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2話:悪意蔓延る町
28.適材適所(1)
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事態はすぐに変化した。烏羽が駆け付ける――と、思いたいが――数分間、或いは数十分間をどうやって保たせるかと頭を悩ませていたのだが、件の初期神使殿がすぐに姿を現したからだ。
薄藍が音を立てて危険を報せてから1分も経たずしてひょっこりと姿を見せた彼はいつも通りの意地が悪い笑みを浮かべていた。もしかすると、この辺りでずっとスタンバイしていたのかもしれない。
しかし、感動の再会に浸る暇は当然なかった。嫌な方向に吹っ切れた灰梅が、ゾンビ洋画みたいな勢いで薄藍に飛び掛かって行ったからだ。戦闘開始、と言うより知性も何も無くただただ突っ込んできたような印象が強い。
「ぐっ……」
それでも薄藍にとっては脅威だったのだろう、顔をしかめてさっさと烏羽より後ろに下がってしまった。もしステータスという概念があったら、彼の防御値は下から数えた方が早そうなくらいにペラッペラなので当然のロールと言える。
現れてこっち、まだ台詞を口にする機会が与えられていなかった烏羽が「おやおや」と目を細めて小馬鹿にしたように嗤う。嫌な印象しか無い笑顔だ。
「人を呼び付けておいて、自分は安全圏から観察ですか。ええ、大層なご身分ですねぇ、薄藍殿。私、感動致しました。ふふふ」
「世の中は適材適所で回っていますので」
「ご自身の発言を正当化するのがお上手ですねぇ。ともかく、このままでは召喚士殿の身に危険が及ぶやもしれません。ええ、裏切者のもう一方と二人きりで行動し、しかも襲われるなどという不手際は――ええ! 触れない方がよろしいのでしょうね!」
烏羽は最高に愉しそうだ。しかし、彼が愉しい気分になると反比例して周囲は楽しくなくなる。それが神使、烏羽という存在だ。
そんな初期神使は――何故か、花実の方に謎の期待を込めた視線を送ってきている。何なんだ、どうして欲しいのかさっぱり分からない。けれど、困惑するプレイヤーの表情を見て彼は更に愉しげだ。
――……あ、もしかして指示待ちしてる?
ストーリー1話の時は好き勝手していたが、2話に入ってからプレイヤーの指示を聞くなどと言い出したので今もそれを待っているのだろう。
と、襲い掛かって来た灰梅の攻撃を烏羽がひらりと躱した。烏羽は相も変わらず、花実の方をわざとらしくチラチラと伺っている。
こんな不毛なやり取りをいつまでも続けている訳にはいかない。彼が何をどうしたいのか難解過ぎて理解が出来ないが、出来ないなりに思い当たる指示出しという作業に着手する事にした。
「あ、戦闘お願いしまーす」
「はぁ……。ええ、承知致しました。召喚士殿には自身の不手際を恥じるお心が無いようで。ええ、何よりでございますとも」
――あっ! 目論見が外れて、泣く泣く神使に頼るプレイヤーを見たかったのか!
流石にゲームを始めて数日。初期神使の歪みに歪んだ性格をやや把握できるようになってきている。
しかしまあ、烏羽の発想はまだ20年も生きていない小娘には通用しないだろう。自身のミスに深く反省する程に成熟しきっていないというか、そもそもゲームと割り切っているので失敗も何のそのである。取り返しがつく要素だし。
けろっとした顔をしていたからだろうか。もう一つ盛大な溜息を吐いた烏羽は、もうそれ以上に嫌味を言う事無く灰梅に向き直った。
彼女は覚束ない足取りでゆらゆらと揺れている。ボーッとしている時間が長いのは、阿久根村での薄藍戦と似たような挙動だ。猛烈な勢いで戦闘を仕掛けてこないあたり、まだストーリーも2話目である為、若干のチュートリアル感を感じて止まない。
灰梅の事を考えていたせいで、彼女との会話が脳内でリフレインする。神使の装備武器の話だ。彼女曰く、烏羽も自分の武器を所持しているとの事だったが、残念ながらプレイヤーから見れば彼は丸腰に見える。薄桜の時のように、何も無い空間から得物を取り出すのだろうか? さっぱり分からない。
そして、花実に武器の情報を与えた灰梅もまた徒手空拳だ。操作状態だと知能が著しく低下するようなので、得物を使用するという思考回路にまで至れていないのかもしれないが。
――と、事態が動く。
武器の存在は思い出せなかったが、術の存在を思い出した灰梅が何事かを呟くと、周囲に火球が出現した。大きさにしてバレーボールくらいのサイズに加え、数はざっと数えて7つ程。巨大な火の玉のようにも見えるし、行き過ぎた曲芸のようにも見える。
最初に動いたのは、意外にも薄藍だった。彼の行動は非常に素早かったと言える。
即座に踵を返した彼は、一直線に花実の元に駆けてきた。滑るようにプレイヤーの元へ到着した彼から、やんわりと手を引かれる。
「召喚士殿、ここは危険です。こちらへ」
「あ、はい……」
思わず敬語で応答してしまった。β版のゲームにキャラ萌え系のオタクがいるのかは不明だが、薄藍推しのオタクはここで死ぬのではないだろうか。
が、浮かれたオタクに全力で水を差す存在がいる。初期神使にして、小姑のような嫌味をも網羅した男、烏羽だ。
「薄藍殿、流石に私への丸投げが過ぎるのではありませんか? ええ、薄色しりぃずの皆様に戦闘面での活躍など期待してはおりませんが!」
「そうでしょう。ならそれでいいじゃないですか。正直、烏羽殿は人間であられる召喚士殿をその辺に放置しそうなので、僕がお守りしていますよ」
仲が悪いというレベルではない。ただし、信頼度は薄藍の方が段違いに高いので花実はゲストメンバーである彼の指示に従ったのだった。
薄藍が音を立てて危険を報せてから1分も経たずしてひょっこりと姿を見せた彼はいつも通りの意地が悪い笑みを浮かべていた。もしかすると、この辺りでずっとスタンバイしていたのかもしれない。
しかし、感動の再会に浸る暇は当然なかった。嫌な方向に吹っ切れた灰梅が、ゾンビ洋画みたいな勢いで薄藍に飛び掛かって行ったからだ。戦闘開始、と言うより知性も何も無くただただ突っ込んできたような印象が強い。
「ぐっ……」
それでも薄藍にとっては脅威だったのだろう、顔をしかめてさっさと烏羽より後ろに下がってしまった。もしステータスという概念があったら、彼の防御値は下から数えた方が早そうなくらいにペラッペラなので当然のロールと言える。
現れてこっち、まだ台詞を口にする機会が与えられていなかった烏羽が「おやおや」と目を細めて小馬鹿にしたように嗤う。嫌な印象しか無い笑顔だ。
「人を呼び付けておいて、自分は安全圏から観察ですか。ええ、大層なご身分ですねぇ、薄藍殿。私、感動致しました。ふふふ」
「世の中は適材適所で回っていますので」
「ご自身の発言を正当化するのがお上手ですねぇ。ともかく、このままでは召喚士殿の身に危険が及ぶやもしれません。ええ、裏切者のもう一方と二人きりで行動し、しかも襲われるなどという不手際は――ええ! 触れない方がよろしいのでしょうね!」
烏羽は最高に愉しそうだ。しかし、彼が愉しい気分になると反比例して周囲は楽しくなくなる。それが神使、烏羽という存在だ。
そんな初期神使は――何故か、花実の方に謎の期待を込めた視線を送ってきている。何なんだ、どうして欲しいのかさっぱり分からない。けれど、困惑するプレイヤーの表情を見て彼は更に愉しげだ。
――……あ、もしかして指示待ちしてる?
ストーリー1話の時は好き勝手していたが、2話に入ってからプレイヤーの指示を聞くなどと言い出したので今もそれを待っているのだろう。
と、襲い掛かって来た灰梅の攻撃を烏羽がひらりと躱した。烏羽は相も変わらず、花実の方をわざとらしくチラチラと伺っている。
こんな不毛なやり取りをいつまでも続けている訳にはいかない。彼が何をどうしたいのか難解過ぎて理解が出来ないが、出来ないなりに思い当たる指示出しという作業に着手する事にした。
「あ、戦闘お願いしまーす」
「はぁ……。ええ、承知致しました。召喚士殿には自身の不手際を恥じるお心が無いようで。ええ、何よりでございますとも」
――あっ! 目論見が外れて、泣く泣く神使に頼るプレイヤーを見たかったのか!
流石にゲームを始めて数日。初期神使の歪みに歪んだ性格をやや把握できるようになってきている。
しかしまあ、烏羽の発想はまだ20年も生きていない小娘には通用しないだろう。自身のミスに深く反省する程に成熟しきっていないというか、そもそもゲームと割り切っているので失敗も何のそのである。取り返しがつく要素だし。
けろっとした顔をしていたからだろうか。もう一つ盛大な溜息を吐いた烏羽は、もうそれ以上に嫌味を言う事無く灰梅に向き直った。
彼女は覚束ない足取りでゆらゆらと揺れている。ボーッとしている時間が長いのは、阿久根村での薄藍戦と似たような挙動だ。猛烈な勢いで戦闘を仕掛けてこないあたり、まだストーリーも2話目である為、若干のチュートリアル感を感じて止まない。
灰梅の事を考えていたせいで、彼女との会話が脳内でリフレインする。神使の装備武器の話だ。彼女曰く、烏羽も自分の武器を所持しているとの事だったが、残念ながらプレイヤーから見れば彼は丸腰に見える。薄桜の時のように、何も無い空間から得物を取り出すのだろうか? さっぱり分からない。
そして、花実に武器の情報を与えた灰梅もまた徒手空拳だ。操作状態だと知能が著しく低下するようなので、得物を使用するという思考回路にまで至れていないのかもしれないが。
――と、事態が動く。
武器の存在は思い出せなかったが、術の存在を思い出した灰梅が何事かを呟くと、周囲に火球が出現した。大きさにしてバレーボールくらいのサイズに加え、数はざっと数えて7つ程。巨大な火の玉のようにも見えるし、行き過ぎた曲芸のようにも見える。
最初に動いたのは、意外にも薄藍だった。彼の行動は非常に素早かったと言える。
即座に踵を返した彼は、一直線に花実の元に駆けてきた。滑るようにプレイヤーの元へ到着した彼から、やんわりと手を引かれる。
「召喚士殿、ここは危険です。こちらへ」
「あ、はい……」
思わず敬語で応答してしまった。β版のゲームにキャラ萌え系のオタクがいるのかは不明だが、薄藍推しのオタクはここで死ぬのではないだろうか。
が、浮かれたオタクに全力で水を差す存在がいる。初期神使にして、小姑のような嫌味をも網羅した男、烏羽だ。
「薄藍殿、流石に私への丸投げが過ぎるのではありませんか? ええ、薄色しりぃずの皆様に戦闘面での活躍など期待してはおりませんが!」
「そうでしょう。ならそれでいいじゃないですか。正直、烏羽殿は人間であられる召喚士殿をその辺に放置しそうなので、僕がお守りしていますよ」
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