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3話:都での流行病
02.運営からの助言(2)
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微笑む運営のその人は、実にビジネスマン然とした、どこか余裕のある挙動で言葉を続ける。大人の男性、という感じが花実の緊張をやや煽った。しかし、そこはそれ『大人』なのである。緊張を解すようにフランクなトーンを彼は決して崩さない。
「それで、折角の縁だ。アンケート――というか、幾つか質問してもいいかな? 何と言うか、感想を聞きたいのだけれど」
「あ、はい。大丈夫です」
「助かるよ。そうだね、どうだろう? 楽しんでいるかな?」
無難な問いに対し、花実は頷いた。
「とても楽しんでいます。今までにないゲーム性で、リアルにかなり近い感じがします」
「それは良かった。ところで、もう既に気付いているかもしれないが、実はストーリーも神使も君の行動を強く反映するように出来ている。どうかな? 色々試してみたりはしたかい?」
「私の行動を反映?」
「ふふ、その様子だと流されるままに走って来たのかな。時には話の流れを無視して、好きなように振舞って貰って構わないよ。対応してみせよう」
「え、でも、ストーリーなんですよね? 分岐があるんですか?」
ストーリーで好き勝手する、という発想は正直あまりなかった。というのも、ゲームというのは基本的に道筋が決まっている。エンディングが分岐する事もあるが、道筋が大きく変わる事はほぼ無いと言っていい。
疑って掛かるような花実の言動に運営の彼は微笑む。まさに自信の表れと言わんばかりだ。
「勿論。分岐はプレイヤー毎にあると言ってもいいかな。そう、現実のようにね」
「……」
あまりにも大胆な発言だが、恐ろしい事に彼が嘘を吐いている様子は無い。であれば膨大な分岐があるというのは確かなのか? ソーシャルゲーム、基本無料のゲームで?
所詮は学生の自分には確かな事は分からないが、それで黒字を出せるのだろうか。ゲームの開発費だけで潰れそうなのだが。
いやだが、アルバイトとして給料が払われている間は、そういった部分に触れる訳にもいかない。理由がないし、何より失礼だ。
思考を遮るかのように運営の男性が次なる質問を繰り出す。
「ところで、神使達とは仲良くなれたかい? 是非とも積極的に交流して欲しいなあ」
「交流……?」
「そう。現実と同じ、と言ったけれど友好関係もそうさ。仲良くなりたかったら、交流を重ねるのが一番だろう?」
「あ、好感度的な隠し要素があるって事ですか?」
「うん、隠してはいないけどね。君が彼等と仲良くなれば、相応の態度を取ってくれるはずだよ。まあ、個々の性格に寄る所も当然あるけれど」
「それは、仲良くなれば個別のイベントがあるっていう意味ですか? え、それなら頑張りたいな……」
「個別のイベント……。うーん、そうだね。そういうのを考える連中もいるかもしれないな……。まあ、それも個人次第では?」
――確かに烏羽と数値上では仲良くなったとして、奴が友好を示すイベントを起こす所は想像できない。
神使毎にイベントが敢えて発生しない場合がある、とも受け取れる発言だ。問いに対して曖昧な答えだった割に、嘘を吐いていない様子だし。これだけ作り込んでおいて、まさか友好度に関するイベントを手抜きしているという事も無いだろう。
「まあ、そういう訳だ。単純に神使の語彙力成長なんかにも繋がるから、出来るだけ話し掛けてくれないかい? 悪いね、それぞれの楽しみ方があるのは分かっているのだけれど」
そっちが本筋かもしれない。AIの性能向上が目的と言った所か。理に適っているし、それを依頼するのは雇用側の立場としては当然。花実は頷きを返した。
「分かりました。出来るだけそうしてみます」
「ああ、素直で助かるよ。アンケートに協力してくれて有り難う。僕からはこれ以上、特に聞きたい事はないかな」
ミッションを達成したようなので、何となく礼を言って別れる。というのも、フリースペースに自分達以外のプレイヤーがいなかったので、長く留まる必要性がなかったからだ。
***
ストーリーの入り口でもある、門の前に戻ってきた。同行してくれていたが、ずっとお利口さんに黙っていた薄群青が不意に背後の門を見やる。その顔には困惑の色がありありと滲んでいた。
「……どうかしたの?」
先程の運営が言った言葉。出来るだけ神使に話し掛けて欲しい、が脳内でリフレインしたので、知り合いにそうするように訊ねてみた。
「さっきの運営、とかいう人。あの人、何だか……なんだろう、引っ掛かるんスよね」
「そうかな? どういう所が?」
「誰かに似ているような気が……」
「心当たりはないの?」
「……。……いや、多分気のせいッス。心当たりとか、ないし」
――何故ここで嘘を?
一瞬の沈黙、その後に吐き出された言葉は恐ろしく全てが嘘だった。薄群青は召喚してからこっち、ほとんど嘘を吐いていない。一般的な人間よりもずっと正直だし、話しやすい相手だ。
そうであるが故に彼の嘘には意味があり過ぎる。嘘を吐いたのが烏羽なら、「いつもの事か」で済まされる発言も、発言者が彼であれば話は変わってくるのだ。
しかし、やはり嘘を吐くだけあって言及されるのは避けたいらしい薄群青がさらっと話題を変える。何事も無かったかのようにだ。
「それじゃあ、これから何をします? そろそろストーリーでも進めますか?」
「うーん、いや、ちょっとチャットに顔を出したいから一旦部屋に帰るよ」
「ウッス。そんじゃ、こっちッスね」
釈然としない気持ちのまま、社へ入る為に玄関へと足を向けた。
「それで、折角の縁だ。アンケート――というか、幾つか質問してもいいかな? 何と言うか、感想を聞きたいのだけれど」
「あ、はい。大丈夫です」
「助かるよ。そうだね、どうだろう? 楽しんでいるかな?」
無難な問いに対し、花実は頷いた。
「とても楽しんでいます。今までにないゲーム性で、リアルにかなり近い感じがします」
「それは良かった。ところで、もう既に気付いているかもしれないが、実はストーリーも神使も君の行動を強く反映するように出来ている。どうかな? 色々試してみたりはしたかい?」
「私の行動を反映?」
「ふふ、その様子だと流されるままに走って来たのかな。時には話の流れを無視して、好きなように振舞って貰って構わないよ。対応してみせよう」
「え、でも、ストーリーなんですよね? 分岐があるんですか?」
ストーリーで好き勝手する、という発想は正直あまりなかった。というのも、ゲームというのは基本的に道筋が決まっている。エンディングが分岐する事もあるが、道筋が大きく変わる事はほぼ無いと言っていい。
疑って掛かるような花実の言動に運営の彼は微笑む。まさに自信の表れと言わんばかりだ。
「勿論。分岐はプレイヤー毎にあると言ってもいいかな。そう、現実のようにね」
「……」
あまりにも大胆な発言だが、恐ろしい事に彼が嘘を吐いている様子は無い。であれば膨大な分岐があるというのは確かなのか? ソーシャルゲーム、基本無料のゲームで?
所詮は学生の自分には確かな事は分からないが、それで黒字を出せるのだろうか。ゲームの開発費だけで潰れそうなのだが。
いやだが、アルバイトとして給料が払われている間は、そういった部分に触れる訳にもいかない。理由がないし、何より失礼だ。
思考を遮るかのように運営の男性が次なる質問を繰り出す。
「ところで、神使達とは仲良くなれたかい? 是非とも積極的に交流して欲しいなあ」
「交流……?」
「そう。現実と同じ、と言ったけれど友好関係もそうさ。仲良くなりたかったら、交流を重ねるのが一番だろう?」
「あ、好感度的な隠し要素があるって事ですか?」
「うん、隠してはいないけどね。君が彼等と仲良くなれば、相応の態度を取ってくれるはずだよ。まあ、個々の性格に寄る所も当然あるけれど」
「それは、仲良くなれば個別のイベントがあるっていう意味ですか? え、それなら頑張りたいな……」
「個別のイベント……。うーん、そうだね。そういうのを考える連中もいるかもしれないな……。まあ、それも個人次第では?」
――確かに烏羽と数値上では仲良くなったとして、奴が友好を示すイベントを起こす所は想像できない。
神使毎にイベントが敢えて発生しない場合がある、とも受け取れる発言だ。問いに対して曖昧な答えだった割に、嘘を吐いていない様子だし。これだけ作り込んでおいて、まさか友好度に関するイベントを手抜きしているという事も無いだろう。
「まあ、そういう訳だ。単純に神使の語彙力成長なんかにも繋がるから、出来るだけ話し掛けてくれないかい? 悪いね、それぞれの楽しみ方があるのは分かっているのだけれど」
そっちが本筋かもしれない。AIの性能向上が目的と言った所か。理に適っているし、それを依頼するのは雇用側の立場としては当然。花実は頷きを返した。
「分かりました。出来るだけそうしてみます」
「ああ、素直で助かるよ。アンケートに協力してくれて有り難う。僕からはこれ以上、特に聞きたい事はないかな」
ミッションを達成したようなので、何となく礼を言って別れる。というのも、フリースペースに自分達以外のプレイヤーがいなかったので、長く留まる必要性がなかったからだ。
***
ストーリーの入り口でもある、門の前に戻ってきた。同行してくれていたが、ずっとお利口さんに黙っていた薄群青が不意に背後の門を見やる。その顔には困惑の色がありありと滲んでいた。
「……どうかしたの?」
先程の運営が言った言葉。出来るだけ神使に話し掛けて欲しい、が脳内でリフレインしたので、知り合いにそうするように訊ねてみた。
「さっきの運営、とかいう人。あの人、何だか……なんだろう、引っ掛かるんスよね」
「そうかな? どういう所が?」
「誰かに似ているような気が……」
「心当たりはないの?」
「……。……いや、多分気のせいッス。心当たりとか、ないし」
――何故ここで嘘を?
一瞬の沈黙、その後に吐き出された言葉は恐ろしく全てが嘘だった。薄群青は召喚してからこっち、ほとんど嘘を吐いていない。一般的な人間よりもずっと正直だし、話しやすい相手だ。
そうであるが故に彼の嘘には意味があり過ぎる。嘘を吐いたのが烏羽なら、「いつもの事か」で済まされる発言も、発言者が彼であれば話は変わってくるのだ。
しかし、やはり嘘を吐くだけあって言及されるのは避けたいらしい薄群青がさらっと話題を変える。何事も無かったかのようにだ。
「それじゃあ、これから何をします? そろそろストーリーでも進めますか?」
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釈然としない気持ちのまま、社へ入る為に玄関へと足を向けた。
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