アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

文字の大きさ
139 / 139
13話 獣達の庭園

06.アロイスのモーニングサービス

しおりを挟む
 ***

 早急に宿へ戻ったメイヴィスは目頭を押さえ、天井を仰いでいた。
 というのも、図書館から戻ってすぐ昼もそこそこに借りてきた本を読む事にしたのだが、まあこれが長いのなんの。
 結局、連れも居る事だし早く用事を済ますべきだと机に張り付き、活字を読み続ける事7時間。借りてきた本の半分を消化する事に成功した。

 と言うわけで、現在の時刻は午後10時。なお、夕飯は気を利かせて宿屋の女将さんが持って来てくれたパンとミルクしか食べていない。一段落したら夜食を摂りに行くと言ったが、とんだ詐欺になってしまった。

 しかし、その甲斐あってか召喚術の原理そのものは理解出来た。扱えるかは別問題として、それの何たるかは知識的な意味で理解出来たのだ。我ながら、ここ最近で一番の頑張りと言える。
 主要部分をメモしつつ、ちらっとこの後の事を考える。この知識が忘れ去られる前にヴァレンディアへ戻り、アイテム作成に取り掛かる必要があるだろう。

 であれば、夜が明けた瞬間に図書館へ行き本を返し、そして出立。その流れが好ましい。とはいえ、この計画だと無茶な時間に起床する必要性がある。アロイスに要相談と言ったところか。
 時間はかなり遅いが、結局宿に戻ってからこっち、彼とは顔を合わせていない。失礼を承知で明日の事を伝えておくべきだろう。

 日付が変わる前にはアロイスへ会いに行くべきだ。
 使われ過ぎてヘロヘロの脳を顧みる事無く、上着を1枚だけ羽織ったメイヴィスは自室を後にした。護衛騎士とは隣同士の部屋にして貰っているのだ。重装備で行く程の距離は無い。

 すぐ隣の部屋を遠慮がちにノックする。寝ていたら仕方が無い。いつも通りの時間に起床し、出来る限り早く帰れるようにしよう。
 プランBを思い浮かべていると、急にドアが開かれる。はっとして顔を上げた瞬間――心臓が止まるかと思った。

「あっ、あ、アロイスさん!」
「メヴィか。何か用があるんじゃ無かったのか? 随分と驚いているようだが」

 思わず挙動不審になってしまったのを、適当に言い繕って誤魔化す。
 そして、逸る心臓を押さえながらそうっとアロイスを見上げた。
 ――改めて見てみるも、やはり彼はどこからどう見たって風呂上がりのようだった。髪を乾かさないのだろう。やや長めの髪からはポタポタと細く水が滴っている。首に掛けたタオルでさえ神々しく見えるのだから不思議だ。

 水も滴るなんとやら。心臓に悪い光景を目の当たりにしつつ、驚愕の出来事で用事の部分が吹っ飛んだので肝心の用事が口から出て来ない。あたふたとしている間に、アロイスの方からアクションを起こした。

「何だか分からないが、用事があるのか? 廊下ではなんだ、中に入ると良い。とは言っても、宿だからな。飲み物くらいしか用意は出来ないが」
「あ、ありがとうございます……!!」

 招かれるまま、部屋へと入る。彼愛用の大剣が壁に立て掛けてあるのが見えた。まさにアロイスが使っている部屋、という気がして更に頭が混乱する。

「何だか大変そうだった。午後7時と、8時半頃に何度か呼びに行ったが全然気付いて貰えなかった。勉強も良いが、あまり無理はしない方が良い」
「えっ、何度か来たんですか?」
「ああ。返事が無かったから、先に夕食を摂ってしまった。ちゃんと食事はしたのか?」
「え、ええ。まあ……」

 咄嗟に嘘を吐いてしまった。
 しかし、妙に頭の片隅が冷静になった事により当初の目的が脳内に蘇る。

「ああそうだ、アロイスさん。私、用事があったんです」
「そうだろうな。どうだ、思い出せたか?」
「はい。取り敢えず、借りた本はもう読み終わるので、明日朝一で本を返してヴァレンディアに戻りましょう」
「随分と急ぎだな。慌てなくて良いぞ」
「あ、いや、アロイスさんもずっとシルベリアにいたって、やる事無いでしょう?」
「お前がそう言うのであれば、そうするが……。あまり俺の事は気にしなくて良い。護衛とは、元来そういうものだ。とにかく、その予定にするのならば起きた後はお前を起こしに行くべきだろうか、メヴィ?」

 正直なところ、アロイスに合わせて早起きが出来るかと言われれば自信は無い。なので、メイヴィスはそのサービスを謹んで受けることにした。

「はい、起こして貰って良いですか?」
「ふふ、分かった。では、起こしに行くとしよう」

 よし、これで明日寝坊する事は無いはずだ。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※基本週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...