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2話:悪意蔓延る町
31.グレーゾーン(1)
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批判が殺到しそうな構図に花実は慌てて制止の声を上げた。何もそこまでやれとは言っていないし、1話・阿久根村での召喚しないで欲しい発言は軽くトラウマだ。
「ちょっとちょっと! 何ですぐそんな事になるかな!? 今すぐ止めて欲しい!」
自分の事だとハッキリ分かっているのか、烏羽が実に態とらしく首を傾げた。一旦はその足を下ろし、何故かプレイヤーを宥める体勢に入る。どうしてここでプレイヤー側を説得しようとするのか。前々から思っていた、このゲームの謎ポイントである。
「何をそんなに慌てているのでしょうか、召喚士殿。ええ、心配なさらずとも、この烏羽が責任を以てこの重罪人を処断致しますので!」
「あ、いや、もうそういうのはいい、っていうか……。別にそこまでしなくてもいいんだけども……」
「何故? 貴方、今度こそ殺される所でしたよ。ええ、綺麗事だけでは済まされない事も往々にして存在しているのです」
――何でコイツは毎度反論してくるんだろう……?
どう考えたって、ここで洗脳されているだけの神使を叩き殺すのはストーリーの正規ルートではない。
が、ここで烏羽のペースに一瞬だけ乗せられた花実は思い出した。そう、奴は2話の冒頭で「今回はプレイヤーの指示に従う」と面白おかしそうに言っていた事を。
なので会話の流れなど無視してその情報を提示する。
「何故とか以前に、今日は私の言う事聞くって言ってたじゃん」
「……はい?」
「いやだから、正論とかその前に私の言う事をここでは聞くんだよね……?」
「……。……ええ」
酷く不満そうで且つ、ふて腐れたような顔をした初期神使はたっぷりの間を置いた後、頷いた。言いましたっけ? と逃げ手を打つかとも思ったが、どのみちその挙動で嘘か否か分かるので食い下がるつもりだった。無駄だったけれど。
最初の話を忘れているかもしれないと危惧した花実はは、もう一度先程のお願いもとい指示を口にする。
「それじゃあ、灰梅はノー処断で」
ふん、と鼻を鳴らした烏羽はそれ以上の反論が無駄だと悟ったのか、ゆったりと灰梅から離れた。剣呑な空気が満ちる中、気を失っていた灰梅その人が小さく呻く。
かと思えば盛大に咳き込んだ。かなり苦しそうに嘔吐いているが、やがてその口からドロリとした汚泥が吐き出される。薄藍の時を思い出したし、何ならそれとほぼ同じ光景を見せられているのだろう。
既に力を失っているのか、汚泥が地面に染み込んでいき、本当の意味で染みへと変わる。
「……そういえば、褐返殿を追って行った薄群青殿はどうされたのでしょうか?」
沈黙を打ち破ったのは薄藍だった。確かに、この騒動ですっかり忘れていたが薄群青はどうなったのだろう。返り討ちに遭っているのではないだろうか。何せ、褐返と戦って勝てそうだった烏羽がこの場にいるのだ。
しかし、場は混迷を極めている。正気に戻った灰梅が胡乱げな目で周囲を見回し、首をかげた。
「あ、あら……? わたし、一体何をしていたのかしら~……?」
そんな起き抜け状態の彼女に対し、胡散臭いまでに良い笑顔を貼り付けた烏羽が、その表情のまま平気で毒を吐く。
「今回の黒幕に操られて召喚士殿に襲い掛かった挙げ句、私に敗北して地面に転がっておりましたよ。ええ、神使としてその勤務態度は如何なものかと」
「……え~……ちょっと記憶が……。うそ、わたし、召喚士ちゃんに攻撃しちゃったりとか……?」
「ええ! それはもう――」
「その話は後にしましょう」、と冷静な神使・薄藍が長くなりそうな話に終止符を打つ。確かに終わった事を長々と喋っている暇はない。未だに帰って来ない薄群青の行方も気になるし、裏切者で確定した褐返の行方も分からない。
そもそも、どうして自分が灰梅の立場を見破れなかったのかも謎だ。おかしいな、彼女に嘘を吐いている様子は全くなかった。
「何です、薄藍殿。ええまさか、灰梅殿には現状の説明をしなくてよいと? いや、冷たい御仁ですなあ」
「そういう訳ではありません。ただ、薄群青殿の行方が知れないのは危険なのでは? 褐返殿と個人で対峙すれば勝ち筋はありませんよ」
「ほう? しかし、私を呼んだのは記憶違いでなければ薄藍殿ではありませんでしたかな? 薄群青殿の身を案じるのであれば、ご自分で灰梅殿の暴挙を止めれば良かったのではありませんか? ええ、私が置いてきた、という表現は適切ではないかと」
「僕は別に責任の所在を問うているのではありません。ただ、薄群青殿と早く合流した方が良いのではないかと申し出ているのです」
「ええ、ええ。薄藍殿がとんだクソ雑魚ナメクジで洗脳された神使の相手も出来ぬ故に、私を呼んだのですからね。そういう言い方にはなってしまいますなあ。ふふ……」
――いや、この話してる時間!
断言できる。今この瞬間が最も無駄な時間だ。
「あの、それで? 薄群青はどこに行ったの? 最優先で合流しよう」
「その必要はありませんよ、召喚士殿。そもそも灰梅殿が我々に伝えた、褐返殿の情報。正しい情報であるという保証は全くありません。現に指示通りに褐返を捜している間、それらしい姿は見掛けられませんでした。つまり、既に褐返は町を出ているかと。ええ、薄群青殿も放っておけば戻って来るのではありませんか?」
そこで灰梅との会話を思い返す。褐返の向かった方角について嘘を吐いている様子はなかったし、あれが嘘であった場合、追えなどと指示を出していない。
「えっ? ……じゃあ、あの情報は嘘だったって事?」
「え? いや、仰っている意味が分からないのですが、操られている灰梅が、そもそも真実を話すとは思えませんね。あの時点での召喚士殿は灰梅の正体に気付いておられなかったので、ええ、矛盾はありませんでしたが」
「えー、うーん、灰梅?」
本人に聞いてみた方が早い。そもそも、灰梅が裏切者2人目だったのも全く納得が出来ていない。花実視点では潔白だったのだから当然だが。
正気に戻った彼女はいつもの温厚な態度を以て「はい?」と返事した。
「あの時に言ってた褐返の情報って、デタラメだったの?」
「……う~ん、ごめんなさいね。ちょっと記憶が曖昧で……はっきりとは覚えていないのよね~。召喚士ちゃん達とお話していた事はうっすら覚えてはいるのだけれど」
――嘘じゃない……!
あの時の情報は、あの時の花実から見て嘘ではない。そして、今の灰梅の発言も嘘では無かった。本当に記憶が曖昧ではっきりと分からない状態だという事。
どちらも真実、というのが現状だ。
「ちょっとちょっと! 何ですぐそんな事になるかな!? 今すぐ止めて欲しい!」
自分の事だとハッキリ分かっているのか、烏羽が実に態とらしく首を傾げた。一旦はその足を下ろし、何故かプレイヤーを宥める体勢に入る。どうしてここでプレイヤー側を説得しようとするのか。前々から思っていた、このゲームの謎ポイントである。
「何をそんなに慌てているのでしょうか、召喚士殿。ええ、心配なさらずとも、この烏羽が責任を以てこの重罪人を処断致しますので!」
「あ、いや、もうそういうのはいい、っていうか……。別にそこまでしなくてもいいんだけども……」
「何故? 貴方、今度こそ殺される所でしたよ。ええ、綺麗事だけでは済まされない事も往々にして存在しているのです」
――何でコイツは毎度反論してくるんだろう……?
どう考えたって、ここで洗脳されているだけの神使を叩き殺すのはストーリーの正規ルートではない。
が、ここで烏羽のペースに一瞬だけ乗せられた花実は思い出した。そう、奴は2話の冒頭で「今回はプレイヤーの指示に従う」と面白おかしそうに言っていた事を。
なので会話の流れなど無視してその情報を提示する。
「何故とか以前に、今日は私の言う事聞くって言ってたじゃん」
「……はい?」
「いやだから、正論とかその前に私の言う事をここでは聞くんだよね……?」
「……。……ええ」
酷く不満そうで且つ、ふて腐れたような顔をした初期神使はたっぷりの間を置いた後、頷いた。言いましたっけ? と逃げ手を打つかとも思ったが、どのみちその挙動で嘘か否か分かるので食い下がるつもりだった。無駄だったけれど。
最初の話を忘れているかもしれないと危惧した花実はは、もう一度先程のお願いもとい指示を口にする。
「それじゃあ、灰梅はノー処断で」
ふん、と鼻を鳴らした烏羽はそれ以上の反論が無駄だと悟ったのか、ゆったりと灰梅から離れた。剣呑な空気が満ちる中、気を失っていた灰梅その人が小さく呻く。
かと思えば盛大に咳き込んだ。かなり苦しそうに嘔吐いているが、やがてその口からドロリとした汚泥が吐き出される。薄藍の時を思い出したし、何ならそれとほぼ同じ光景を見せられているのだろう。
既に力を失っているのか、汚泥が地面に染み込んでいき、本当の意味で染みへと変わる。
「……そういえば、褐返殿を追って行った薄群青殿はどうされたのでしょうか?」
沈黙を打ち破ったのは薄藍だった。確かに、この騒動ですっかり忘れていたが薄群青はどうなったのだろう。返り討ちに遭っているのではないだろうか。何せ、褐返と戦って勝てそうだった烏羽がこの場にいるのだ。
しかし、場は混迷を極めている。正気に戻った灰梅が胡乱げな目で周囲を見回し、首をかげた。
「あ、あら……? わたし、一体何をしていたのかしら~……?」
そんな起き抜け状態の彼女に対し、胡散臭いまでに良い笑顔を貼り付けた烏羽が、その表情のまま平気で毒を吐く。
「今回の黒幕に操られて召喚士殿に襲い掛かった挙げ句、私に敗北して地面に転がっておりましたよ。ええ、神使としてその勤務態度は如何なものかと」
「……え~……ちょっと記憶が……。うそ、わたし、召喚士ちゃんに攻撃しちゃったりとか……?」
「ええ! それはもう――」
「その話は後にしましょう」、と冷静な神使・薄藍が長くなりそうな話に終止符を打つ。確かに終わった事を長々と喋っている暇はない。未だに帰って来ない薄群青の行方も気になるし、裏切者で確定した褐返の行方も分からない。
そもそも、どうして自分が灰梅の立場を見破れなかったのかも謎だ。おかしいな、彼女に嘘を吐いている様子は全くなかった。
「何です、薄藍殿。ええまさか、灰梅殿には現状の説明をしなくてよいと? いや、冷たい御仁ですなあ」
「そういう訳ではありません。ただ、薄群青殿の行方が知れないのは危険なのでは? 褐返殿と個人で対峙すれば勝ち筋はありませんよ」
「ほう? しかし、私を呼んだのは記憶違いでなければ薄藍殿ではありませんでしたかな? 薄群青殿の身を案じるのであれば、ご自分で灰梅殿の暴挙を止めれば良かったのではありませんか? ええ、私が置いてきた、という表現は適切ではないかと」
「僕は別に責任の所在を問うているのではありません。ただ、薄群青殿と早く合流した方が良いのではないかと申し出ているのです」
「ええ、ええ。薄藍殿がとんだクソ雑魚ナメクジで洗脳された神使の相手も出来ぬ故に、私を呼んだのですからね。そういう言い方にはなってしまいますなあ。ふふ……」
――いや、この話してる時間!
断言できる。今この瞬間が最も無駄な時間だ。
「あの、それで? 薄群青はどこに行ったの? 最優先で合流しよう」
「その必要はありませんよ、召喚士殿。そもそも灰梅殿が我々に伝えた、褐返殿の情報。正しい情報であるという保証は全くありません。現に指示通りに褐返を捜している間、それらしい姿は見掛けられませんでした。つまり、既に褐返は町を出ているかと。ええ、薄群青殿も放っておけば戻って来るのではありませんか?」
そこで灰梅との会話を思い返す。褐返の向かった方角について嘘を吐いている様子はなかったし、あれが嘘であった場合、追えなどと指示を出していない。
「えっ? ……じゃあ、あの情報は嘘だったって事?」
「え? いや、仰っている意味が分からないのですが、操られている灰梅が、そもそも真実を話すとは思えませんね。あの時点での召喚士殿は灰梅の正体に気付いておられなかったので、ええ、矛盾はありませんでしたが」
「えー、うーん、灰梅?」
本人に聞いてみた方が早い。そもそも、灰梅が裏切者2人目だったのも全く納得が出来ていない。花実視点では潔白だったのだから当然だが。
正気に戻った彼女はいつもの温厚な態度を以て「はい?」と返事した。
「あの時に言ってた褐返の情報って、デタラメだったの?」
「……う~ん、ごめんなさいね。ちょっと記憶が曖昧で……はっきりとは覚えていないのよね~。召喚士ちゃん達とお話していた事はうっすら覚えてはいるのだけれど」
――嘘じゃない……!
あの時の情報は、あの時の花実から見て嘘ではない。そして、今の灰梅の発言も嘘では無かった。本当に記憶が曖昧ではっきりと分からない状態だという事。
どちらも真実、というのが現状だ。
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