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2話:悪意蔓延る町
29.適材適所(2)
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避難誘導の最中、視界の端で烏羽が灰梅と向き合っているのが見えた。やはり避難がどうこうと口を出してきたのは嫌味を言いたかっただけのようだ。今はもう慣れ始めているが、改めて彼の態度を見ると嫌煙されそうな性格だなと思う。
初期神使を眺めていると、神妙そうな口調で薄藍が話し始めた。
「烏羽殿が心配ですか?」
「え、いや……」
「契約に縛られて弱体化してはいるでしょうが、真面目にやれば灰梅殿に後れを取るような事はないでしょう」
――いや、烏羽は真面目にやらないでしょ……。
奴が戦闘を真面目にやっている所など、今までに見た事がない。好戦的なのですぐに手が出るのに、一番の攻撃方法は煽り芸だ。黙々と戦闘に従事している様など見た事もない。
そんな花実の気持ちをそれとなく汲み取っているのだろうか。薄藍はすっと目を逸らした。
などと話をしている内に戦局が動く。
最初に動いたのは、気怠そうに頭を抱えていた灰梅だった。烏羽と対峙して何らかのスイッチが入ったのだろうか。現状、異常行動を止めるという意思は見られないように感じる。
「灰梅殿は一応、赤系に属されているので――尤も得意なのは、火気の術になりますね」
いつもはボンヤリ戦闘を眺めているだけだったが、今回に限っては解説役・薄藍がいる。いつも何事が起きているか分からないで全てが終わっていたが、もしかしたら事の全容をプレイヤーでも理解出来るかもしれない。
薄藍の言った通り、灰梅の初手は生み出した火球を烏羽に放つという術系の攻撃だった。
ただし――ここまでは薄色系統の神使と同じ。あまり脅威を感じさせない、見た事のあるような術と行動である。当然の如く、火球は烏羽が撃った水の術によって鎮火されてしまった。
が、すぐに一連の様式美めいた術の撃ち合いがフェイクであった事に気付く。というのも、一瞬だけ烏羽に視線を向けている間に、灰梅の周囲には見慣れない球体が合計で5つ漂っていた。
つるりとした質感、曇天で鈍い陽光を受けて輝きを放っている。大きさはこれまた、バレーボールくらいのサイズだろうか。無色透明で向こう側が透けて見えている。有り体に言うなら、素材は水晶のようなソレだ。
「あれは……」
「灰梅殿の持つ武器は宝玉系統のようですね。いや、恐らく見た事はあるのでしょうが、お恥ずかしながら誰が何の武器を所持していたかを覚え続けるのは難しくて」
――分かる。人の顔と名前もなかなか覚えられないタイプだから、凄くよく分かる。
内心で同意しつつ、怪しげな占いの館に置かれているそれより大振りな宝玉とやらを眺める。家にディスプレイとして飾りたいくらいに綺麗な球体だ。
ここでいつもの煽り芸を封じるどころか、両者無言だった状況を変える烏羽。あまりにもサイレントな戦闘模様だと思っていたが、やはり長時間の無言は彼的にも許されざる状態だったらしい。
「ふふ、本当に情けない事ですね。裏切者が誰なのかも特定できず、いいように操られているなど。ええ、とても同じ神使とは思えません! 使えない同僚を持って、私が可哀相ではありませんか」
灰梅は返事をしなかった。対薄藍の時もそうだったが、明らかに正常な状態ではないのでレスポンスできないのだろう。
それも予想の範囲だったようで、烏羽はクスクスと意地の悪い笑顔を浮かべると次の瞬間には彼の周囲をぐるりと取り囲むように地面から水が湧き上がる。いつ見てもどうなっているのか、現代人にはさっぱり分からない。
生成された水は簡易な波のような動きで灰梅に襲い掛かった。すかさず薄藍が解説してくれる。
「烏羽殿は黒系なので、水気と相性が良いですね。しかし、灰梅殿も術は――」
少し考える素振りをした彼の不穏な言葉は当たっていた。
灰梅の周囲を漂っている宝玉が黄色の輝きを放つ。瞬間、彼女を守るかのように地面が盛り上がり、土の壁が出来上がった。
それに当たった水気の術が四散し、その土壁に吸い込まれて濃い染みに早変わりする。つまり、水が土に染みただけの話となってしまった。
そして灰梅の行動はそれだけに留まらなかった。土壁が完成した瞬間には、一つの宝玉が白い輝きを放つ。生成された包丁の刃のようなそれが、浮遊したまま鋭利な切っ先を烏羽に向け、弾丸のような速度で撃ち出された。
「おっと」
真っ直ぐに飛んで来たそれは烏羽の頭部を捉えていたが、初期神使は少しだけ驚きを露わにすると首を傾げるような動作で、飛来物を回避した。飛んで行った刃物が背後の店の壁に突き刺さって止まる。
一連の攻防を見ていた花実は、滲んだ額の汗を拭った。素人目で見て、結構互角に見える。1話のストーリー時点では烏羽が常に圧勝していたので、まさか負けたりしないだろうなとそんな気持ちになってきたのだ。
薄藍が唸る。もう、プレイヤーの護衛などいいから烏羽に加勢しては貰えないだろうか。うちには召喚が全然できない関係で、神使が一人しかいないのだ。彼が負ければ実質、ゲームオーバー。ペナルティがあるらしいので、積極的に死亡したくない所存。
「薄藍、烏羽を手伝ったりとかは……」
「その必要は無いかと。それに、灰梅殿は後衛が主な立ち位置。裏を返せば、召喚士殿がどこにいようと視界に入っている内は術を貴方様に撃つ可能性があるという訳です」
「ええ……」
「それに、烏羽殿との共闘は、その、巻き込み事故が起きそうで……」
そうだろうな、とその一言に妙に納得してしまった。
初期神使を眺めていると、神妙そうな口調で薄藍が話し始めた。
「烏羽殿が心配ですか?」
「え、いや……」
「契約に縛られて弱体化してはいるでしょうが、真面目にやれば灰梅殿に後れを取るような事はないでしょう」
――いや、烏羽は真面目にやらないでしょ……。
奴が戦闘を真面目にやっている所など、今までに見た事がない。好戦的なのですぐに手が出るのに、一番の攻撃方法は煽り芸だ。黙々と戦闘に従事している様など見た事もない。
そんな花実の気持ちをそれとなく汲み取っているのだろうか。薄藍はすっと目を逸らした。
などと話をしている内に戦局が動く。
最初に動いたのは、気怠そうに頭を抱えていた灰梅だった。烏羽と対峙して何らかのスイッチが入ったのだろうか。現状、異常行動を止めるという意思は見られないように感じる。
「灰梅殿は一応、赤系に属されているので――尤も得意なのは、火気の術になりますね」
いつもはボンヤリ戦闘を眺めているだけだったが、今回に限っては解説役・薄藍がいる。いつも何事が起きているか分からないで全てが終わっていたが、もしかしたら事の全容をプレイヤーでも理解出来るかもしれない。
薄藍の言った通り、灰梅の初手は生み出した火球を烏羽に放つという術系の攻撃だった。
ただし――ここまでは薄色系統の神使と同じ。あまり脅威を感じさせない、見た事のあるような術と行動である。当然の如く、火球は烏羽が撃った水の術によって鎮火されてしまった。
が、すぐに一連の様式美めいた術の撃ち合いがフェイクであった事に気付く。というのも、一瞬だけ烏羽に視線を向けている間に、灰梅の周囲には見慣れない球体が合計で5つ漂っていた。
つるりとした質感、曇天で鈍い陽光を受けて輝きを放っている。大きさはこれまた、バレーボールくらいのサイズだろうか。無色透明で向こう側が透けて見えている。有り体に言うなら、素材は水晶のようなソレだ。
「あれは……」
「灰梅殿の持つ武器は宝玉系統のようですね。いや、恐らく見た事はあるのでしょうが、お恥ずかしながら誰が何の武器を所持していたかを覚え続けるのは難しくて」
――分かる。人の顔と名前もなかなか覚えられないタイプだから、凄くよく分かる。
内心で同意しつつ、怪しげな占いの館に置かれているそれより大振りな宝玉とやらを眺める。家にディスプレイとして飾りたいくらいに綺麗な球体だ。
ここでいつもの煽り芸を封じるどころか、両者無言だった状況を変える烏羽。あまりにもサイレントな戦闘模様だと思っていたが、やはり長時間の無言は彼的にも許されざる状態だったらしい。
「ふふ、本当に情けない事ですね。裏切者が誰なのかも特定できず、いいように操られているなど。ええ、とても同じ神使とは思えません! 使えない同僚を持って、私が可哀相ではありませんか」
灰梅は返事をしなかった。対薄藍の時もそうだったが、明らかに正常な状態ではないのでレスポンスできないのだろう。
それも予想の範囲だったようで、烏羽はクスクスと意地の悪い笑顔を浮かべると次の瞬間には彼の周囲をぐるりと取り囲むように地面から水が湧き上がる。いつ見てもどうなっているのか、現代人にはさっぱり分からない。
生成された水は簡易な波のような動きで灰梅に襲い掛かった。すかさず薄藍が解説してくれる。
「烏羽殿は黒系なので、水気と相性が良いですね。しかし、灰梅殿も術は――」
少し考える素振りをした彼の不穏な言葉は当たっていた。
灰梅の周囲を漂っている宝玉が黄色の輝きを放つ。瞬間、彼女を守るかのように地面が盛り上がり、土の壁が出来上がった。
それに当たった水気の術が四散し、その土壁に吸い込まれて濃い染みに早変わりする。つまり、水が土に染みただけの話となってしまった。
そして灰梅の行動はそれだけに留まらなかった。土壁が完成した瞬間には、一つの宝玉が白い輝きを放つ。生成された包丁の刃のようなそれが、浮遊したまま鋭利な切っ先を烏羽に向け、弾丸のような速度で撃ち出された。
「おっと」
真っ直ぐに飛んで来たそれは烏羽の頭部を捉えていたが、初期神使は少しだけ驚きを露わにすると首を傾げるような動作で、飛来物を回避した。飛んで行った刃物が背後の店の壁に突き刺さって止まる。
一連の攻防を見ていた花実は、滲んだ額の汗を拭った。素人目で見て、結構互角に見える。1話のストーリー時点では烏羽が常に圧勝していたので、まさか負けたりしないだろうなとそんな気持ちになってきたのだ。
薄藍が唸る。もう、プレイヤーの護衛などいいから烏羽に加勢しては貰えないだろうか。うちには召喚が全然できない関係で、神使が一人しかいないのだ。彼が負ければ実質、ゲームオーバー。ペナルティがあるらしいので、積極的に死亡したくない所存。
「薄藍、烏羽を手伝ったりとかは……」
「その必要は無いかと。それに、灰梅殿は後衛が主な立ち位置。裏を返せば、召喚士殿がどこにいようと視界に入っている内は術を貴方様に撃つ可能性があるという訳です」
「ええ……」
「それに、烏羽殿との共闘は、その、巻き込み事故が起きそうで……」
そうだろうな、とその一言に妙に納得してしまった。
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