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11話 アルケミストの長い1日
10.小さな魔道士の師匠
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流れるようなプラチナブロンド、中性的で無駄なものが一切無い顔立ち。どこか浮世離れした端正な顔と雰囲気はどこかで味わった事があるものに似ていると感じた。
そんな、フィリップの背後、即ち館の中から現れた男は柔和に微笑んだ。酷く若い人物であるはずなのに、そうではないような、謎の老獪さを感じる。その正体が分からないので、結果として彼をまじまじと見つめる事となってしまった。申し訳ない。
浮いていた思考はしかし、イアンが言葉を発した事で着地した。
「師匠」
「えっ、この人が!? というか、何の師匠?」
「私に魔法を教えてくれている、父の友人です」
――ややこしい関係性だな……。
師匠であるし、血縁者でも無い。彼女等の関係性はどことなく謎に包まれている気がする。そもそも、10歳やそこらの少女に魔法の師匠が付いていると言うのも変な話だ。余程の英才教育主義なのだろうか。
しかし、記憶の中にあるイアンの父疑惑があるスポンサー様に、娘の教育を熱心にするような一面があるとは思えない。好きなようにさせてそう。
意識をあちこちに飛ばしている間にも、師匠と呼ばれた男は目を細めて言葉を紡ぐ。笑っているような、それでいて相手を値踏みしているかのような表情。少しだけ苦手だ。
「遅かったね、イアン。どこまで遊びに行っていたんだい?」
「貴方が勝手にはぐれたんでしょう」
「えっ、僕が? いや……はぐれたのは君だったと思うけれど」
おい、とフィリップが不機嫌そうに会話を遮った。腕を組み、眉根を寄せている。
「中に入って話をしろ。虫が中に入るだろう」
「それもそうだね。あ、イアンと一緒に来た君達も中へ入ると良い」
「私の館なのだがね」
「え? それじゃあ、追い出す?」
舌打ちしたフィリップから手招きされた。中へ入って良いらしい。最悪、来客がいるから帰れと言われるかと思ったが対応してくれるようだ。
廊下を歩きながら、師匠とやらが頻りに話し掛けてくる。てっきり、人と話すのを好まない御仁なのかと思っていたがどうやらそうではないらしい。
「やあ、僕はルーファス。イアンを連れて来てくれてありがとう。流石にそろそろ迎えに行かなきゃいけないとは思っていたんだ」
友人の娘らしいが、放任主義が過ぎる。今、何時だと思っているのだろうか。少なくとも薄暗い空さえ真っ暗になった、夜と言える時間帯だと言うのに。
引き攣った笑みを浮かべつつ、ルーファスの紹介に応える。
「あ、私はメイヴィス・イルドレシアです。それで、こっちが護衛のアロイスさん。えーっと、よろしくお願いします」
「ああうん、よろしく。君がメイヴィスね。薄々気付いているとは思うけれど、君に投資している彼が僕の友達なのさ。勿論、君の話もよくよく聞いているよ。イーデンも良い錬金術師を捕まえたものだね」
「イーデン?」
「……失礼、今はジャックだったかな。えーと、君のスポンサーの名前さ」
その情報は聞いたような、聞いていないような。
記憶は定かではないが、イーデンという名前は初めて聞いた。幾つか名前を使い分けているのだろうか。
というか、流れでフィリップに付いて行っているが、今日の目的はお話をする事では無い。この奇妙な不運を取り払って貰うのが頼みだ。
しかし、今更館の主を引き留める事も出来ず、気付けばよく談笑に使うリビングに到着していた。仕方が無い、ここで不思議な不運について聞いてみるとしよう。解決策が見つかればそれでよし、見つからなければ一時は大人しくしておく必要性がありそうだ。
「……これは」
ずっと沈黙を貫いていたアロイスが目を細めた。視線の先には一応、全員が座れるくらいにソファが並んでいる。ただし、2人掛けのソファばかりなので必然的に相席となってしまうだろう。
メヴィ、とアロイスが酷く小さな声で言葉を紡いだ。
「俺は護衛という名目上、座る事が出来ない。立っているが、お前は気にせず適当に掛けていてくれ」
「えっ、いや、気にしないで良いと思いますけど」
「家主が座れと言うのならばそれに従う。悪いが、そこはフィリップ殿の采配次第だ。よくある事なので、気にはしなくていい。慣れてくれ」
――それはこの先、似たような事が何度も起るという事だろうか。その度に胃が痛むのは必至なので座らせてやって欲しい。むしろ、自分が席を立った方が良いのでは。
恐る恐る、空いているソファに深く腰掛ける。やはり、アロイスは無表情で立ったままだ。ルーファスはそれに対し違和感を覚えていないようだったが、フィリップはポツリと言葉を溢した。
「ああ、お前は護衛だったな。構わん、座って良い」
「うん? 良いのかい?」
「構わんよ。奴は護衛と言うより保護者だ」
成る程ね、とルーファスが笑う。短く息を吐いたアロイスは「失礼」、と言ってメイヴィスの隣に腰掛けた。結局、座るのなら今の問答は要らなかったのではと首を傾げる。その様を正しく何事か理解した騎士サマは薄く笑うと答えを簡潔に口にした。
「建前というやつだ」
「ああ……」
そんな、フィリップの背後、即ち館の中から現れた男は柔和に微笑んだ。酷く若い人物であるはずなのに、そうではないような、謎の老獪さを感じる。その正体が分からないので、結果として彼をまじまじと見つめる事となってしまった。申し訳ない。
浮いていた思考はしかし、イアンが言葉を発した事で着地した。
「師匠」
「えっ、この人が!? というか、何の師匠?」
「私に魔法を教えてくれている、父の友人です」
――ややこしい関係性だな……。
師匠であるし、血縁者でも無い。彼女等の関係性はどことなく謎に包まれている気がする。そもそも、10歳やそこらの少女に魔法の師匠が付いていると言うのも変な話だ。余程の英才教育主義なのだろうか。
しかし、記憶の中にあるイアンの父疑惑があるスポンサー様に、娘の教育を熱心にするような一面があるとは思えない。好きなようにさせてそう。
意識をあちこちに飛ばしている間にも、師匠と呼ばれた男は目を細めて言葉を紡ぐ。笑っているような、それでいて相手を値踏みしているかのような表情。少しだけ苦手だ。
「遅かったね、イアン。どこまで遊びに行っていたんだい?」
「貴方が勝手にはぐれたんでしょう」
「えっ、僕が? いや……はぐれたのは君だったと思うけれど」
おい、とフィリップが不機嫌そうに会話を遮った。腕を組み、眉根を寄せている。
「中に入って話をしろ。虫が中に入るだろう」
「それもそうだね。あ、イアンと一緒に来た君達も中へ入ると良い」
「私の館なのだがね」
「え? それじゃあ、追い出す?」
舌打ちしたフィリップから手招きされた。中へ入って良いらしい。最悪、来客がいるから帰れと言われるかと思ったが対応してくれるようだ。
廊下を歩きながら、師匠とやらが頻りに話し掛けてくる。てっきり、人と話すのを好まない御仁なのかと思っていたがどうやらそうではないらしい。
「やあ、僕はルーファス。イアンを連れて来てくれてありがとう。流石にそろそろ迎えに行かなきゃいけないとは思っていたんだ」
友人の娘らしいが、放任主義が過ぎる。今、何時だと思っているのだろうか。少なくとも薄暗い空さえ真っ暗になった、夜と言える時間帯だと言うのに。
引き攣った笑みを浮かべつつ、ルーファスの紹介に応える。
「あ、私はメイヴィス・イルドレシアです。それで、こっちが護衛のアロイスさん。えーっと、よろしくお願いします」
「ああうん、よろしく。君がメイヴィスね。薄々気付いているとは思うけれど、君に投資している彼が僕の友達なのさ。勿論、君の話もよくよく聞いているよ。イーデンも良い錬金術師を捕まえたものだね」
「イーデン?」
「……失礼、今はジャックだったかな。えーと、君のスポンサーの名前さ」
その情報は聞いたような、聞いていないような。
記憶は定かではないが、イーデンという名前は初めて聞いた。幾つか名前を使い分けているのだろうか。
というか、流れでフィリップに付いて行っているが、今日の目的はお話をする事では無い。この奇妙な不運を取り払って貰うのが頼みだ。
しかし、今更館の主を引き留める事も出来ず、気付けばよく談笑に使うリビングに到着していた。仕方が無い、ここで不思議な不運について聞いてみるとしよう。解決策が見つかればそれでよし、見つからなければ一時は大人しくしておく必要性がありそうだ。
「……これは」
ずっと沈黙を貫いていたアロイスが目を細めた。視線の先には一応、全員が座れるくらいにソファが並んでいる。ただし、2人掛けのソファばかりなので必然的に相席となってしまうだろう。
メヴィ、とアロイスが酷く小さな声で言葉を紡いだ。
「俺は護衛という名目上、座る事が出来ない。立っているが、お前は気にせず適当に掛けていてくれ」
「えっ、いや、気にしないで良いと思いますけど」
「家主が座れと言うのならばそれに従う。悪いが、そこはフィリップ殿の采配次第だ。よくある事なので、気にはしなくていい。慣れてくれ」
――それはこの先、似たような事が何度も起るという事だろうか。その度に胃が痛むのは必至なので座らせてやって欲しい。むしろ、自分が席を立った方が良いのでは。
恐る恐る、空いているソファに深く腰掛ける。やはり、アロイスは無表情で立ったままだ。ルーファスはそれに対し違和感を覚えていないようだったが、フィリップはポツリと言葉を溢した。
「ああ、お前は護衛だったな。構わん、座って良い」
「うん? 良いのかい?」
「構わんよ。奴は護衛と言うより保護者だ」
成る程ね、とルーファスが笑う。短く息を吐いたアロイスは「失礼」、と言ってメイヴィスの隣に腰掛けた。結局、座るのなら今の問答は要らなかったのではと首を傾げる。その様を正しく何事か理解した騎士サマは薄く笑うと答えを簡潔に口にした。
「建前というやつだ」
「ああ……」
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