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2話:悪意蔓延る町
14.トラブル(1)
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ともかく、烏羽を部屋の外に立たせておく訳にもいかない。窓から離れた花実は、玄関の戸を開け放った。うっそりと微笑む初期神使があまりにも戸に近い距離に立っている。いつも思うが物理的な距離が異様に近い時があるのは何なのか。
呆然としたのも束の間、クツクツと嗤い声を漏らした彼が口を開く。
「いけませんねぇ、召喚士殿。外に誰がいるのか、よくよく確認してから戸は開けねば。ええ、私ではなかったらどうなさるおつもりだったのでしょうか」
彼は名前を名乗った。『烏羽が参りました』、と。この時点で別人ならば嘘センサーに引っ掛かり、すぐに分かるのでそれなりに確信を持った状態で戸は開けた。それをデータに説明した所で無駄なので、適当に頷いてスルーしたが。
話を真面目に聞いていない事を看破されてしまったのだろう。余計に愉しそうな顔をした烏羽が更に言葉を続ける。
「緊急事態のようですよ、ええ。さて、どうされます? 早速、見物しに行ってみましょうか」
「場所は結構、離れているのかな?」
「火が上がっている場所とこの宿には、それなりの距離がありますね。はい。しかし、流石の私と言えど火事地点が物事の発端かどうかは分かりません。ええ」
「取り敢えず、外に出てみようかな……。もう事は起こってる訳だし、宿の主人とかに顔を出して出掛けますアピールしとこ」
一応、自分達は変な事をしないよう、監視の意味を込めて宿に放置されている。それが勝手に動き回れば良い顔はされないだろう。何についてピリついているのかはまだ定かではないが、「事が起こった後に宿から出た」のを第三者が証明すれば酷い扱いは受けないはずだ。
それに、ここで宿に引き籠もっているのも薄群青達の不信感を煽りかねない。本当に召喚士なんすか、アンタ。と言われる未来が見えるようだ。
***
きちんと宿屋の主人に出掛ける旨を伝え、宿の外へ。消火活動が行われているおかげか、もう燃え盛る建物は無かった。このゲームには魔法に似た術なる物が存在しているので、火を消すという作業に恐らくは差ほどの労力は掛からないだろう。掛かっているのは輪力という謎の力である。
町の内部は混乱を極めていた。宿付近は被害を受けていないが、それでも町の住人達が胡乱げな視線で火が上がっていた方を見ており、彼等彼女等は騒動が起きてからすぐに外に出て来たのであろう事が伺える。
遠くでカンカン、と鐘を打ち鳴らす音が聞こえるが、それはここより更に混乱を極めている場所にて行われる避難誘導。まだ騒動は鎮圧されていないのだ。
――どこへ行ったらいいんだろう……。
どこもかしこも混乱している上、避難誘導の鐘はあちこちから聞こえてきている。音を頼りに現場へ行くのは難しいかもしれない。
「どこに行ったらいい訳?」
「ええ、西の方角が非常に混乱しているようです。大量の輪力を汲み上げる気配も感じ取れます。恐らく、神使の連中はそちらにいるかと。ええ、どうされます?」
問いに答えた烏羽はニヤニヤと嗤っている。この混迷極める町を愉しんでいるのだとすぐに分かった。
「えーっと、じゃあ現地まで案内して」
「承知」
全く足音を立てず、花実の横をスルリと通り抜けた烏羽が目的の定まった足取りで進み始める。慌ててその後を追った。
今回は神使達の集会で宣言した通り、召喚士の言う事を全て完璧に聞いてくれるつもりらしい。気分屋なので、途中で飽きたなどと言い出す可能性もあるが。ポーズだけでも優しく接してくれるのは有り難いものである。自分は普通にプレイヤーに優しいキャラクターの方が好きだからだ。
そして、今日の彼は大変機嫌が良い。スキップでも始めそうな軽い足取り、鼻歌でも歌い出しそうなハイテンションさ――端的に申し上げて、酷く不気味である。彼が上機嫌である時、碌な事が起こらないのは身を以て体験させられた。
「機嫌が良いね、烏羽」
「ええ! 何ともまあ、面白い事が起こっておりますので。ええ、疑心暗鬼が渦巻く町……とても愉しいですねぇ、はい。んふふふ、普段は善悪がどうのとほざく同僚共が猜疑心に苛まれている様は見ていて非常に愉快ですとも」
「猜疑心? 何か知っているの?」
「いいえ? 身内同士で疑り合っているようでしたので、ええ」
『いいえ』が完全に嘘だったのだが。やはりどこまで行っても烏羽は烏羽なのだと、呆れると同時に謎の安堵感さえある。
ゲームのプレイヤーよりずっとワクワクしている彼は舌舐めずりすらして、まるでラスボスのような貫禄すら醸し出している。そりゃ、薄群青から強く当たられる訳だと納得してしまった。
「さて、召喚士殿。もう間もなく、貴方様の言う所の『現場』とやらに到着しますよ。ええ、準備はよろしいですか?」
「準備?」
「先客がいるようですよ、ええ。と言うより、我々が飛び入り参加しようとしている、と言った方が正しいのでしょうが」
――先客?
瞬間、ボンッという明らかな爆発音が響く。ぎょっとして音がした方を見るも、丁度、建物に阻まれて様子を伺い知る事は叶わなかった。
混乱する花実に対し、烏羽がヒソヒソと口を開く。またも、内緒話をする距離感でだ。距離感がおかしい、と言うより相手を驚かせる為に敢えて距離感を狂わせているのが分かる動きだ。
「召喚士殿。先の集会所で顔を合わせた神使共が、既に到着していたようです。ええ、町を守護する神使としては当然の行いですとも! ……さあ、どうされます?」
「行ってみよう」
「ええ、ええ! そうこなくては! いきなり連中が我々に術を撃ってこないとも限りません。私の背から出ませんよう、ご注意くださいね……ふふふ」
そう言いつつコンパスの違いで、足早に進み始めた烏羽からすぐさま後れを取る。成程、あまりにも彼らしい配慮のなさにむしろ安心感を覚えた。
呆然としたのも束の間、クツクツと嗤い声を漏らした彼が口を開く。
「いけませんねぇ、召喚士殿。外に誰がいるのか、よくよく確認してから戸は開けねば。ええ、私ではなかったらどうなさるおつもりだったのでしょうか」
彼は名前を名乗った。『烏羽が参りました』、と。この時点で別人ならば嘘センサーに引っ掛かり、すぐに分かるのでそれなりに確信を持った状態で戸は開けた。それをデータに説明した所で無駄なので、適当に頷いてスルーしたが。
話を真面目に聞いていない事を看破されてしまったのだろう。余計に愉しそうな顔をした烏羽が更に言葉を続ける。
「緊急事態のようですよ、ええ。さて、どうされます? 早速、見物しに行ってみましょうか」
「場所は結構、離れているのかな?」
「火が上がっている場所とこの宿には、それなりの距離がありますね。はい。しかし、流石の私と言えど火事地点が物事の発端かどうかは分かりません。ええ」
「取り敢えず、外に出てみようかな……。もう事は起こってる訳だし、宿の主人とかに顔を出して出掛けますアピールしとこ」
一応、自分達は変な事をしないよう、監視の意味を込めて宿に放置されている。それが勝手に動き回れば良い顔はされないだろう。何についてピリついているのかはまだ定かではないが、「事が起こった後に宿から出た」のを第三者が証明すれば酷い扱いは受けないはずだ。
それに、ここで宿に引き籠もっているのも薄群青達の不信感を煽りかねない。本当に召喚士なんすか、アンタ。と言われる未来が見えるようだ。
***
きちんと宿屋の主人に出掛ける旨を伝え、宿の外へ。消火活動が行われているおかげか、もう燃え盛る建物は無かった。このゲームには魔法に似た術なる物が存在しているので、火を消すという作業に恐らくは差ほどの労力は掛からないだろう。掛かっているのは輪力という謎の力である。
町の内部は混乱を極めていた。宿付近は被害を受けていないが、それでも町の住人達が胡乱げな視線で火が上がっていた方を見ており、彼等彼女等は騒動が起きてからすぐに外に出て来たのであろう事が伺える。
遠くでカンカン、と鐘を打ち鳴らす音が聞こえるが、それはここより更に混乱を極めている場所にて行われる避難誘導。まだ騒動は鎮圧されていないのだ。
――どこへ行ったらいいんだろう……。
どこもかしこも混乱している上、避難誘導の鐘はあちこちから聞こえてきている。音を頼りに現場へ行くのは難しいかもしれない。
「どこに行ったらいい訳?」
「ええ、西の方角が非常に混乱しているようです。大量の輪力を汲み上げる気配も感じ取れます。恐らく、神使の連中はそちらにいるかと。ええ、どうされます?」
問いに答えた烏羽はニヤニヤと嗤っている。この混迷極める町を愉しんでいるのだとすぐに分かった。
「えーっと、じゃあ現地まで案内して」
「承知」
全く足音を立てず、花実の横をスルリと通り抜けた烏羽が目的の定まった足取りで進み始める。慌ててその後を追った。
今回は神使達の集会で宣言した通り、召喚士の言う事を全て完璧に聞いてくれるつもりらしい。気分屋なので、途中で飽きたなどと言い出す可能性もあるが。ポーズだけでも優しく接してくれるのは有り難いものである。自分は普通にプレイヤーに優しいキャラクターの方が好きだからだ。
そして、今日の彼は大変機嫌が良い。スキップでも始めそうな軽い足取り、鼻歌でも歌い出しそうなハイテンションさ――端的に申し上げて、酷く不気味である。彼が上機嫌である時、碌な事が起こらないのは身を以て体験させられた。
「機嫌が良いね、烏羽」
「ええ! 何ともまあ、面白い事が起こっておりますので。ええ、疑心暗鬼が渦巻く町……とても愉しいですねぇ、はい。んふふふ、普段は善悪がどうのとほざく同僚共が猜疑心に苛まれている様は見ていて非常に愉快ですとも」
「猜疑心? 何か知っているの?」
「いいえ? 身内同士で疑り合っているようでしたので、ええ」
『いいえ』が完全に嘘だったのだが。やはりどこまで行っても烏羽は烏羽なのだと、呆れると同時に謎の安堵感さえある。
ゲームのプレイヤーよりずっとワクワクしている彼は舌舐めずりすらして、まるでラスボスのような貫禄すら醸し出している。そりゃ、薄群青から強く当たられる訳だと納得してしまった。
「さて、召喚士殿。もう間もなく、貴方様の言う所の『現場』とやらに到着しますよ。ええ、準備はよろしいですか?」
「準備?」
「先客がいるようですよ、ええ。と言うより、我々が飛び入り参加しようとしている、と言った方が正しいのでしょうが」
――先客?
瞬間、ボンッという明らかな爆発音が響く。ぎょっとして音がした方を見るも、丁度、建物に阻まれて様子を伺い知る事は叶わなかった。
混乱する花実に対し、烏羽がヒソヒソと口を開く。またも、内緒話をする距離感でだ。距離感がおかしい、と言うより相手を驚かせる為に敢えて距離感を狂わせているのが分かる動きだ。
「召喚士殿。先の集会所で顔を合わせた神使共が、既に到着していたようです。ええ、町を守護する神使としては当然の行いですとも! ……さあ、どうされます?」
「行ってみよう」
「ええ、ええ! そうこなくては! いきなり連中が我々に術を撃ってこないとも限りません。私の背から出ませんよう、ご注意くださいね……ふふふ」
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