アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

文字の大きさ
99 / 139
10話 出張! シルベリア!

09.他人の家で探し物

しおりを挟む
 ***

 午前2時過ぎ。
 メイヴィスとアロイスは村にある宿の一室にて今か今かと作戦の決行を待っていた。ちなみに、夕食後からこうして待っているのでかれこれ数時間は部屋にすし詰め状態である。なお、アロイスその人は全く現状に何も感じ入ってはいない模様。
 いまいち何を話して良いか分からない空間に、早くもメイヴィスは気疲れを感じていた。いつになったら現状から開放されるのか、彼にはこちらから話し掛けて良いのか、それともいっそ仮眠を取った方が良いのか。

「メヴィ」
「ふわっ!? ななな、何でしょう!?」

 急に響いた低い声に驚いた。いや、同じ部屋に居るのだから声を掛けて来て当然なのだが。
 そんな様子を見て、アロイスは微笑ましそうに眼を細める。

「緊張しているのか? だが、そろそろ出てみるか。ここから見たところ、明かりの着いている家はほとんど無い」
「わ、かりました!」
「まずは村長の家へ行ってみるとしよう。あの大きな家がそうだろう」
「いや、どれですか?」

 窓際に立っていたアロイスはその場から少し横にずれると、手招きした。立ち上がって隣に並ぶと、広がる真っ黒な光景のうち一点を指さす。

「俺の予想ではあれだな」
「へ、へえー……」

 ――暗すぎてよく見えないのですが。
 と、言う度胸は無かった。恐らくアロイスと自分が離れて作業をする事は無いので、もう分かったふりをしておこう。

「檻の鍵を見つけ次第、エジェリーの場所へ戻る。例の空気玉はまだあるな?」
「あります。というか、夜中ですよ。潜れますか?」
「問題無い」

 真っ暗な水に身体を浸すのは憚られたが、仕方ない。非人道的な扱いを受け、今も暗いあの檻に幽閉されているエジェリーを放ってはおけないだろう。

「そういえばアロイスさん、村の人達ってどうやってエジェリーさんの所まで行ってるんでしょうね?」
「言われてみればそうだな。だが、彼等は不死だ。酸素が無くなった程度では死なないのだろうよ」
「それもそうか。文字通り、死ぬ程苦しいと思いますけど……」

 謎と言えば、エジェリーを閉じ込めているあの檻に使われた金属も謎だ。村人の中に、錬金術師でも居るのだろうか。ここで働いていればボロ儲けのような気もするが、人の心を忘れるという代償を払ってまでそんな発明をしたいものなのか疑問である。

 宿は完全に閉まりきり、人が居ないロビーを抜けて外へ。村と言うだけあって人がまるでおらず、村長宅までは誰にも見つかる事無く到着出来た。
 アロイスが言った通り、かなり大きな邸宅だ。金を持ってそうな人間の家そのものである。
 が、ここで一つ問題が浮上した。

「アロイスさん、鍵掛かってますよ。当然ですけど……」

 小さな村では深夜も家に鍵を掛けない家が多くあるらしいが、ともかく村長の家は鍵がしっかりと掛かっていた。中へ入る事は出来ないし、当然玄関のベルを鳴らす訳にもいかない。
 ちら、と彼の顔色を伺うと首を横に振った。

「鍵を壊そう。メヴィ、下がっていてくれ」
「えっ、正気ですか? 音がするんじゃ」
「問題無い。それで出て来るのなら、他の人間を呼ばれる前に縛り上げる」

 ――何て暴力的なのだろうか。
 王属騎士時代の猛々しい性格が全面へ出て来ているようで、メイヴィスは静かに息を呑んだ。エジェリーの手前、下手な加減はしないと決めているようだ。もしかしたら、アロイスは人間的な負の面を嫌うのかもしれない。

 取り留めのない思考に捕らわれていると、アロイスがドアノブに手を掛けた。ゆっくりと周囲を確認し、防犯用の魔法が掛かっていない事を確認。
 そして、次の瞬間、少し助走を付けてドアを蹴破った。盛大な音がしたものの、それは近隣住人が飛び起きて来る程のものではない。というか、家と家の距離があるので聞こえてはいないだろう。

「よし、行こうか」
「今日は何だか荒いですね、アロイスさん」
「事が事だ。時間が惜しいからな」

 まるで自分の家であるかのように無遠慮にアロイスが中へ入る。あまりにも堂々とし過ぎた強盗の姿はいっそ清々しい程だ。
 やや気が滅入ったものの、メイヴィスもその後に続く。
 取り敢えず、今回の相手はちょっと不死程度の人間だ。もし出て来ても対処出来る、と言い聞かせて。

「メヴィ、明かりをくれ」
「あっはい。ところで、どの部屋から探しますか」
「村長の執務室だな」

 明かりの光をかなり押さえて床を照らす。
 あっけらかんと答えた騎士サマに、メイヴィスは疑問顔を向けた。

「え、それはどうしてですか?」
「ああいった手合いは、本当に大事な物を自分がよく使う部屋に保管する。後ろめたい事をする人間は、他人を信用出来ないからだ。つまり、不用意に手伝いの人間などが入ってこない書斎などに大事な物を置く事が多い」
「へぇ、そうなんですね。私も書斎とか、自分の執務室とか憧れます」
「そう良いものじゃないぞ、堅苦しいし」

 口振りと苦々しい口調からして、彼は自身の執務室を持っていた事があるらしい。アロイスの気性には合わなかったようだが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

物語は始まりませんでした

王水
ファンタジー
カタカナ名を覚えるのが苦手な女性が異世界転生したら……

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

処理中です...