ガチャから不穏なキャラしか出てきません

ねんねこ

文字の大きさ
22 / 74
2話:悪意蔓延る町

01.フリースペース(1)

しおりを挟む
 1話をクリアしたからか、ゲーム内に新機能が増えた。今度こそ強化メニューが追加されるのかと思ったが、予想を裏切り『チャット』、『フリースペース』が項目に増えたのである。
 しかし、烏羽の機嫌が悪いし忙しいので3日間は手を付ける事が出来ず。存在だけを確認した状態だが、そろそろ触ってみなければならないだろう。

「はぁ……」

 ログインする為のハードを頭に装着しながら、花実は盛大な溜息を吐いた。マジ切れしていた烏羽が非常に恐ろしかったので、あまり顔を合わせたくないのだ。八つ裂き発言が本当の事だったのも結構な衝撃だった上、その場の出任せではなく本気。
 連続殺人犯に「これから貴方を殺害します」と言われたら、こんな感じなのかもしれない。嘘を見抜く特技がこんな予想だにしない方面で猛威を振るってくるだなんて。無防備な所にボディブローを受けた気分である。

 憂鬱な気分でゲームにログインする。そして相変わらず実装される気配の無いログボ。自室に辿り着いてすぐ、盛大な溜息を吐く。こんなにゲームを始めるのに嫌な気分を味わったのは初めての経験だ。
 ――と、心の準備が出来ないままに部屋の戸がカリカリと引っかかれるような音。犬や猫が長い爪で木材を引っ掻くような音に、一瞬だけ思考が止まる。
 それが何であったのかは、戸の外から聞こえてきた声によって氷解した。

「召喚士殿ぉ……。やぁっと戻られましたね……」
「ひぇっ……」

 あまりにもお喋りなので聞き慣れてしまった、初期神使の声。非常にねっとりした恨みがましいボイスに息を呑む。想像もしていなかった展開に思考は置き去り。烏羽は花実の心中など慮る事無く恨み節を続ける。

「3日間もこの烏羽を放置するなど……召喚士でなければどうなっていた事か分かりませんよ、ええ。ああ、本当に――本当に、退屈で死ぬかと思いました。私が何かしましたでしょうか。薄藍の件で怒り心頭だとでも? ええ、私は貴方様の為を思って意見したと言うのに……何と殺生な……」

 恨み言の中に嘘を混ぜ込む事も忘れない烏羽はガリガリと戸を引っ掻いている。あれ、もしかして和製ホラー始まったか?
 あまりのホラー的な意味合いを持つ恐怖に暫し呆然としていると、カリカリガリガリと響いていた音が不意にピタリと止んだ。ややあって、先程までの恨み節など無かったかのように、通常と変わらない胡散臭い声へと変わる。

「――失礼致しました。さあ、召喚士殿。今日も愉しくげぇむを始めましょうか、ええ」
「ええ……」

 ――あ、もしかしてさっきの、放置ボイスだったのかな? 台詞の再生が終わったから、いつもの感じに戻ったのかも。
 あまりにハッキリとしていて、脈絡の無い切り替えにある種の納得を覚える。そうだった。声優の演技がガチ過ぎて忘れていたが、烏羽の言う通りこれはゲーム。そしてそろそろストーリーを進めなければならない。
 何せこれはアルバイト。この時間に給料が発生しているのであり、サボりは良く無い。

 そっと戸を開ける。胡散臭い笑みを浮かべた初期神使がこちらを見下ろしていた。機嫌が良さそうに振舞っているが、これは普段通り。嘘である。
 呼吸をするように嘘を吐く彼は、機嫌こそさほど良くないだろうが通常運転ではあるらしい。

 部屋から出るのではなく、部屋に配置された机。その座布団に座り直した花実は突っ立っている彼に尋ねた。

「新機能のフリースペースとチャットが解禁されたんだけど、これは何をする機能なの? いや、何をするかは分かるけど、どうやって使うのかな?」

 ゲーム内端末のスマートフォンは新機能について一切説明してくれなかった為、烏羽に訊ねてみた。神使は「ああ」と興味も無さそうに頷くと、本当に興味が無い体で話始める。

「ふりぃすぺぇす、とやらは情報交換所のようですね。ええ、何でも同じさーばぁの召喚士と擬似的に会う事が出来るとか。まあ、私は行った事が無いので知りませんけれど。はい」
「そう。折角実装されたし、使ってみようかな。バナーをタップ……」

 ストーリーの時と同じで、スマホから門へ移動するよう指示を受ける。あれの前でしか使えない機能なのか。

 ところでサーバーについてだが、花実は12サーバーに所属している。同サーバーのプレイヤーはつまり同期となる訳だ。人数がどのくらい居るのかまでは分からないが、1~11サーバーも存在している訳なので、全てを合わせたらそこそこのプレイヤー数になる事だろう。
 尤も、フリースペースで会えるのは同サーバーのプレイヤーのみのようだが。ネタバレ防止策なのかもしれない。あくまでβ版のテストプレイ人員なのだし。
 などと考えていると、少し考え込んでいた烏羽が不意に口を開いた。

「そちらへ行くのは構いませんが、神使を一人連れて行かなければなりませんよ。ええ。この社には私しか神使がいませんので、必然的にこの烏羽を連れて行かなければなりませんねぇ! ははは!」

 ――何がそんなに面白いんだ……。
 ニヤニヤとしている烏羽に思う所はあったものの、召喚画面も相変わらず再召喚が出来る状態ではないし、そうであれば言う通り彼を連れて行くしかない。
 というか、次の召喚はいつ使えるのだろうか? ゲームを始めてから1週間近くが経っていると言うのに、まだ神使が1人しかいない。当然ながらβ版なので課金するという手段すら使えないのだが。後で運営に問い合わせた方が良いかもしれない。

「じゃあフリースペース、行ってみようか」
「御意に。ふふ、はははは……! なかなかどうして、面白くなって参りましたねぇ、ええ!」
「……」

 一人で楽しそうな烏羽をそのままに、花実は社から出る為、座布団から立ち上がったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...