女剣士の道は険しい?

星野 夜空

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番外編

私の昔

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 私が攻撃系統に適性があると知った3歳の朝、同時に思い出した前世といえる記憶。魂ともいうべき部分が忘れたくないと叫ぶようなこと以外、極力思い出さないようにしている私の「過去」。
 それは今があの頃よりもとても幸せで──だからこそあの地獄を思い出したら夢から覚めてしまうのではないか。そう思うからだ。



 そもそもの私── 足川真夏の人生はあまり、いやかなり、いやいやとても良くなかった。有り体に言えば大変悪かった。
 自由といえば聞こえはいいが実際は育児放棄ネグレストする両親、皮と骨だけに近い状態が常の体をからかう同級生、見て見ぬ振りをしている先生達。行政に助けを求めても「人がいない」「ご両親がそんなことはないと話す。また貴方に実際に会わないと何とも言えない」と返される。チクったと分かったり会おうとしたりすればどこからともなく両親ジャマが入り仕置きをされる。
 人に、人生に、絶望感から失望感へ変化するのはさほど変わらなかった。失望感から諦観へ変化するのも。
 もちろん、いい人がいなかった訳じゃない。私の体から胃腸を心配してアレルギー食というなの特別食を手配してくれた管理栄養士や調理担当のおばちゃんおじちゃん達。家族のいきすぎた放任主義を見かねて助けようと動いてくれた近所のお爺ちゃんお婆ちゃん夫婦。こっそりやり取りしていた唯一の親友。それでも個人の力ではどうしようも出来ないことはあるわけで、砂時計の砂がゆっくりと落ちていくように、徐々に体はボロボロになっていった。
 それでも中学生までは何とか生きることができて、私は高校生になった。相変わらず痩せ細っていたけど骨と皮だけという状態は脱して、拒食症予備軍と言われそうな見た目にまで回復した。今思うと給食制度のある地域で本当に良かった。これがお弁当だったらと思うととっくに栄養失調で死んでただろう。
 さて、その給食も高校になればなくなってしまう。大抵お弁当か購買、もしくは食堂って形になる。小遣いなんてあってないような家で育ったのだから、入学と同時に食いっぱぐれないようにバイトをしたかったのに。

「ごめんね、口座がないなら給料が出せないんだ。作ってきてもらえないかな?」

 口座。今の私では勝手に作ることも出来ないもの。当時の年齢を考えたら当たり前だけど、それは私にとって死活問題どころじゃない、文字通り死に直結しかねない案件だ。そもそも作ってあるのかどうかすら知らないのにどうしろというのか。
 仮にこの問題をクリア出来る職場を見つけたとしても、悩みはそれだけじゃなかった。

「うん、採用で。これ同意書ね。初出勤の日までに親御さんにサインしてもらっておいて」

 このハードルが高かった。変にプライドがあるせいか、自分の娘が高校生なりたてでバイトを始めることに大反対してきた。今までの放任主義がおかしく思えるほどに。
 いわく「今からお金を稼ぐなんて覚えたら大人になって散財するわよ! 勉強に集中しなさい!」とのことで、一体全体どの口が言っているのかと思った。
 私を放棄してた理由が仕事が忙しいならまだしも、両親ともに自分の時間を減らしたくないからと訴えてきたのを未だに覚えてるんだけど。お互い稼いだ金を共通の費用以外全部自分の物にして私には一銭たりともこなかったことも。言ったところで火に油を注ぐか、とぼけられてしまうかのどちらかだと分かっているから何も言わないけど。
 本当は家の食材を適当に使ってご飯を作れたら良かったんだけど、二人とも典型的な外食派で三食全部外で済ますタイプ。調理器具や家電はあっても埃を被らせてしまってる、という有り様だ。だから稼ぐ必要があって、駄目だと分かっていたけどこっそり偽造した。
 幸い何かと物騒、かつ世間がそうだからと安物とはいえ携帯を与えられていたから家の連絡先に不備はなかった。固定電話なんてないっていう家が多くなっている時代で本当に助かった。
 そうしてどうにか食費を始めとした必要経費を稼げるようになってきた……というところで記憶は途切れてる。断片的であれば思い出せなくもないけど、いい思い出も悪い思い出もない、ということなのか。
 けれど割とすぐ、私の人生は終わりを迎えた。バイト先の大学生から首を絞められて。

「可哀想だからって目をかけてたのに、お前は俺を言いように使ってただけなんだな! 何なんだよ、何なんだよ!」

 否定しようにも否定できない。家族から離れたかった私は、一人暮らししている彼の家へよく泊まりに行っていた。月の半分以上はいたから、もはや同居していたと言ってもいい。
 最初は私の話を聞いて同情していた彼は、いつしか私を守ることに使命感を感じたらしい。私はそれを利用して、夕飯代はもちろん、ちょっとした文房具も買ってもらっていた。服やアクセサリー、現金そのものを受け取るなんてことはしてなかったから、貢がせていたと言うべきなのかいささか微妙ではあるかもしれないけど。
 まあ、最終的に相手がブチ切れて殺してきたのだから、結局問題があった、ということなんだろう。やけに泣きそうな怒った顔だと思いながら意識を手放した。



「ラナ、どうしました? 何か悩み事ですか?」
「へ? 何が?」
「何が、じゃありませんよ。今日はどうするのか聞いてるのにぼんやりしているので」
「珍しいね。寝れてないの?」
「あー、ちょっと寝つけられなくて。ごめんごめん」

 久しぶりに見た前世であった夢を見たせいか、朝食を食べつつも意識はそっちに向いていて、耳が拾っていたマリ達の会話も素通りしてた。これからは気をつけないと。
 さあて、今日は何の仕事をしようかな。
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