きが見えて無いんじゃないかなっ! 焦点が合ってないっていうか、明後日の方向を見てるよね!」
「いやだって、速すぎて目で追えないんだもん」
「戦場では先に敵を見つけた方が勝つんだよっ! 見つかる前に、殺れ!」
しかも、今気付いたがナターリアは普段の魔物討伐クエストでアホみたいに野蛮なハンマー武器を装備している。なお、今は素手。
彼女と自分の間には、分かっていた事だが大きすぎる力の差があるようだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
縫剣のセネカ
藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。
--
コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。
幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。
ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。
訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。
その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。
二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。
しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。
一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。
二人の道は分かれてしまった。
残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。
どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。
セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。
でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。
答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。
創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。
セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。
天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。
遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。
セネカとの大切な約束を守るために。
そして二人は巻き込まれていく。
あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。
これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語
(旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる