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12話 犬派達の集い
15.環境への配慮
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アロイスの事を一度頭から追い出し、工房でやる事を脳内でまとめる。
折角、ミズアメタケを大量採取して来たのだ。これを使って何か面白い且つ便利なアイテムを生み出してみたい所存。
無理矢理に足取りを軽くし、ギルドの地下へ続く階段を下りていく――
「メヴィ? お前、帰ってたんだね」
「あ、シノさん!」
階段を下りていると、背後から声を掛けられた。後ろを見ると刀鍛冶見習い・シノが立っている。機嫌が良さそうにひらりと手を振っていた。何か良い事でもあったのかもしれない。
「よう、久しぶり。メヴィ、お前に土産があるんだよ」
「出掛けてたのは私の方なんですけどね……」
促されるまま、シノの後に続いて地下へと向かう。彼女は錬金用の工房ではなく、鍛冶場で足を止めた。土産とやらを渡してくれるのだろう。
「お土産って何なんですか?」
「え? ああ、ミスリル。いやお前がいない間にさ、また前――あの、まだメヴィがギルドに居た時にやったクエスト。の、依頼人が同じ依頼をして来てさ。回収しておいた」
「ミスリルってそんなに次から次に出来る物なんですか?」
「さあ……」
鍛冶場に入ると、エルトンの姿は無かった。シノからの情報によると休憩中らしい。間が悪い時に来てしまった。
「ほら、これ。お裾分けな」
「えー、今日は新しい素材を試す予定だったんですけど、ミスリルも弄くりたくなってきました」
渡されたミスリルの輝きを見て探求欲が湧上がって来る。まずい、これでは明日ヴァレンディアに帰る予定だと言うのに徹夜で研究する羽目になってしまいそうだ。
すかさずシノが誘惑してくる。
「そうだろー、やっぱりミスリルだよな。何の素材の研究をしようとしてたかは分かんないけどさ。とにかくやる気がある時にやってた方が良いんじゃないかなー」
「めっちゃ推してきますね、シノさん。もういいや、心行くまで錬金術研究やりますよ、もう」
「よっしゃ! ミスリル溶かせたらまず私に言えよ!」
バシバシと背中を叩かれた。
***
シノと別れ、久しぶりにギルドの工房へと足を踏み入れる。何週間も留守にしていたせいか、少しばかり埃っぽく感じてしまった。
しかし、それを気にする事無く、まずはローブから鍛冶に使う鎚を取り出す。本当はさっき採取したばかりのミズアメタケも試してみたかったが、ミスリルの誘惑に勝てなかった。
とにかくミスリルを割りたい、加工したい。
錬金釜に素材液を満たし、鎚を入れる。更に術式のメモを取り出し、何の魔法を付与させるかを選んだ。
――『小爆Ⅰ』にしよう。最初はスタンダードに攻める方向で。
鉱石採集用に調整された魔法。こんなものでミスリルを砕ければ苦労は要らないのだが、鎚で叩いてみた時の感触を知りたい。今後の為にも。
「あ、そうだ。ミズアメタケを中間素材にしよ」
中間素材――魔法の効果を付与する時に入れる、緩衝材のようなものだ。魔法の威力を底上げしたり、武器の切れ味を増したりなどする、隠し味的な要素。ただ、今この作業を挟むのはミズアメタケを中間素材にする事によって、何の効果が得られるのかを知りたかったからだ。
ミズアメタケに関する情報は今の所ゼロ。どこにどう、何に使った方が良いのか、何を鍛える時に使える効能があるのか。それを知る為にも丁度良い機会だろう。
どうせミスリルを割る事は出来ないと思っていたので、適当に放り込む。幸い、ミズアメタケは皆が遠慮を知らないくらいに集めてくれたので、結構な量もある。
「よしよし、どんな性能になったかな」
鼻歌を歌いながら完成した鎚をへらで掬い上げ、代の上に置く。細かいミスリルの一つも代に置いた。
更に激しく鼻歌を奏でながら、鎚を振り下ろす。
非常に硬いが、どこかに柔らかさのあるような不思議な感触が伝わった後、付与した魔法が炸裂。小さくも鋭い光が網膜を焼く。
「ふんふふ~……ん?」
鎚を丁重に脇に置いたメイヴィスは目を見開いた。
今まで何をしたって欠ける事の無かったミスリル。それの破片が、代に散乱していたからだ。完全に砕けた訳では無いが、初めてミスリルがダメージを受けているのが伺えた。
「は!? 何で割れた!?」
唐突な事態に、思考が光の速度で駆けて行く。
魔法で割れた、というのは考え辛い。であれば、この鎚を作成した時に使った指示液もしくはミズアメタケの効果だ。
ここからは足し引きの世界。さっき使った指示液・紫を一度錬金釜から抜く。代わり、新しいミズアメタケを素材液に入れ込んで溶かした。
出来上がった新しい指示液を器に掬い取る。ガラス製の器が、指示液を入れた事で溶け出す事は無かった。
そのガラス製の器に砕けたミスリルの欠片を入れ込んだ。途端、サラサラとそれが溶け出して行く様を目の当たりにする。
「そうか、ミズアメタケ……。これに混ざってる成分のどれかが、ミスリルを梳かすのか……!!」
ミズアメタケの採集時期は限られている。何がミスリルを溶かすに至ったのか分かれば、ミスリル加工も夢ではない。
シノにも教えなければ、そう考えて動きを止めた。
待て、ミズアメタケは今まで使い道が無いから放置されて来たキノコだ。ミスリル加工に必須となれば乱獲されるのは必至。であれば、安易に他人に教えない方が良いのではないだろうか。
発表する時は慎重に。自分の発言一つでキノコの種類が一つ減る事になりかねない。
結論として。
ミズアメタケの成分分析が終わり、問題無い事が分かるまでは表に発表しないし、シノにも教えない方が良いだろう。
メイヴィスは今日の成果をすっと胸の内に仕舞った。
折角、ミズアメタケを大量採取して来たのだ。これを使って何か面白い且つ便利なアイテムを生み出してみたい所存。
無理矢理に足取りを軽くし、ギルドの地下へ続く階段を下りていく――
「メヴィ? お前、帰ってたんだね」
「あ、シノさん!」
階段を下りていると、背後から声を掛けられた。後ろを見ると刀鍛冶見習い・シノが立っている。機嫌が良さそうにひらりと手を振っていた。何か良い事でもあったのかもしれない。
「よう、久しぶり。メヴィ、お前に土産があるんだよ」
「出掛けてたのは私の方なんですけどね……」
促されるまま、シノの後に続いて地下へと向かう。彼女は錬金用の工房ではなく、鍛冶場で足を止めた。土産とやらを渡してくれるのだろう。
「お土産って何なんですか?」
「え? ああ、ミスリル。いやお前がいない間にさ、また前――あの、まだメヴィがギルドに居た時にやったクエスト。の、依頼人が同じ依頼をして来てさ。回収しておいた」
「ミスリルってそんなに次から次に出来る物なんですか?」
「さあ……」
鍛冶場に入ると、エルトンの姿は無かった。シノからの情報によると休憩中らしい。間が悪い時に来てしまった。
「ほら、これ。お裾分けな」
「えー、今日は新しい素材を試す予定だったんですけど、ミスリルも弄くりたくなってきました」
渡されたミスリルの輝きを見て探求欲が湧上がって来る。まずい、これでは明日ヴァレンディアに帰る予定だと言うのに徹夜で研究する羽目になってしまいそうだ。
すかさずシノが誘惑してくる。
「そうだろー、やっぱりミスリルだよな。何の素材の研究をしようとしてたかは分かんないけどさ。とにかくやる気がある時にやってた方が良いんじゃないかなー」
「めっちゃ推してきますね、シノさん。もういいや、心行くまで錬金術研究やりますよ、もう」
「よっしゃ! ミスリル溶かせたらまず私に言えよ!」
バシバシと背中を叩かれた。
***
シノと別れ、久しぶりにギルドの工房へと足を踏み入れる。何週間も留守にしていたせいか、少しばかり埃っぽく感じてしまった。
しかし、それを気にする事無く、まずはローブから鍛冶に使う鎚を取り出す。本当はさっき採取したばかりのミズアメタケも試してみたかったが、ミスリルの誘惑に勝てなかった。
とにかくミスリルを割りたい、加工したい。
錬金釜に素材液を満たし、鎚を入れる。更に術式のメモを取り出し、何の魔法を付与させるかを選んだ。
――『小爆Ⅰ』にしよう。最初はスタンダードに攻める方向で。
鉱石採集用に調整された魔法。こんなものでミスリルを砕ければ苦労は要らないのだが、鎚で叩いてみた時の感触を知りたい。今後の為にも。
「あ、そうだ。ミズアメタケを中間素材にしよ」
中間素材――魔法の効果を付与する時に入れる、緩衝材のようなものだ。魔法の威力を底上げしたり、武器の切れ味を増したりなどする、隠し味的な要素。ただ、今この作業を挟むのはミズアメタケを中間素材にする事によって、何の効果が得られるのかを知りたかったからだ。
ミズアメタケに関する情報は今の所ゼロ。どこにどう、何に使った方が良いのか、何を鍛える時に使える効能があるのか。それを知る為にも丁度良い機会だろう。
どうせミスリルを割る事は出来ないと思っていたので、適当に放り込む。幸い、ミズアメタケは皆が遠慮を知らないくらいに集めてくれたので、結構な量もある。
「よしよし、どんな性能になったかな」
鼻歌を歌いながら完成した鎚をへらで掬い上げ、代の上に置く。細かいミスリルの一つも代に置いた。
更に激しく鼻歌を奏でながら、鎚を振り下ろす。
非常に硬いが、どこかに柔らかさのあるような不思議な感触が伝わった後、付与した魔法が炸裂。小さくも鋭い光が網膜を焼く。
「ふんふふ~……ん?」
鎚を丁重に脇に置いたメイヴィスは目を見開いた。
今まで何をしたって欠ける事の無かったミスリル。それの破片が、代に散乱していたからだ。完全に砕けた訳では無いが、初めてミスリルがダメージを受けているのが伺えた。
「は!? 何で割れた!?」
唐突な事態に、思考が光の速度で駆けて行く。
魔法で割れた、というのは考え辛い。であれば、この鎚を作成した時に使った指示液もしくはミズアメタケの効果だ。
ここからは足し引きの世界。さっき使った指示液・紫を一度錬金釜から抜く。代わり、新しいミズアメタケを素材液に入れ込んで溶かした。
出来上がった新しい指示液を器に掬い取る。ガラス製の器が、指示液を入れた事で溶け出す事は無かった。
そのガラス製の器に砕けたミスリルの欠片を入れ込んだ。途端、サラサラとそれが溶け出して行く様を目の当たりにする。
「そうか、ミズアメタケ……。これに混ざってる成分のどれかが、ミスリルを梳かすのか……!!」
ミズアメタケの採集時期は限られている。何がミスリルを溶かすに至ったのか分かれば、ミスリル加工も夢ではない。
シノにも教えなければ、そう考えて動きを止めた。
待て、ミズアメタケは今まで使い道が無いから放置されて来たキノコだ。ミスリル加工に必須となれば乱獲されるのは必至。であれば、安易に他人に教えない方が良いのではないだろうか。
発表する時は慎重に。自分の発言一つでキノコの種類が一つ減る事になりかねない。
結論として。
ミズアメタケの成分分析が終わり、問題無い事が分かるまでは表に発表しないし、シノにも教えない方が良いだろう。
メイヴィスは今日の成果をすっと胸の内に仕舞った。
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