アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

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11話 アルケミストの長い1日

11.アルケミストと賢者

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 数奇な組み合わせだ、そう思いながらリビングにて寛ぐ面々を見つめる。そもそも、この時間帯にイアンのような少女がいるだけで違和感が凄まじい。
 シオンに出された飲み物を飲むだけの時間が淡々と過ぎ去って行く。誰も何も話さないので、沈黙が非常に胃に悪い――

「メイヴィス、君は確か錬金術師だと聞いているよ。最近はどんな物を作り出したのか聞いてもいいかい?」
「え、ええ。最近ですか、最近は……」

 思い出を手繰り寄せる。そして、最近はあまり錬金術に触れる機会が無かった事に気付いた。ヴァレンディア国での生活は良くも悪くも刺激的だ。どうしても、錬金術以外の事にも時間を割いてしまう。
 それに、現状ではギルドへ1週間から2週間おきに帰っているので移動中も当然なら錬金術には触れない状態だ。あれ、何の為にヴァレンディアに渡航したんだっけ?

 ちら、とルーファスの顔色を伺う。誰とも毛色の違う彼は一見するとにこやかな笑みを携えていた。ただし、それは対等な相手に向けるそれとは違う。
 可愛いお猿さんに付き合ってやっている、子供の会話に大人が便乗してやっているようなニュアンスが強い。話せば聞いてはくれるが、まともに取り合うつもりは無いような。

 ただし、黙っている訳にもいかない。
 咄嗟に思い浮かんだ魔石粉の話をする事にした。一応、一から十まで伏せるべき所は伏せて説明したところ、ルーファスは小さく笑みを浮かべる。それは、今まで浮かんでいた笑みとは違う種類の笑みだ。

「成る程ね、魔石を粉にする技術――作成法は教えてはくれないのかな? まあ、あれだよね。人間って言うのは小競り合いが好きな生き物さ。その製法とやらは君自身が自分の手で世間へ公表するべきかな」
「あの、えっと」
「ああ、悪いね、薄汚い話をしてしまって。俗世に長居すると性格が歪んでしまって仕方が無い。さて、その魔石粉だが、製法はいい。1グラム、1万アピで今ある分だけ譲ってくれないかな?」

 ゴホゴホッ、と咳き込んだのはフィリップだ。怪しげな雲行きの会話を、眉根を寄せて聞いてくれていたが我慢の限界に達したらしい。法外な取引を持ちかけてきたルーファスは満面の笑みを浮かべている。愉しげだ。

「いやあの、本当に1グラム1万アピですか? ぼったくりってレベルじゃないですけど、それ」
「人間って変わってるよね。こんな紙切れに何の意味があるんだろう。僕には大して必要な紙の束でも無いし、必要なら君にあげるよ」

 スポンサーといい、彼といい、金という概念をどこかへ置き忘れているとしか思えない。しかも、それだけの金を一体どこから稼いで来るのだろうか。教育上良くないのでは、とイアンを見やるが彼女は紅茶に夢中だ。おかわりを自らの手で注いでいる。
 というか、無反応であるのを見るに日常の一端なのかもしれない。それはそれで大問題なのだが。

 この後、烏のローブにありったけ詰め込んでいた魔石と金を交換した。かなり金持ちになったが、何か裏があるのではと勘繰り過ぎて素直に喜べない。

 買い物が一段落したルーファスが再びにこやかな笑みを浮かべる。今度は何かを企んでいる感じがありありと滲み出ていた。

「さて、正直アルケミストなんて昨今流行らないと思って、完全に眼中に無かったけれど……。良いね、錬金術。僕も久しぶりに触ってみたくなったよ」
「お前には地下の工房を貸し出す約束はしていないぞ」

 フィリップが鋭い声で遮れば、彼は悪戯っぽく肩をすくめた。

「ああいや、別に僕が触るんじゃなくてイアンにやらせようかと。ねえ、メイヴィス……ああ、メヴィって呼ばれてたかな? 君、イアンに錬金術を教えてあげてくれないかい?」
「えっ? な、何ですかいきなり」
「僕はあまり錬金術に触るタイプじゃなくてね。上手く教えられないんだ、頼むよ。勿論、報酬は弾むから」

 ちら、とイアンを見やる。
 正直教えるのはいい。自分も最初は師に教えられたからだ。ただし、本人にやる気が無いのであれば、教える必要性は無いと思っているのもまた事実である。
 結局の所、確かな製法や方法が確立されていない錬金術の肝は術者のやる気。発展していない魔道種なので、新しきを生み出せるのはやる気を持った者だからだ。よって、魔道をコンプリートしたいという意思で教えを請うのであれば、指導は遠慮したい。

 カップをソーサーに置いたイアンはぽつりと呟いた。

「錬金術は……多少なりとも興味があります」
「あ、興味がある? それなら、私もちゃんと教えるけど」
「はい」

 ――感情の分かり辛い子ではあるが、学ぶ気はあるようだ。
 アルケミストの人口が増えるのは純粋に歓迎すべき点でもある。メイヴィスはルーファスのお願いにオッケーサインを出した。

「分かりました、教えます」
「そうこなくちゃね!」
「日取りはどうしますか? 私は一時、ヴァレンディアに居ますけど」
「とりあえず、今日教えてみてから決めてくれるかな。普通の人間がどれくらいで錬金術を使えるようになるのか知らないけれど、イアンは割と物覚えが良い方だよ」
「個人差の世界ですから、なんとも言えませんね」

 一先ず、今日さわりだけやって後でスケジュールを組もう。そもそも、フィリップは地下工房を貸してくれるのだろうか。
 ちら、と家主を見やれば早く行けと言わんばかりにしっしと手を振られてしまった。貸してくれるらしい。
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