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プロローグ(幼少時代)
さあ、都へ
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それから更に月日が経った。前世でいう中学三年生にあたる年、無事に入学試験を突破した私は、神父様と両親、それからレオを始めとした同い年の友人達に見送られようとしていた。冬空の下、それも早朝というより夜明け前だというのに。
「皆、わざわざありがとう」
「そんなの気にしなくて良いさ。俺達がしたいと思ったことをしてるだけなんだから」
レオの言葉にうんうんと頷く皆。彼の成長を感じる口調や見た目の変化は、ここにいる友人全員に当てはまる。やっかみやら何やら言われるものの、最後には風邪引くなとか、道中気をつけろとか、暖かく優しい言葉が降り注いだ。こうした会話もしばらくは出来なくなると思うと潤みそうになる涙をグッとこらえ、十五年間育ててくれた両親へ向き直った。
「お父さん、お母さん、今までありがとう。向こうに着いたら手紙、ちゃんと書くから」
「ええ、楽しみにしているわ。無理だけはしないようにね」
「体には、くれぐれも気をつけろよ」
いつかと同じように抱きしめあう。あの頃より身長も増えて、小柄なお母さんなんかすっぽり埋まってしまいそうなほど。今生の別れではないけど、学園を卒業した後は、一般人でも国の預かりになることが多い。学生のうちでも里帰りできないことがあると聞くから、今のうちにと言わんばかりに、心と体に刻み込むように、私達は長い間そうしていた。
最後に向き合ったのは神父様。あの儀式から十年以上経ったというのに、昔と変わらない容姿の謎をいつか突き止めると誓った彼は、いつもと同じように柔らかな微笑みをたたえていた。
「魔力とはなんですか? ラナさん」
「己が身に流れる、血液とは別のものです」
「魔法とはなんですか?」
「魔力を練り直接的、間接的に放出する現象のことです」
「その二つを使うにあたって、気をつけるべきことは?」
「使うべき時と使わざる時を見極めること。使うべき時に躊躇しないこと。自身の命を守り、周りを助けることです」
初歩の初歩、習い始めた日に教えられたことを諳んじると、笑みを深くして頷く。よく出来ましたと答える時の顔と一緒だった。
「今、貴方が答えたことを決して忘れないように。忘れた瞬間から、魔法は貴方を蝕む悪魔となります」
強大な力は自我を狂わせる。そうでなくてもふとしたことでその力を使うと、取り返しのつかないことだって起こりうる。だからこそ、己を律し、常に制御できるようにしていないといけない。神父様の口癖だ。
「肝に命じて忘れません。もし忘れたら、叱りにきてください」
一度だけレオと喧嘩して、魔力を暴走させた時のように。言葉にしなかったそれに答えることはせず、ただ静かに笑う神父様。それだけで私は十分だった。
そうこうしている間に、朝日が昇ろうとする時間になっていたらしい。薄暗かった空が徐々に明るくなってきていた。
きっと、どれだけ言葉を重ねても足りないし、触れ合っていれば離れがたくなる。王都までの足として両親が用意してくれた馬へ、いつまでもいたい気持ちを振り切るために跨った。
「……行ってきます!」
『行ってらっしゃい』
「皆、わざわざありがとう」
「そんなの気にしなくて良いさ。俺達がしたいと思ったことをしてるだけなんだから」
レオの言葉にうんうんと頷く皆。彼の成長を感じる口調や見た目の変化は、ここにいる友人全員に当てはまる。やっかみやら何やら言われるものの、最後には風邪引くなとか、道中気をつけろとか、暖かく優しい言葉が降り注いだ。こうした会話もしばらくは出来なくなると思うと潤みそうになる涙をグッとこらえ、十五年間育ててくれた両親へ向き直った。
「お父さん、お母さん、今までありがとう。向こうに着いたら手紙、ちゃんと書くから」
「ええ、楽しみにしているわ。無理だけはしないようにね」
「体には、くれぐれも気をつけろよ」
いつかと同じように抱きしめあう。あの頃より身長も増えて、小柄なお母さんなんかすっぽり埋まってしまいそうなほど。今生の別れではないけど、学園を卒業した後は、一般人でも国の預かりになることが多い。学生のうちでも里帰りできないことがあると聞くから、今のうちにと言わんばかりに、心と体に刻み込むように、私達は長い間そうしていた。
最後に向き合ったのは神父様。あの儀式から十年以上経ったというのに、昔と変わらない容姿の謎をいつか突き止めると誓った彼は、いつもと同じように柔らかな微笑みをたたえていた。
「魔力とはなんですか? ラナさん」
「己が身に流れる、血液とは別のものです」
「魔法とはなんですか?」
「魔力を練り直接的、間接的に放出する現象のことです」
「その二つを使うにあたって、気をつけるべきことは?」
「使うべき時と使わざる時を見極めること。使うべき時に躊躇しないこと。自身の命を守り、周りを助けることです」
初歩の初歩、習い始めた日に教えられたことを諳んじると、笑みを深くして頷く。よく出来ましたと答える時の顔と一緒だった。
「今、貴方が答えたことを決して忘れないように。忘れた瞬間から、魔法は貴方を蝕む悪魔となります」
強大な力は自我を狂わせる。そうでなくてもふとしたことでその力を使うと、取り返しのつかないことだって起こりうる。だからこそ、己を律し、常に制御できるようにしていないといけない。神父様の口癖だ。
「肝に命じて忘れません。もし忘れたら、叱りにきてください」
一度だけレオと喧嘩して、魔力を暴走させた時のように。言葉にしなかったそれに答えることはせず、ただ静かに笑う神父様。それだけで私は十分だった。
そうこうしている間に、朝日が昇ろうとする時間になっていたらしい。薄暗かった空が徐々に明るくなってきていた。
きっと、どれだけ言葉を重ねても足りないし、触れ合っていれば離れがたくなる。王都までの足として両親が用意してくれた馬へ、いつまでもいたい気持ちを振り切るために跨った。
「……行ってきます!」
『行ってらっしゃい』
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