ガチャから不穏なキャラしか出てきません

ねんねこ

文字の大きさ
44 / 74
2話:悪意蔓延る町

23.進展(2)

しおりを挟む
「――おや、見送ってしまわれるのですか」

 若干、残念そうにそう呟いたのは烏羽だ。当然、この台詞は花実が汚泥を討伐しに行った神使達を見送った事に対するそれである。
 勿論ただ待っている訳ではないので、特に烏羽の機嫌は関係無く、これからやる事を淡々と初期神使に伝える。

「いや、今からこっそり褐返達を追いかけて、証拠でも掴んでやろうかなと思って」
「それはいい! ええ、今すぐに出発致しましょう。まさか、ご聡明な召喚士殿が言われるまま、ただ神使の帰還を待つなどとはあり得ないお話でしたねえ。ええ、大変! 大変失礼致しました!」

 大袈裟に謝っているが、申し訳無いという発言は全て大嘘である。自分が悪い、なんて微塵も思っていないのだろう。彼が悪い事をした訳ではないが、口先だけなら謝罪などしないで欲しいものである。
 冷めた目でじっとりと初期神使サマを見つめると、奴は小さく首を傾げた。可愛らしい仕草のはずなのに、大男がやればただただゴツいだけで単純に吃驚する。

「それじゃあ、早速追いかけようか。烏羽、みんながどっちに行ったのかは分かる?」
「それは分かりますが、かなりの速度ですねぇ。ええ、人間というお荷物を抱えていなければ当然ですが……。どうやって追い付くつもりで? 言っておきますが、人間が持ちうる体力という概念を廃した状態でも、貴方様の御御足で追い付くのは不可能です」
「えっ、プレイヤーにも体力って概念あるの? いや、そもそも神使にも数値の概念が見当たらない――」
「おやおや、素晴らしいですねぇ、召喚士殿。貴方様は足の速ささえ考慮に入れなければ、何時間でも走り続けられると。人間ではないらしい」

 通常の人間の話ではなく、ゲーム内システムの話なのだが。そう思ったが、悲しい事に烏羽の言い分は現実世界においては当然の話だったので反論の余地はなかった。現実に限りなく寄せた設定が多いようだし、普通に息切れするくらい走れば、物理的に走れなくなるという事か。これが分からない。
 ――いや待って、それどころじゃないや。もしかして、この作戦って決行する以前の問題が山積み?

「えーっと、何か今から追いかけて神使に追い付く方法ってないの?」
「ふむ。まあ、ここで待っているのも退屈極まりない。ええ、良いでしょう。私が現場まで召喚士殿を運びましょう」
「ふーん、よろしく」
「全く、私に荷物持ちをさせようなど。ええ、そのような事をさせられたのは初めてです」

 酷く嫌味っぽくそう言った烏羽に嘘は無い。人を運んだ経験は本当にないようだ。大丈夫か? 最悪、自分が舌を噛み切るかその他諸々の事情で死亡する未来が見えるのだが。
 現実逃避に意識を飛ばしていると、ひょいとまるで荷物のように持ち上げられた。当然のように両足が床から浮き、ぎょっとして息を呑む。烏羽の提案をかなり気軽に受入れてしまったが、もしかしてこれは大変危険な行為なのでは――
 今更、怖じ気づいているとそれを察したのか、クツクツと意地悪く笑う烏羽。完全に面白がっているし、誰にでも分かってしまう軽微な悪意を滲ませている。

「さて、それでは参りましょうか。ええ、時間が押しております故。それと……口は、あまり開かない方がよろしいですねぇ、はい」

 瞬間、こちらの返事を聞く暇もなく、軽やかに烏羽が地を蹴った。大股で宿から出、そこからは本当の意味でスピード感のある展開だった。走ると言うより、滑空。滑るように、1歩1歩でグングンと前へ前へと進む。足をあまり、地面につかないような走り方で、およそ人間の『走る』という行為とは似ても似つかない。
 上下左右の揺れはあまり無いが、移り変わる景色に目が回る。凄まじい速度だ。確実に車より速い。

「うっぷ……」

 景色に酔ってきた花実はぐったりと目を閉じた。

 ***

「さて、もう現場に着きますよ。召喚士殿、いつまで目を回しておいでで? ええ、人間とは脆い生き物ですねぇ」

 頭上から面白がっている烏羽の声が降ってくる。返事とも呻き声ともつかない声を漏らした花実は、恐る恐る目を開いた。そこには町民が避難してしまい、閑散とした寂しい通りが広がるだけだ。
 神使達の姿も見えず、周囲を見回していると初期神使が補足説明する。

「あの道から右へ曲がれば、神使の誰かがいます。ええ、交戦中のようですね。形容し難い、何かが燃える臭いがします。火気の術を使用したのでしょう。ええ、早速、様子を伺ってみますか?」
「どの神使がいるのかまでは分からないの?」
「分かりかねますねぇ。運が良ければ褐返で当たりかもしれませんよ。ええ」

 確率は3分の1。早速、この場にいる神使の様子を伺ってみよう。一発目で褐返を引ければ、これ以上あの恐ろしい乗り物に運ばれずに済むのだが。
 あの角を右に。足を踏み出そうとした瞬間、やはり何かを企んでいるであろう烏羽から肩を掴まれた。強い力ではなく、やんわりとした、逆に警戒してしまうような力だ。

「え、なに?」
「危ないですよぅ、召喚士殿。貴方、裏切者から命を狙われている可能性があるのを失念しているのでは? ええ、もっと慎重に行動しなければ。その内、あっさりと……なんて事もあるかもしれませんよ。ふふふ……」
「あ、うん。じゃあ、付き添いよろしく」
「んふふふ、ふふふふふ……。ええ、それではこちらですよ」

 何故か足取りの軽い烏羽。花実は首を傾げながら、その背を追った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

暗殺者の少女、四大精霊に懐かれる。〜異世界に渡ったので、流浪の旅人になります〜

赤海 梓
ファンタジー
「…ここは、どこ?」  …私、そうだ。そういえば… 「貴女、ここで何をしておる」 「わっ」  シュバッ 「…!?」  しまった、つい癖で回り込んで首に手刀を当ててしまった。 「あっ、ごめんなさい、敵意は無くて…その…」  急いで手を離す。  私が手刀をかけた相手は老人で、人…であはるが、人じゃない…? 「ふははは! よかろう、気に入ったぞ!」 「…え?」  これは暗殺者として頂点を飾る暗殺者が転生し、四大精霊に好かれ、冒険者として日銭を稼ぎ、時に人を守り、時に殺め、時に世界をも救う…。そんな物語である…!

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

処理中です...