アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

文字の大きさ
100 / 139
10話 出張! シルベリア!

10.真夜中の集会

しおりを挟む
 しかし、そう簡単に事は運ばなかった。
 パッと頭上からの光が降り注ぐ。メイヴィスが使用している光球ではなく、備え付けの電気が付けられたのだと一瞬後に気付いた。

 家主と鉢合わせる。
 夜中だと言うのに休む為の格好ではなく今から出掛けるかのようにベストを羽織っていた。ともあれ、鉢合わせした妙齢の男が目を見開く。

「ど、泥ぼ――」

 言葉は最後まで続かなかった。
 素早く詰め寄ったアロイスが片足で男の足を払い、床に転がす。そのまま犯人を確保するように押さえ込んだ。あまりの早業に残像程度しか見えなかったが多分そうだ。
 男――恐らく村長に対し、アロイスが聞いた事も無い低い感情の伴わない声を掛ける。

「人魚の檻の鍵はどこだ」
「ひっ……!? お、お前達も……」

 怯えた表情を見せながらも村長は歪な笑みを浮かべた。酷く邪悪な、人間の闇を具現化したような笑みを。

「お前達も、なりたいのか? 不老不死に……」
「不老不死か。……ああそうだな。俺達も連れて行ってくれないか、あの洞窟に」

 自嘲めいた彼の笑みは村長には見えていないのだろう。その引き攣った笑みを見ただけでアロイスが事をスムーズに運ぶ為に出任せを言った事は分かる。なので、メイヴィスもまた訂正しはしなかった。
 自身を押さえ付けている騎士の憂い顔など見栄はしない村長が不気味な笑い声を上げる。

「ひひひ、そうだよな。死なない身体になりたいよなぁ……」
「いいから早く、鍵を寄越せ」
「くひひひ」

 そうっとアロイスが村長を開放する。抵抗しても敵わないという事実には気付いているのか、彼はよろりと立ち上がるとあっさり背を向けて歩き出した。付いて来い、と言わんばかりである。
 これは素直に同行していいものか。アロイスに目配せする。
 何かを一瞬だけ思案した彼はややあって、渋々と頷いた。自ら村長の後を追い始める。

 廊下を少し歩いた先、一番奥の部屋だった。他の部屋と比べて如何にもと言った自己主張と、特別感を匂わせる部屋だ。
 不気味な笑い声を上げながら村長が部屋の鍵を開ける。

 見えた光景に、メイヴィスは息を呑んだ。

「ひっ……!?」

 その部屋には机が1つと、後は大量の棚しか無い部屋だった。ただし、並ぶそれらは恐ろしい光景を想像するに足るものである。
 赤黒い液体が入った大量の瓶。
 棚のいくつかは黒い布で覆われており、中が見えない。ただし――そう、何だか薬品の強い臭いがする。メイヴィスも使った事がある、防腐剤の臭いだ。親しみがあると言えば親しみがあるものと言えるだろう。

 怯えている、恐れを抱いている事に気付いたのだろうか。アロイスに肩をトントンと叩かれた。唇が小さく動く。曰く、「気分が悪いのなら外へ出ていていいぞ」との事だ。
 しかし逃げ出す訳にはいかない、と首を横に振る。

 心を落ち着かせていると、どこか夢見心地な村長の声が耳朶を打つ。

「この中の物じゃ……嫌なんだろぉ? そうだよなあ、腐ってるかもしれないからなあ……」

 ――正気では無さそうだ。
 アロイスが苛々と腕を組み替えているのが見える。

「良いから早く鍵を出せと言っている」
「くくく……。鍵、鍵ねえ……。湖に潜ったのかよ、お前等」
「……」
「そういえばさぁ、12年くらい? 前に来た、錬金術師とか言ってた男もさあ? 持ってたんだよなぁ。あの湖を潜るための、何だっけな、道具を」

 錬金術師。聞こえて来た不穏な単語に眉根を寄せる。同業者はそこそこ居る職業だが、どことなく自分と造る物が似ているのが不気味で堪らない。勿論、メイヴィス自身は12年前などにこの村へ訪れた記憶は無いので提供した物ではない。

 言い知れない気持ちの悪さを感じていると、机から鍵を取り出した村長がそれを見せつけてくる。

「貸せ。……いや違うな、返すつもりはない。貰うぞ」

 半ば引ったくるようにしてアロイスがその鍵を取り上げる。村長は正気を失った笑い声を上げるだけだ。急に襲い掛かって来たりしないだろうな、と背後を警戒しつつ不気味なのでアロイスを急かした。

「い、行きましょう、アロイスさん」
「ああ。先を歩いてくれ、メヴィ。何をしでかして来るか分からない」

 背後に注意を払うアロイスがこちらを見ずに背中を押す。慌てて部屋から退避した。

 外に出て、どうして村長があっさり鍵を渡したのかを理解する。何と、松明を持った村人がゾロゾロと家を囲んでいる。そこに昼間の和やかな雰囲気は無く、ただただギラついた光を讃えた目をしているだけだ。
 酷く飢えているかのように。
 或いは、理性を持たない獣のように。

 一瞬前までは絶句していたアロイスだったが、やがて何とも言えない表情を浮かべた。諦観にも似た、複雑な感情をしかし感じる意味について問うような。

「……刃物を持っている人間に対して恐怖を抱いていないな。メヴィ、恐らく奴等は『不老不死』だ。倒すのではなく、切り抜けるぞ」
「わ、分かりました」
「加減はするな。ああいった手合いが得意とするのは物量戦だ」

 死なない兵士。それはつまり、無限に何度でも立ち上がって向かって来るという事だ。村長が余所行きの格好をしていた理由がはっきりした。今日は運良く、または運悪くエジェリーの肉を採取しに行く日だったのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※基本週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...