ガチャから不穏なキャラしか出てきません

ねんねこ

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2話:悪意蔓延る町

35.新しい仲間

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 ***

 チャットを終了させ、日常生活を送り、そしてゲームに戻ってきた頃にはログアウトから24時間以上経っていた。というのも、ストーリーを進めるのに夢中になっている間に時間がかなり経ってしまい、色々とやらなければならない事が山積みとなっていたからだ。
 そんな訳で何だか久しぶりにログインし、社の自室へ戻ってきてみるとゲーム内の端末に通知が複数件届いていた。

「――ん? んん!?」

 運営からの連絡の中から一つ。今現在において非常に重要な通知がある。

『召喚可能になりました』

 ――新しい子が! 来る!!
 どうやら新しい神使を迎えられるようだ。一体誰が来るのか。ストーリーに出て来たキャラクターでも美味しいし、全然知らないキャラクターでも美味しい。被りがあるのかは調べていないが、キャラ被りでなければ誰でもいいだろう。
 ウッキウキの気分で自室のドアを開け放つ。開け放って、息が止まるかと思った。

「おや、召喚士殿。ええ、随分とご機嫌のようで何よりです。この烏羽をいつまで放置なさるおつもりかと、大変悲しゅうございました。ええ!」

 悲しいの件が全部嘘だったが、そこには烏羽が立っていた。いつもなら予想出来ていたはずなのだが、ガチャが回せると知って有頂天だったが為にすっかり失念していたのだ。そのせいで心臓が止まりかけたが、何とか持ち堪える。
 そんな花実の様子に対し、初期神使はちょこんと首を傾げた。

「どうされました? ええ、何だかはしゃいでおられるようですが……」
「ああ、ガチャが回せるようになったんだよね」
「がちゃ……。ああ、召喚の事ですか。ええ、それは良かったですねえ。さて、此度はどの神使が来ますやら。ふふ、黒適性の貴方様が誰を引き当てるのか楽しみです。ええ」

 明らかに何かを企んでいるかのような笑み。それを横目に召喚部屋へと向かう。が、烏羽に背後から肩を掴まれた。

「どこへ行くのですか。ええ、召喚部屋はこちらです。もしかして、長らく召喚の儀を行っていなかったので部屋の場所も忘れてしまったのでしょうか?」

 相変わらず棘のある発言だが、嘘は吐いていない。つまり、自分が思っていた部屋の位置に召喚部屋は無いという事だ。うっかり。同じような部屋ばかり並んでいると、見分けが付かない。
 結局、烏羽に連れられて召喚部屋まで移動する事となった。

「さあ、着きましたよ。ええ、ここが召喚の部屋です」

 部屋に到着した烏羽は胡散臭い笑みでそう言った。暗に二度と忘れるな、と言われているようで思わず苦笑する。奴はあべこべな言動の真意を相手に伝えるのが本当に上手だ。悪い言い方をすれば、嫌味ったらしいという意味だけれど。

「新しい神使、楽しみですねぇ。召喚士殿」
「……」

 全文嘘を披露して見せた烏羽は愉しげだ。けれど、新しい神使を楽しみにはしていないようなので一体何を考えているのかまでは不明である。難解な存在だ。

 ――というか、確か召喚するのに手順があったよね。
 チュートリアル以降、一切ガチャが回せなかったので手順が完全に頭から消えている。確か、没入感重視でそれっぽい召喚の儀式的な立ち回りをしなければならなかったはずだ。
 祈るような気持ちで手に持っていた端末に視線を落とす。ヘルプか何かで、召喚方法を確認出来ないだろうか。

 しかしここは、ゆとり世代にも優しい出来立てホヤホヤのソシャゲ。プレイヤー心理などお見通しだと言わんばかりに、端末には召喚の手順ヘルプが既に開いていた。召喚が出来る状態でこの部屋に入室すると、自動的にヘルプを表示する仕組みになっているのかもしれない。何にせよ助かった。
 ホッとした心持ちで手順に従ってガチャを回す。なお、烏羽は部屋から一歩だけ出て気怠そうにその様を見ていた。

 手順を終えて、出入り口の前に立つ。部屋が発光する段階でようやく、チュートリアルガチャの記憶が鮮明に蘇った。ガチャ演出しか見ていない、ソシャゲ戦士の業である。
 その光が収まる頃、部屋の中心に新たな人影が現れる。
 網膜を焼くような発光のせいで、なかなか視界が元に戻らなかったが正常に戻ったそれは見覚えのある神使の姿を映し出していた。

「――あれ、薄群青!」

 2話でお世話になったり、お世話したりなどした神使・薄群青。確かに彼は「呼んで貰っていい」と言っていたが、それにしたってフラグの回収が早すぎる。
 ストーリー進行度が反映されているのか、こちらに気付いた新しい神使は目を丸くした。

「えっ、あ、いや早すぎるでしょ! 確かに俺は呼んで良いとは言ったけど、流石に早すぎるっすわ」
「ごめん、こっちでガチャ結果は操作できないから……」

 データ相手だと言うのに思わず言い訳してしまった。途端、薄群青が渋い顔をする。ただし、その視線の先にいるのはプレイヤーではなく烏羽だ。
 が、それに彼は物申す事なく、小さく溜息を吐くと名乗りを上げた。

「あーっと、まあ、さっきぶりなんスけど一応。青系統所属の薄群青ッス。ま、薄色シリーズは裏方なんで適所に配置してくれれば何でもいッスわ。あー、あと、出来れば烏羽サンからは遠めの部屋をくれると嬉しいんだけど」

 ――凄い、同行神使に対する台詞がある!
 全員分用意されているのだろうか? 人数が結構いるようなので、膨大な台詞量になりそうだが。それとも、烏羽が高レアっぽい立ち位置なので相応に対峙台詞があるのか。これも要検証だ。
 薄群青は2話のストーリーで最も振り回された存在であるが故に、非常に好感度が高い相手である。時点で薄藍もかなり高めの評価だが、何にせよ来てくれて有り難い。
 上機嫌で新入りくんを眺めていると、視線に気付いた薄群青と目が合った。ぎこちなく微笑み返される。

「その、何スかね、これからよろしくお願いしますよ。主サン」
「え!」

 ――プレイヤーの呼び方変わった!
 所持キャラクターになると、ちょっと親しみを込めてくれる感じになるのか。そんなサプライズがあるならガチャ回しまくって、出来るだけキャラ収集したくなってしまう。おのれ小癪な集金コンテンツめ。

 しかしここで、プレイヤーに対して欠片も優しさを持たない烏羽がようやっと口を開く。それまでずっと静かだったので、存在をすっかり忘れていた。

「ええ、よろしくお願い致しますよ。同僚として――ねえ?」
「うわ、新人いびりしてきそうな感じ凄いですよ、烏羽サン。アンタマジでそういう所ッスわ。というか、召喚先でアンタに遭うとか奇跡的過ぎるんですよ……」
「今までは会わなかったのですか? ふふ、人を災害やら厄災かのように言って。ええ、良い度胸ですね」

 ――わあ、凄い! キャラ同士の掛け合いもちゃんとある!
 花実はホクホク顔でその光景を眺める。界隈の人間から見れば、自分はソシャゲライト勢ではあるが、それでもこれだけの台詞を収録し、内部に組み込むのがどれだけ大変で金の掛かる作業なのかは分かる。作りが丁寧なので、このまま世に出したら普通にヒットしそうだけどな。
 それにしても烏羽だ。奴は召喚当初からプレイヤーを『召喚士殿』と長ったらしく呼ぶが、万が一ストーリーで出会した場合もそう呼ぶのだろうか? 薄群青に変化があったので、その辺も機会があればチェックしたい所存である。

 ともあれ2話まで制覇した。ここらでバイトの役割である、ゲームのプレビューを書かなければならない。ただ遊んでいればいいのではなく、給料を貰っている以上仕事をしなければならないからだ。
 一時したら社内を見回って、そこからレビューを書こう。花実は脳内で計画を立てて満足げに頷いたのだった。
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