女剣士の道は険しい?

星野 夜空

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番外編

どこかで聞いたような……

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 冒険者になってはや一ヶ月。これを長いと感じるか短いと感じるか、まあ大半はまだまだこれから、なのだろう。
 もちろん私自身そう思ってるし、アランやマリも同じ。だけど周りがそうかといえばそうじゃないらしい。初心者向けだと受付の人から教えてもらった魔獣駆除の依頼を達成した報告をした時からだから、ずっとということになるのだけど。一体全体何が原因だ? と三人で首を傾げる。
 学園だと実用的かつ事務的な座学とある種の想定訓練を重ねてきただけで、いわゆる実地研修のようなものをしてきてない。つまり自分達がやったことがどうしてこんなにも騒がしくなっているのか、誰にも分からないというわけだ。ギルドの人も苦笑いしながら、その内気づきますよ、としか教えてくれないしさ。
 正直こういう視線は学園の時からされてきたから慣れてはいるけど、それは私の場合であり二人に限ってはそうじゃない。当然、私以上に居心地悪く感じてるだろう。今だって受けようとしてる依頼を早く受理してくれと言わんばかりだもの。そんな雰囲気出しても、時間は変わらないだろうに。気持ちは痛いほど分かるけどさ。

「まったく、毎度毎度見られるだけってのも嫌だね。そろそろギルド移動する?」

 受理されてギルドを出た瞬間、アランからため息を吐きつつ言われたものの、まるで明日は採取の護衛依頼でも受ける? といった感じにいうものだから呆けてしまった。
 王都から離れて別ギルドを拠点にする。それ自体は珍しいものじゃないけど、二人はいいの? 特に、マリの親が了承した条件っていう、「王都を拠点にすること」が守られてなかったら連れ戻されるといったことはないの?
 あ、でもたとえ家族でもそういうのって禁止してるんだっけ。権力使ってきそうな場合は、だけど。
 とはいえ、話に聞くと実入りの良い依頼が多いのはここ王都だけ。それ以外だと辺境地帯での依頼が良い。国と国との境目ゆえ、利権やらなんやらに縛られてない冒険者に頼んだ方が良い採取や討伐、後は危険が予測される場所への第一実地調査派遣隊の依頼が多いから、なんだって。
 でもなー、何でこの視線を一ヶ月も受け続けたのか原因が判明しないと、どこにいっても同じな気がする。私より地頭の良いアランなら気づかないはずなんてないのにそんなことを言うってことは、理由が分かったってことなのかな。

「そうですね、いくら新人としてやりすぎたとしても、あくまで私達は示された依頼を達成しているだけですからね。非はないわけですから、良いと思いますよ」
「え、マリ賛成なの? 両親に口出しされないの?」

 というか口振りから察するに、マリも分かってるの、この視線の理由。二人とも分かってるなら教えてくれてもいい気がする。……いや待てよ、もしかしたら私も分かってて話してるってこともあり得るな。何でか知らないけど、過大評価してる節があるから。そんな大層な存在でもないし、頭の出来は学園時代のそれで知ってると思うんだけどなー……。

「家族には依頼の関係で遠出していると話せば問題ありません。それに王都で活動してほしいと説明されましたが、どこの国に、とは言われてませんからね」

 た、たくましい。滅茶苦茶たくましくなってる。これ絶対アランの影響だよね。あのほわわんとした空気はそのままに、考え方が似てきてるような。
 いやこれ以上考えるのはよそう。思考の渦に巻き込まれそうだ。それよりもこの謎の視線に理由が分かってるなら、本当に教えてほしい。
 そう話せば顔を見合わせる二人。え、何そんなに変なこと聞いたのもしかして。やらかした?

「……あの、最初に受けた駆除依頼、覚えてますか?」
「え? うん、簡単で実入りが良かったからよく覚えてるよ」

 数だけ駆除のやつなのにやたら金額が高くて、そのくせ初心者向けときたから冒険者なりたての私達に合ってる上に幸運だなー、って思ったからギルドの印象が良くなったんだっけ。最初の依頼ってことで気を引き締めてやってたし、そういう意味でも記憶に残ってるな。
 でも、それが一体全体何の関係があるの?

「あれってさ、王都みたいな場所だとどれだけ金を積まれてもやりたくない仕事なんだって。ノーマルランク以前に、新人向けのやつだから簡単すぎて誰もやりたがらないんだ」
「何その贅沢な意見というか選び方……」
「王都に集まる冒険者は、基本的に腕に覚えのある方やそれなりに名の知れたチームの方々です。その様な人々に不釣り合いな依頼をやらせたいならそれ相応の対価を、となりますが、それでもやりたくない人が多かったのでしょうね」

 まして同じような金額で、場合によっては楽な護衛依頼や採取依頼があるとしたら、弱いだけで数の集まりになってた魔獣駆除は面倒な依頼に映るってことなのかな。いや絶対映ったろうな、特に前線で戦うタイプは。何せ受けた私がそう思ったのだもの。
 で、それを半日ほどで終わらせたから変な目で見られたと。そういうことで合ってるかな?
 なんか、どっかであったような話をされてる気分になるのは……記憶違いだろうね、うん。そうしよう。

「さて、ラナの視線疑問が解けたところで、どうしようか。僕としてはああいうの嫌いだから変えたいっていうのが本音なんだけど」
「うーん。正直どこでも良いって言ったら語弊があるけど、二人があそこに居づらいって言うなら変えようか」

 私はもう慣れたからね、ああいう視線にはさ。そう言えばなんとも苦々しい表情で、表現しがたい声を出す二人。……学園のこと思い出せちゃったかな。申し訳ない。でも私の中ではとっくに終わった話でもあるし、あまり気にしてないんだけどな。
 まあ、拠点変えはいい経験になるって聞くし、いつかやってみたかったからいい機会だと思うことにしようという意見に終わり、私達は受けた依頼を果たしに街を出た。
 密かにそれが楽しみになったのは内緒。二人と遠出──いや、遠くの場所へ行くなんて考えられなかったから。それだけで冒険者になって良かったと思えるのだから、本当に私って現金だ。
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