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番外編
とある冒険者の話
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俺の名前はビエム。冒険者として活動し始めてから十年は経っている、世間では「古参」と呼ばれる存在だ。というのも体力勝負なこの仕事、大体二十代が終わる頃になるとギルドの事務員として働くか、後身となる者達の育成者、分かりやすく言えば講師となる者がほとんどな為、三十路を過ぎても現場職で居続ける人間はそうはいない。だから古参というわけだ。
まあ俺の話はそんなに重要じゃない。大事なのはこの国の中央ギルドで入ってきた新人達だ。
女二人の男一人。ある種典型的なパーティを組んでいたその三人は、けれどその容姿があまりにも綺麗でその場にいた奴らの目を引いた。
水色髪の奴はちっこいが意思の強さをその目に宿し、金髪野郎は柔和な表情をしているが油断はしないという気配を醸し出していた。どっか別のギルドからこっちのギルドへきたのか、あるいは依頼を達成したがゆえに立ち寄ったのだろうかと考えるが、それはないだろうと思うのが一人だけいた。
キョロキョロ辺りを見渡し、不思議そうに見てくる女。光の加減で赤茶にも見える黒髪は短く切り揃えられていて、何より腰に差していた剣が目を引いた。
前衛であることは一目瞭然。だからこそギルドは静まり返った。
女で前衛だなんてそういない。魔力系統を抜きに、剣のみで闘い生き抜いてきたと物語るその意味は特にギルドでは大きい。
だというのに、男が受付で発した言葉に俺達はどよめいた。
「こんにちは。機関登録を行いたいのですけど、どうしたら良いですか?」
なんとこいつら、組み始めたばかりの人間だっていうからだ。いつもは騒がしいギルドの中も奴らが入ってきた瞬間静まっていたからこそその声は奥の方にいた俺にまで聞こえ、その内容に驚かざるを得なかった。
新人で、女で、剣士。おそらく残り二人が後衛、もしくは中間を担うのだろう。だとすれば余計にその意味は深くなる。
己の腕を試したい。そう誇示していると言っても良いからだ。
受付にいた奴はあくまで事務的に手続きを進めていくが、腐っても元冒険者だったのがほとんどだ。新しく入るという三人に俺達以上に注意深く観察しているのが分かった。
そして水色の女と金髪の男──マリーナとアランの手続きが終わり、注目の的になっている黒髪女の番になった。
「名前はラナ。職業種? としては剣士になるかと。二人同様ノーマルからです。……えっと、それでその、神の祝福を受けております」
今度こそ、俺達は言葉を失った。
男なら──前衛にいるなら憧れてならない世界というものがある。ランクでいえばゴールド。あそこまでいくには相当な期間ギルドに所属することと所属する前から含めて犯罪は一切犯していないこと(そもそも犯していたら入れないが)、もしくはそれ相応の闘いをしてきたという実績があることでようやくなれるランクだ。それこそ歳が二桁になるかならないかから所属し、実績を積まなければ今の時代なれることはないといわれるほど難しい。
その上の世界であるプラチナはもってのほか。今や王族や元神職であるという証の代名詞としかなっていないが、本来このランクはそうじゃない。
職業が剣士なら神職だったってこともないし、あいつが王族なら名前くらいは知ってるというもの。そうでないのなら──そいつが特別な存在だと神が決めた人間。別の見方をすればその人間を神が気に入ったと宣言したようなものだ。
ギルドの奴も流石に言われると思ってなかったのか呆然とした表情を一瞬見せるも、すぐに切り替えて手続きを進めていった。
「──では、手続きは以上となります。三人の個人登録、及びパーティ登録は済みましたので、本日より依頼を受けることが可能となりました」
あくまで事務員として話すものの、その目は期待半分疑心半分といったところだろうか。それを物ともせずありがとうございますと礼を返す三人に自然と全員がどんな仕事を受けるのかと見守る。プラチナは神の祝福そのものを指すから別個として扱う為、全員がノーマルランクでもそれ相応のものは受けられる。早い話、腕に覚えがあるなら経験を積んでいて対人戦も行ったことがあるならブロンズの上位もしくはシルバーからと決まっている護衛だって出来るわけだ。
そんなわけで俺達は固唾を飲んで一挙一動を見ていた。
「早速ですみません、この依頼を受けるので手続きをお願いします」
そう言って選んだのは魔獣討伐。それもノーマルしか受けないラビットという害獣に等しいほど弱いもののやつだった。
期待していた分がっかりしたといったら嘘にならない。一体どんなものを狩ってくる、もしくは受けるのかと思っていた分その気持ちは強い。が、それはお門違いというものなのだろう。何せ対戦の経験がないなら他の奴らと同じ道筋を歩むのが普通だ。だから奴らの選択肢は正しい。
だからこそ俺達は気づかなかったのだ。簡単な内容だからと思い、また王都という土地柄か、ノーマルの奴が少ないゆえにその討伐数がえげつないことになっていることに。
夕方になって俺達はそれを知ることになるが、それはまた別の話だ。
まあ俺の話はそんなに重要じゃない。大事なのはこの国の中央ギルドで入ってきた新人達だ。
女二人の男一人。ある種典型的なパーティを組んでいたその三人は、けれどその容姿があまりにも綺麗でその場にいた奴らの目を引いた。
水色髪の奴はちっこいが意思の強さをその目に宿し、金髪野郎は柔和な表情をしているが油断はしないという気配を醸し出していた。どっか別のギルドからこっちのギルドへきたのか、あるいは依頼を達成したがゆえに立ち寄ったのだろうかと考えるが、それはないだろうと思うのが一人だけいた。
キョロキョロ辺りを見渡し、不思議そうに見てくる女。光の加減で赤茶にも見える黒髪は短く切り揃えられていて、何より腰に差していた剣が目を引いた。
前衛であることは一目瞭然。だからこそギルドは静まり返った。
女で前衛だなんてそういない。魔力系統を抜きに、剣のみで闘い生き抜いてきたと物語るその意味は特にギルドでは大きい。
だというのに、男が受付で発した言葉に俺達はどよめいた。
「こんにちは。機関登録を行いたいのですけど、どうしたら良いですか?」
なんとこいつら、組み始めたばかりの人間だっていうからだ。いつもは騒がしいギルドの中も奴らが入ってきた瞬間静まっていたからこそその声は奥の方にいた俺にまで聞こえ、その内容に驚かざるを得なかった。
新人で、女で、剣士。おそらく残り二人が後衛、もしくは中間を担うのだろう。だとすれば余計にその意味は深くなる。
己の腕を試したい。そう誇示していると言っても良いからだ。
受付にいた奴はあくまで事務的に手続きを進めていくが、腐っても元冒険者だったのがほとんどだ。新しく入るという三人に俺達以上に注意深く観察しているのが分かった。
そして水色の女と金髪の男──マリーナとアランの手続きが終わり、注目の的になっている黒髪女の番になった。
「名前はラナ。職業種? としては剣士になるかと。二人同様ノーマルからです。……えっと、それでその、神の祝福を受けております」
今度こそ、俺達は言葉を失った。
男なら──前衛にいるなら憧れてならない世界というものがある。ランクでいえばゴールド。あそこまでいくには相当な期間ギルドに所属することと所属する前から含めて犯罪は一切犯していないこと(そもそも犯していたら入れないが)、もしくはそれ相応の闘いをしてきたという実績があることでようやくなれるランクだ。それこそ歳が二桁になるかならないかから所属し、実績を積まなければ今の時代なれることはないといわれるほど難しい。
その上の世界であるプラチナはもってのほか。今や王族や元神職であるという証の代名詞としかなっていないが、本来このランクはそうじゃない。
職業が剣士なら神職だったってこともないし、あいつが王族なら名前くらいは知ってるというもの。そうでないのなら──そいつが特別な存在だと神が決めた人間。別の見方をすればその人間を神が気に入ったと宣言したようなものだ。
ギルドの奴も流石に言われると思ってなかったのか呆然とした表情を一瞬見せるも、すぐに切り替えて手続きを進めていった。
「──では、手続きは以上となります。三人の個人登録、及びパーティ登録は済みましたので、本日より依頼を受けることが可能となりました」
あくまで事務員として話すものの、その目は期待半分疑心半分といったところだろうか。それを物ともせずありがとうございますと礼を返す三人に自然と全員がどんな仕事を受けるのかと見守る。プラチナは神の祝福そのものを指すから別個として扱う為、全員がノーマルランクでもそれ相応のものは受けられる。早い話、腕に覚えがあるなら経験を積んでいて対人戦も行ったことがあるならブロンズの上位もしくはシルバーからと決まっている護衛だって出来るわけだ。
そんなわけで俺達は固唾を飲んで一挙一動を見ていた。
「早速ですみません、この依頼を受けるので手続きをお願いします」
そう言って選んだのは魔獣討伐。それもノーマルしか受けないラビットという害獣に等しいほど弱いもののやつだった。
期待していた分がっかりしたといったら嘘にならない。一体どんなものを狩ってくる、もしくは受けるのかと思っていた分その気持ちは強い。が、それはお門違いというものなのだろう。何せ対戦の経験がないなら他の奴らと同じ道筋を歩むのが普通だ。だから奴らの選択肢は正しい。
だからこそ俺達は気づかなかったのだ。簡単な内容だからと思い、また王都という土地柄か、ノーマルの奴が少ないゆえにその討伐数がえげつないことになっていることに。
夕方になって俺達はそれを知ることになるが、それはまた別の話だ。
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