お師匠様は自由すぎる

星野 夜空

文字の大きさ
12 / 17

お師匠様と認定試験

しおりを挟む
 こんにちは。今日も今日とてお師匠様に振り回されているミリーです。ちなみにあれから生活が様変わり、なんてことはなく鍛錬の日々を過ごしています。
 私としてはもう少し何かがある──例えば国の介入などが発生すると思っていたのですが、そんなことは全くこれっぽっちもありませんでした。お師匠様曰く、これまでの報酬だそうです。一体お師匠様はどんな世界を歩まれてきたのでしょうか、教えてくれても罰当たりではないと思うのですがその気配はありません。……残念なのは何故でしょう、精神衛生上は大変よろしいというのに。
 とはいえ、まずは目先の世界です。今回の課題はいかに手早く多くのポーションを作ることができるか。これが出来れば今度こそ魔法士へなれるそうです。どうやらお師匠様、つまり師事している人が許可を出せば登録が出来るようです。偽ることはそもそもできません。
 何故なら魔術師になる時以外、手本となる存在が共に在り、その実力を証明することに異を唱えないことが必須とされる為です。また、先日のように第三者が見ていることや、実物の展示が必要なことからも一定の質を維持しているともされているそうです。以上、お師匠様情報でした。
 頭の中はそんなことを考えつつも、手は高速に動かして薬草の処理をしていきます。魔法であれば身体の動く速さを変えることも可能です。後からくる筋肉痛に耐えることができれば、ですが。あいにくといいますか、兵士時代にそんなことは日常茶飯事だったので見た目よりも筋肉はあります。それに調薬の際、意外と筋肉を使う場面も多いのです。
 つまり私の場合、そこまで酷くなりません。集大成とはこのことを言うのでしょう。ええ。実感しております。
 お師匠様はというと、壁になったように息を押し殺して私の一挙一動を凝視しています。まるで何も見逃さないと言わんばかりに。実際そうなのでしょう、私が彼の思う魔法士に到達しているか、試験しているのですから。
 大量に処理した薬草を煮詰める際にも神経を張り巡らします。より苦みが少なくなるよう、繊維をなるべく潰さずに沿って行ったそれらをここで失敗すれば意味がありません。灰汁がでてしまうと濁りとなり、劣化しやすくなってしまいます。しかし煮詰めないと苦みが減らないので、そのギリギリを狙うしかありません。
 今までの経験上、ここというところで火から離しました。するとお師匠様がようやく一言呟きました。
 よくやった。それはお師匠様が褒める際、最上の言葉です。

「腕を上げたな。ポーション百個分、合格だ」
「けれどまだ味を見ていませんよ」
「あぁ。けど、良いポーションというのは見れば分かるんだ」

 はぁ、そんなものですか。いわゆる慣れというものなのでしょうか。それとも見る目を養うといったものでしょうか。どちらにせよ私には分かりません。手ごたえは、確かにありますが。
 後はこれを近くの町へ運ばねばならないのですが、どうしましょう。と悩んだのもつかの間、出来立てポーションの入った鍋と私の腕を掴んだお師匠様はそのまま役場まで転移してしまいました。
 突然現れた私達にざわつく人々を無視して『魔法(術)関連事務』まで、お師匠様は足を運びました。なお鍋は私も持っているので、引っ張られる形で私も進んでいきます。

「こいつの魔法士登録に来たんだが、ポーションを見てくれないか」
「え、えぇ。かしこまりました」

 戸惑う様子のある職員さんに恐縮しつつ鍋を差し出すと一瞬にして目の色が変わり、その後すぐに書類を持ってくることを伝えられました。鍋は中身を移して下さるとのことで、職員さん方へお渡ししました。
 ただ困ったことが一つ。文字を読むことは出来ても書くことは練習中なのです。そのことをこっそりお師匠様へ話すと、名を書ければ問題ない、とのこと。それで文字の練習は名前だけ異様にさせてきたのですね……ならそうおっしゃってくださいよ……。
 しばらくして空になった鍋と数枚の紙を持って同じ職員さんが戻ってきました。喜色満面の笑みとはまさにこのことを言うと体現しています。

「あのポーションの出来は素晴らしいですね。良く出来ています。これで魔法士なんてもったいないです」
「はぁ、そうですか」

 生返事と言われても仕方ありません。なにせ実感がわかないのですから。
 ほわほわとした気持ちのまま書類に名前を書き終えると、おめでとうございますと職員さんが発した。

「今この時点で、貴方は魔法士に昇格しました」

 その言葉が合言葉だったのか、書類全てが合わさると藍色をした手帳に変化しました。表紙を開くと私の顔と名前が描かれていました。一体どんな仕組みになっているのでしょう、不思議です。魔術の一種なのでしょうけど、でもそれだけです。
 ただ、分かることがあるとすれば。私は本当に、魔法士になれたようです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

それは立派な『不正行為』だ!

恋愛
宮廷治癒師を目指すオリビア・ガーディナー。宮廷騎士団を目指す幼馴染ノエル・スコフィールドと試験前に少々ナーバスな気分になっていたところに、男たちに囲まれたエミリー・ハイドがやってくる。多人数をあっという間に治す治癒能力を持っている彼女を男たちは褒めたたえるが、オリビアは複雑な気分で……。 ※小説家になろう、pixiv、カクヨムにも同じものを投稿しています。

乙女ゲームは始まらない

みかん桜
恋愛
異世界転生した公爵令嬢のオリヴィア。 婚約者である王太子殿下の周囲に、乙女ゲームのヒロインを自称する女が現れた。 だが現実的なオリヴィアは慌てない。 現実の貴族社会は、物語のように優しくはないのだから。 これは、乙女ゲームが始まらなかった世界の話。 ※恋愛要素は背景程度です。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

処理中です...