アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

文字の大きさ
119 / 139
12話 犬派達の集い

01.旅人と犬

しおりを挟む
 メイヴィスは久方ぶりにギルド付近にまで里帰りの気分で戻って来ていた。当然アロイスも一緒だ。なお、コゼット・ギルドまで戻って来た理由はただの思い付きだ。既に、ヴァレンディア国には1週間と少し滞在しており、ホームシックに駆られたとも言う。

 そして――もう一つ。
 呪い騒動ですっかり失念していたが、うっかりメイヴィス自身が飲込んでしまった『人魚の涙』問題。これに関しては特に身体的な被害が出ている訳では無いので、忙しい時には忘却しているのだがふと落ち着いた時など、発作的に気になって仕方が無くなる。
 物知りギルドマスター、オーガストであれば何が起きたのか解説してくれるかもしれない。とてもではないが、アロイスに相談する気にはなれなかったが。これ以上、面倒は掛けたくない。

「変わっていないな、町並み。1週間で戻れば変り映えも何も無いと言うものだが」
「変わったのは、私達の方かもしれませんね……」
「ホームシックか、メヴィ? コゼットへ滞在している間は思う存分休むといい」

 ――優しさが身に染みる。
 誰よりも疲れているのはアロイスその人であるはずだというのに、この優しさ。最近は甘えすぎている気がしないでもない。

「みんな、元気してますかねえ――」

 長閑な世間話に身を投じようとした、その時だった。
 ふらりと現れた男が目の前に立ち塞がったのは。

 見上げる程の体格、アロイスと同じぐらいの身長だろうか。顔には目元が一切伺えない、黒々としたサングラスを着用している。絹糸のような金髪が印象的な男性。更に、足下には小さな子供より大きな黄金の毛を纏った犬がいる。可愛い。
 一瞬知り合いかとも思ったが、全然知らない人物だ。
 普通に関わり合いになってはいけない人種のように感じ、反射的に身構える。一方でアロイスの方はまだ緩やかで穏やかな態度を保っていた。

「ああ、ちょっと聞きたい事があるんだが」

 こちらの警戒など余所に、男が口を開く。敵意のようなものは感じられない、至って普通の声音。

「この辺に大きなギルドあるだろ。ちょっと場所が分かんねぇんだが、どの辺にあるか教えてくれねぇか? 見たところ、お前等もギルド関係者だろ」

 その問いに答えたのはアロイスだった。物怖じした様子も無く、こちらも全く普通の口調で明確な答えを口にする。

「ああ。確かに俺達はギルド構成員だ。ギルドへ行くと言うのであれば、丁度向かう途中だし一緒に来るか?」
「おっ、助かるぜ。ありがとさん」
「構わないさ。では、行こうか」

 ――あ、一緒に行く流れかこれ!
 勝手に警戒していたが、特に悪い人でも無さそうだ。依頼人かもしれないし、アロイスの言う通り丁度良いだろう。

 歩き出すと自然な流れで道中加わった男の話へと話題がシフトしていった。

「ギルドへは何をしに? 依頼か?」
「ああいや、ギルド勤務の親父から急に呼び出されちまってよ」
「そうか。では、我々の臨時的な仲間という見方もあるな」
「まあ、そん時はよろしくな。力仕事くらいなら出来るぜ」

 初対面の見本のような会話が右から左へと抜けていく。そんな中、メイヴィスの視線は男にぴったり寄り添って歩いている大きな犬へと釘付けだった。
 正直、動物と触れ合う機会はそう多くなかったので新鮮だ。もこもことしていて、手触りが良さそうな生き物。今までは縁の無かった存在。

 じっと見ていると飼い主にその様を気付かれてしまった。不意に声を掛けられて肩が跳ねる。

「お嬢ちゃん、アッシュに興味があんのかい?」
「アッシュ?」
「相棒の名前さ」

 犬の名前はアッシュと言うらしい。呼ばれたと思ったのか、アッシュは主人の顔を見上げている。忠実そうだ。

「犬と一緒に来たんですか?」
「おうよ。6年前に親父がどっかから貰って来てよ。以降はずっと2人で旅してるぜ。いやあ、退屈しなくていいねえ」
「6年……?」

 彼は一体幾つなのだろうか。アロイスと同じか、或いはもう少し若そうに見える。それで6年間旅を? 何歳の時から旅に興じていたのだろうか。不思議な話である。
 ただ、具体的には何がどう可笑しいのか突く事も出来なかったので、曖昧な笑みを浮かべた。

「旅ですか。私はまだ、ヴァレンディアくらいにしか行った事無いです」
「旅はいいぜ。特に相棒とする旅は格別だな。一人旅にはもう戻れねぇかもしれないぜ」

 ――犬を飼う前から一人旅してたの?
 この人の事は知れば知る程分からなくなる。あまり触らない方が良いのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※基本週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...