81 / 81
番外編
さあ、飛び出そう
しおりを挟む
いよいよ明日は王都から出る日。隣国か境目か、それはまだ決めかねているけど、分岐の街までは乗合馬車で五日かかる距離。自分達で借りたらそんなでもないんだけどね。
あいにく、馬を保有できるほどのチーム資金はまだない。いつか自分達の手で稼いだお金で買おうというのが目標だ。馬の手入れはいつか役立つだろうという神父様の計らいで、街にいた頃世話をさせてもらったから多少は出来るから無問題。
そんなこんなで準備日として今日は休み。全員で最後の確認と買い出しをしていると、あちらこちらから「気をつけて」と声をかけられた。
どうやら私達がここを出ると広まっているようだ。そんな大層なことはしてないけれど、ものによっては人と関わることの多かった依頼もあったから顔見知りは案外多い。特にアランとマリはその容姿からしてファンもいるらしく、行く先々で王都周辺の街で活動することがあれば是非寄ってください! と言われることの数多さ。耳にタコができるよ。
そうして、ようやく全てが終わったのも日が暮れ始める頃合いだった。疲れたーお腹空いたー。
「いや、まさかこんなに気にかけてもらえてたなんてね」
「ん? どうして?」
「冒険者ってさ、どうしても職業柄、街の人と仲良くなれないから。それに僕らの場合、身分差もあって今まで気さくに、何の裏もなく話しかけてくれる人なんて少なかったし」
「そうですね。私も、少し意外でした。このように皆さんと話せるようになるなんて思いもしておりませんでしたから」
「……そっか」
大分忘れてきたけど、二人は貴族。マリなんか箱入り娘状態でいたわけだし、余計こう、寂しいんじゃないかな。
……半分私が理由なのよね。申し訳ないな。
それが顔に出てたのか、二人から指摘された。また暗い表情をしてると。
「君のせいでも何でもないんだから、気にしなくていいんだよ」
「そうです。それに私、元々他国の王都や辺境街へ興味がありましたもの。丁度いい機会です。
それと、新人としては十全の力があると、先日宴の席で言われて自信に繋がってますから」
「ああ、言われたね。王都系統じゃなく辺境系統もやっていけるって」
そう笑い合う顔は、嘘なんかついてない真の笑み。気にしすぎだと言われているのは分かっているけど、その優しさに毎回私は甘え、救われてる。
鼻の奥がツンときたのは、内緒。
☆
翌日。程よく晴れた空はこれからの旅路に悪影響はなさそうだ。
馬車乗り場には幾人か、見送りのつもりだろうか。冒険者の人が来ていた。
「これから寂しくなるな、元気でやれよ」
「ええ、もちろん。貴方も元気で」
「マリーナちゃん、体に気をつけて。何なら俺もついていこうか?」
「まあ、ご冗談が上手ですね。手付きに手を出すのはいただけませんよ」
御者さんと話すことがあるから、と嘘をついて少し距離を置いた場所では最後の歓談をしている。……あいにく私にはそんな人がいない。いないわけじゃないけど、何というのだろう。どうしてもこの剣で引かれがちだ。
「おい、ラナ」
そんな中でも話しかけてくれた人もいた。古参だというビエムさんだ。
「なんですか? 私、道の確認をしてたところなんですけど」
「はいはい。影を薄くするのも大概にな。女だからって舐めてくる奴らなんざぶっ飛ばしちまえ。お前はお前だろうがよ」
「……私が勝手に線引きしてるだけですよ」
頭によぎるのはボロボロにされた衣装。あんな想いを抱いて、やり場のない気持ちがあったのは否定しない。でも犯人探しはご法度だとされて、あのゴタゴタが終わり、祭りの経緯を経てこれだ。
一人ならまだしも、二人まで一緒になってしまって。負い目になってないと言ったら嘘。
そんなことは分かってると言わんばかりに頭をぐっしゃぐしゃに撫でられる。髪の毛がボサボサにされてジト目で見れば、そんなの知らんって顔で更に撫で回された。
「お前は遠慮しすぎなんだよ。仲間にさえもな。実力もあるんだ、自信もって行ってこいや」
「はぁ……」
言いたいことだけ言って他冒険者達の元へ戻るビエムさん。全く、手向けの花にも程がある。これだから古参はお節介だと言われるのよ。……嬉しくないと言ったら違うのがまたムカつく反面嬉しいと思うのは内緒。
そうして別れの言葉をひとしきり言い終えると、水を打ったような静けさに包み込まれた。もうすぐ乗合が発車する合図が、小さなベルの音にも関わらず聞こえたくらい。
「じゃあ、行こうか」
そっと笑みを浮かべて促してきたアランへ私達二人は頷く。時間なんてあってないようなもの。それに今生の別れでもなんでもない。
だから、前を向こう。道はあの時と違って示されているのだから。
あいにく、馬を保有できるほどのチーム資金はまだない。いつか自分達の手で稼いだお金で買おうというのが目標だ。馬の手入れはいつか役立つだろうという神父様の計らいで、街にいた頃世話をさせてもらったから多少は出来るから無問題。
そんなこんなで準備日として今日は休み。全員で最後の確認と買い出しをしていると、あちらこちらから「気をつけて」と声をかけられた。
どうやら私達がここを出ると広まっているようだ。そんな大層なことはしてないけれど、ものによっては人と関わることの多かった依頼もあったから顔見知りは案外多い。特にアランとマリはその容姿からしてファンもいるらしく、行く先々で王都周辺の街で活動することがあれば是非寄ってください! と言われることの数多さ。耳にタコができるよ。
そうして、ようやく全てが終わったのも日が暮れ始める頃合いだった。疲れたーお腹空いたー。
「いや、まさかこんなに気にかけてもらえてたなんてね」
「ん? どうして?」
「冒険者ってさ、どうしても職業柄、街の人と仲良くなれないから。それに僕らの場合、身分差もあって今まで気さくに、何の裏もなく話しかけてくれる人なんて少なかったし」
「そうですね。私も、少し意外でした。このように皆さんと話せるようになるなんて思いもしておりませんでしたから」
「……そっか」
大分忘れてきたけど、二人は貴族。マリなんか箱入り娘状態でいたわけだし、余計こう、寂しいんじゃないかな。
……半分私が理由なのよね。申し訳ないな。
それが顔に出てたのか、二人から指摘された。また暗い表情をしてると。
「君のせいでも何でもないんだから、気にしなくていいんだよ」
「そうです。それに私、元々他国の王都や辺境街へ興味がありましたもの。丁度いい機会です。
それと、新人としては十全の力があると、先日宴の席で言われて自信に繋がってますから」
「ああ、言われたね。王都系統じゃなく辺境系統もやっていけるって」
そう笑い合う顔は、嘘なんかついてない真の笑み。気にしすぎだと言われているのは分かっているけど、その優しさに毎回私は甘え、救われてる。
鼻の奥がツンときたのは、内緒。
☆
翌日。程よく晴れた空はこれからの旅路に悪影響はなさそうだ。
馬車乗り場には幾人か、見送りのつもりだろうか。冒険者の人が来ていた。
「これから寂しくなるな、元気でやれよ」
「ええ、もちろん。貴方も元気で」
「マリーナちゃん、体に気をつけて。何なら俺もついていこうか?」
「まあ、ご冗談が上手ですね。手付きに手を出すのはいただけませんよ」
御者さんと話すことがあるから、と嘘をついて少し距離を置いた場所では最後の歓談をしている。……あいにく私にはそんな人がいない。いないわけじゃないけど、何というのだろう。どうしてもこの剣で引かれがちだ。
「おい、ラナ」
そんな中でも話しかけてくれた人もいた。古参だというビエムさんだ。
「なんですか? 私、道の確認をしてたところなんですけど」
「はいはい。影を薄くするのも大概にな。女だからって舐めてくる奴らなんざぶっ飛ばしちまえ。お前はお前だろうがよ」
「……私が勝手に線引きしてるだけですよ」
頭によぎるのはボロボロにされた衣装。あんな想いを抱いて、やり場のない気持ちがあったのは否定しない。でも犯人探しはご法度だとされて、あのゴタゴタが終わり、祭りの経緯を経てこれだ。
一人ならまだしも、二人まで一緒になってしまって。負い目になってないと言ったら嘘。
そんなことは分かってると言わんばかりに頭をぐっしゃぐしゃに撫でられる。髪の毛がボサボサにされてジト目で見れば、そんなの知らんって顔で更に撫で回された。
「お前は遠慮しすぎなんだよ。仲間にさえもな。実力もあるんだ、自信もって行ってこいや」
「はぁ……」
言いたいことだけ言って他冒険者達の元へ戻るビエムさん。全く、手向けの花にも程がある。これだから古参はお節介だと言われるのよ。……嬉しくないと言ったら違うのがまたムカつく反面嬉しいと思うのは内緒。
そうして別れの言葉をひとしきり言い終えると、水を打ったような静けさに包み込まれた。もうすぐ乗合が発車する合図が、小さなベルの音にも関わらず聞こえたくらい。
「じゃあ、行こうか」
そっと笑みを浮かべて促してきたアランへ私達二人は頷く。時間なんてあってないようなもの。それに今生の別れでもなんでもない。
だから、前を向こう。道はあの時と違って示されているのだから。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる