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2話:悪意蔓延る町
01.フリースペース(1)
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1話をクリアしたからか、ゲーム内に新機能が増えた。今度こそ強化メニューが追加されるのかと思ったが、予想を裏切り『チャット』、『フリースペース』が項目に増えたのである。
しかし、烏羽の機嫌が悪いし忙しいので3日間は手を付ける事が出来ず。存在だけを確認した状態だが、そろそろ触ってみなければならないだろう。
「はぁ……」
ログインする為のハードを頭に装着しながら、花実は盛大な溜息を吐いた。マジ切れしていた烏羽が非常に恐ろしかったので、あまり顔を合わせたくないのだ。八つ裂き発言が本当の事だったのも結構な衝撃だった上、その場の出任せではなく本気。
連続殺人犯に「これから貴方を殺害します」と言われたら、こんな感じなのかもしれない。嘘を見抜く特技がこんな予想だにしない方面で猛威を振るってくるだなんて。無防備な所にボディブローを受けた気分である。
憂鬱な気分でゲームにログインする。そして相変わらず実装される気配の無いログボ。自室に辿り着いてすぐ、盛大な溜息を吐く。こんなにゲームを始めるのに嫌な気分を味わったのは初めての経験だ。
――と、心の準備が出来ないままに部屋の戸がカリカリと引っかかれるような音。犬や猫が長い爪で木材を引っ掻くような音に、一瞬だけ思考が止まる。
それが何であったのかは、戸の外から聞こえてきた声によって氷解した。
「召喚士殿ぉ……。やぁっと戻られましたね……」
「ひぇっ……」
あまりにもお喋りなので聞き慣れてしまった、初期神使の声。非常にねっとりした恨みがましいボイスに息を呑む。想像もしていなかった展開に思考は置き去り。烏羽は花実の心中など慮る事無く恨み節を続ける。
「3日間もこの烏羽を放置するなど……召喚士でなければどうなっていた事か分かりませんよ、ええ。ああ、本当に――本当に、退屈で死ぬかと思いました。私が何かしましたでしょうか。薄藍の件で怒り心頭だとでも? ええ、私は貴方様の為を思って意見したと言うのに……何と殺生な……」
恨み言の中に嘘を混ぜ込む事も忘れない烏羽はガリガリと戸を引っ掻いている。あれ、もしかして和製ホラー始まったか?
あまりのホラー的な意味合いを持つ恐怖に暫し呆然としていると、カリカリガリガリと響いていた音が不意にピタリと止んだ。ややあって、先程までの恨み節など無かったかのように、通常と変わらない胡散臭い声へと変わる。
「――失礼致しました。さあ、召喚士殿。今日も愉しくげぇむを始めましょうか、ええ」
「ええ……」
――あ、もしかしてさっきの、放置ボイスだったのかな? 台詞の再生が終わったから、いつもの感じに戻ったのかも。
あまりにハッキリとしていて、脈絡の無い切り替えにある種の納得を覚える。そうだった。声優の演技がガチ過ぎて忘れていたが、烏羽の言う通りこれはゲーム。そしてそろそろストーリーを進めなければならない。
何せこれはアルバイト。この時間に給料が発生しているのであり、サボりは良く無い。
そっと戸を開ける。胡散臭い笑みを浮かべた初期神使がこちらを見下ろしていた。機嫌が良さそうに振舞っているが、これは普段通り。嘘である。
呼吸をするように嘘を吐く彼は、機嫌こそさほど良くないだろうが通常運転ではあるらしい。
部屋から出るのではなく、部屋に配置された机。その座布団に座り直した花実は突っ立っている彼に尋ねた。
「新機能のフリースペースとチャットが解禁されたんだけど、これは何をする機能なの? いや、何をするかは分かるけど、どうやって使うのかな?」
ゲーム内端末のスマートフォンは新機能について一切説明してくれなかった為、烏羽に訊ねてみた。神使は「ああ」と興味も無さそうに頷くと、本当に興味が無い体で話始める。
「ふりぃすぺぇす、とやらは情報交換所のようですね。ええ、何でも同じさーばぁの召喚士と擬似的に会う事が出来るとか。まあ、私は行った事が無いので知りませんけれど。はい」
「そう。折角実装されたし、使ってみようかな。バナーをタップ……」
ストーリーの時と同じで、スマホから門へ移動するよう指示を受ける。あれの前でしか使えない機能なのか。
ところでサーバーについてだが、花実は12サーバーに所属している。同サーバーのプレイヤーはつまり同期となる訳だ。人数がどのくらい居るのかまでは分からないが、1~11サーバーも存在している訳なので、全てを合わせたらそこそこのプレイヤー数になる事だろう。
尤も、フリースペースで会えるのは同サーバーのプレイヤーのみのようだが。ネタバレ防止策なのかもしれない。あくまでβ版のテストプレイ人員なのだし。
などと考えていると、少し考え込んでいた烏羽が不意に口を開いた。
「そちらへ行くのは構いませんが、神使を一人連れて行かなければなりませんよ。ええ。この社には私しか神使がいませんので、必然的にこの烏羽を連れて行かなければなりませんねぇ! ははは!」
――何がそんなに面白いんだ……。
ニヤニヤとしている烏羽に思う所はあったものの、召喚画面も相変わらず再召喚が出来る状態ではないし、そうであれば言う通り彼を連れて行くしかない。
というか、次の召喚はいつ使えるのだろうか? ゲームを始めてから1週間近くが経っていると言うのに、まだ神使が1人しかいない。当然ながらβ版なので課金するという手段すら使えないのだが。後で運営に問い合わせた方が良いかもしれない。
「じゃあフリースペース、行ってみようか」
「御意に。ふふ、はははは……! なかなかどうして、面白くなって参りましたねぇ、ええ!」
「……」
一人で楽しそうな烏羽をそのままに、花実は社から出る為、座布団から立ち上がったのだった。
しかし、烏羽の機嫌が悪いし忙しいので3日間は手を付ける事が出来ず。存在だけを確認した状態だが、そろそろ触ってみなければならないだろう。
「はぁ……」
ログインする為のハードを頭に装着しながら、花実は盛大な溜息を吐いた。マジ切れしていた烏羽が非常に恐ろしかったので、あまり顔を合わせたくないのだ。八つ裂き発言が本当の事だったのも結構な衝撃だった上、その場の出任せではなく本気。
連続殺人犯に「これから貴方を殺害します」と言われたら、こんな感じなのかもしれない。嘘を見抜く特技がこんな予想だにしない方面で猛威を振るってくるだなんて。無防備な所にボディブローを受けた気分である。
憂鬱な気分でゲームにログインする。そして相変わらず実装される気配の無いログボ。自室に辿り着いてすぐ、盛大な溜息を吐く。こんなにゲームを始めるのに嫌な気分を味わったのは初めての経験だ。
――と、心の準備が出来ないままに部屋の戸がカリカリと引っかかれるような音。犬や猫が長い爪で木材を引っ掻くような音に、一瞬だけ思考が止まる。
それが何であったのかは、戸の外から聞こえてきた声によって氷解した。
「召喚士殿ぉ……。やぁっと戻られましたね……」
「ひぇっ……」
あまりにもお喋りなので聞き慣れてしまった、初期神使の声。非常にねっとりした恨みがましいボイスに息を呑む。想像もしていなかった展開に思考は置き去り。烏羽は花実の心中など慮る事無く恨み節を続ける。
「3日間もこの烏羽を放置するなど……召喚士でなければどうなっていた事か分かりませんよ、ええ。ああ、本当に――本当に、退屈で死ぬかと思いました。私が何かしましたでしょうか。薄藍の件で怒り心頭だとでも? ええ、私は貴方様の為を思って意見したと言うのに……何と殺生な……」
恨み言の中に嘘を混ぜ込む事も忘れない烏羽はガリガリと戸を引っ掻いている。あれ、もしかして和製ホラー始まったか?
あまりのホラー的な意味合いを持つ恐怖に暫し呆然としていると、カリカリガリガリと響いていた音が不意にピタリと止んだ。ややあって、先程までの恨み節など無かったかのように、通常と変わらない胡散臭い声へと変わる。
「――失礼致しました。さあ、召喚士殿。今日も愉しくげぇむを始めましょうか、ええ」
「ええ……」
――あ、もしかしてさっきの、放置ボイスだったのかな? 台詞の再生が終わったから、いつもの感じに戻ったのかも。
あまりにハッキリとしていて、脈絡の無い切り替えにある種の納得を覚える。そうだった。声優の演技がガチ過ぎて忘れていたが、烏羽の言う通りこれはゲーム。そしてそろそろストーリーを進めなければならない。
何せこれはアルバイト。この時間に給料が発生しているのであり、サボりは良く無い。
そっと戸を開ける。胡散臭い笑みを浮かべた初期神使がこちらを見下ろしていた。機嫌が良さそうに振舞っているが、これは普段通り。嘘である。
呼吸をするように嘘を吐く彼は、機嫌こそさほど良くないだろうが通常運転ではあるらしい。
部屋から出るのではなく、部屋に配置された机。その座布団に座り直した花実は突っ立っている彼に尋ねた。
「新機能のフリースペースとチャットが解禁されたんだけど、これは何をする機能なの? いや、何をするかは分かるけど、どうやって使うのかな?」
ゲーム内端末のスマートフォンは新機能について一切説明してくれなかった為、烏羽に訊ねてみた。神使は「ああ」と興味も無さそうに頷くと、本当に興味が無い体で話始める。
「ふりぃすぺぇす、とやらは情報交換所のようですね。ええ、何でも同じさーばぁの召喚士と擬似的に会う事が出来るとか。まあ、私は行った事が無いので知りませんけれど。はい」
「そう。折角実装されたし、使ってみようかな。バナーをタップ……」
ストーリーの時と同じで、スマホから門へ移動するよう指示を受ける。あれの前でしか使えない機能なのか。
ところでサーバーについてだが、花実は12サーバーに所属している。同サーバーのプレイヤーはつまり同期となる訳だ。人数がどのくらい居るのかまでは分からないが、1~11サーバーも存在している訳なので、全てを合わせたらそこそこのプレイヤー数になる事だろう。
尤も、フリースペースで会えるのは同サーバーのプレイヤーのみのようだが。ネタバレ防止策なのかもしれない。あくまでβ版のテストプレイ人員なのだし。
などと考えていると、少し考え込んでいた烏羽が不意に口を開いた。
「そちらへ行くのは構いませんが、神使を一人連れて行かなければなりませんよ。ええ。この社には私しか神使がいませんので、必然的にこの烏羽を連れて行かなければなりませんねぇ! ははは!」
――何がそんなに面白いんだ……。
ニヤニヤとしている烏羽に思う所はあったものの、召喚画面も相変わらず再召喚が出来る状態ではないし、そうであれば言う通り彼を連れて行くしかない。
というか、次の召喚はいつ使えるのだろうか? ゲームを始めてから1週間近くが経っていると言うのに、まだ神使が1人しかいない。当然ながらβ版なので課金するという手段すら使えないのだが。後で運営に問い合わせた方が良いかもしれない。
「じゃあフリースペース、行ってみようか」
「御意に。ふふ、はははは……! なかなかどうして、面白くなって参りましたねぇ、ええ!」
「……」
一人で楽しそうな烏羽をそのままに、花実は社から出る為、座布団から立ち上がったのだった。
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