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本編
お約束の出来事?
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入学式だというこの日、目の前にある重厚な扉を開けなければならないと思うと憂鬱だった。
事の発端は昼間の入学式の途中。体調が悪かったのだろう子が目の前で倒れ、騒然とし始めた時、先生が駆け寄る前におんぶして保健室へ連れていった。今思うと薄情でも先生に任せれば良かったことに気づいた。これは失敗した。
だけど、それだけならここ、理事長室へ呼ばれるなんてことはない。
あの時私は、魔法を使った。身体強化をして病人を迅速に運びつつ、身体補助を使ってその子がずれ落ちないようにした。街で怪我をした子を運ぶ時やっていたことを、学園でもうっかりしてしまったのだ。
女性が攻撃系統に属する魔法を使えることは稀中の稀だということを忘れてね。故郷じゃ当たり前に受け入れてもらっていたから、本当に抜けていた。
深呼吸して腹をくくると、二、三度ノックした。中からはついさっきまで聞いていた、壮年の男声。失礼します、と同時に勢いをつけて開けた。
で、入ったは良いものの、早数分。予想通り理事長が座っていたのは良かったけど、その後何も話さない。私から何か言うのも失礼なことだし、さて、どうしたものか。
「先程はどうもありがとう。すまないが、名前を教えてもらっても良いかな?」
「あ、え、と、はい。ラナと申します。咄嗟にしたことですが、お役に立てたようで」
唐突にその沈黙を破られてびっくりした。どもってしまったのは許してほしい。
「ラナ君は、足が速かったり、バランス能力に長けていたりするのかい?」
「い、いえ、そんなことは……」
「ふむ。だとするとあの時感じた魔法発生は、君のもので間違いないと認めるね?」
「……はい。祭典中に使用してしまい、申し訳ありません」
「ああいや、あれは仕方ない。誰もが非難しないよ」
行事中に魔法を使うなんて、精々祭りの際に起こる騒ぎや、急病者の発生時に発動するものくらいだ。今回のように、常に悪意がない使い方をされるわけじゃない。
その為暗黙の了解として、かしこまった場所において魔法を使用することは非常によろしくないとされている。たまたま事情が事情で許されたけど、本来責任者(この場合先生)に頼れば良かったわけで。つくづく判断ミスしたことが悔やまれる。
「だが、本題はそこにないということを分かっているだろう?」
思わず、ですよねーと声が漏れそうになった。ええ勿論、心当たりは別にありますよ。
「単刀直入に言う。君の魔法系統はどれにあたるんだ?」
「……攻撃、及びそれにあたる補助系統だと告げられております」
誤魔化したところで意味はないだろう。そのメリットも特にない。むしろデメリットしか浮かばない。なら、素直に話した方が良い。
理事長はというと、案の定、難しい顔をして唸り始めた。おそらく学園初、下手をしたらこの国初となる存在が私なのだ。その扱いをどうしたものかと思っているのかもしれない。
「君が正直に明かしてくれたから、私も言おう。攻撃系統に適性がある者は心身に問題がある場合を除いて、軍に属することとなる。しかしこの国では、女性で攻撃系統に適性がある者など君が初めてだ」
「つまり、その為の設備は勿論のこと、制度もないということで合っていますか?」
「あぁ、そういうことだよ」
君は聡い子だ、と静かに笑うその目に、一種の哀れみが見えた。
事の発端は昼間の入学式の途中。体調が悪かったのだろう子が目の前で倒れ、騒然とし始めた時、先生が駆け寄る前におんぶして保健室へ連れていった。今思うと薄情でも先生に任せれば良かったことに気づいた。これは失敗した。
だけど、それだけならここ、理事長室へ呼ばれるなんてことはない。
あの時私は、魔法を使った。身体強化をして病人を迅速に運びつつ、身体補助を使ってその子がずれ落ちないようにした。街で怪我をした子を運ぶ時やっていたことを、学園でもうっかりしてしまったのだ。
女性が攻撃系統に属する魔法を使えることは稀中の稀だということを忘れてね。故郷じゃ当たり前に受け入れてもらっていたから、本当に抜けていた。
深呼吸して腹をくくると、二、三度ノックした。中からはついさっきまで聞いていた、壮年の男声。失礼します、と同時に勢いをつけて開けた。
で、入ったは良いものの、早数分。予想通り理事長が座っていたのは良かったけど、その後何も話さない。私から何か言うのも失礼なことだし、さて、どうしたものか。
「先程はどうもありがとう。すまないが、名前を教えてもらっても良いかな?」
「あ、え、と、はい。ラナと申します。咄嗟にしたことですが、お役に立てたようで」
唐突にその沈黙を破られてびっくりした。どもってしまったのは許してほしい。
「ラナ君は、足が速かったり、バランス能力に長けていたりするのかい?」
「い、いえ、そんなことは……」
「ふむ。だとするとあの時感じた魔法発生は、君のもので間違いないと認めるね?」
「……はい。祭典中に使用してしまい、申し訳ありません」
「ああいや、あれは仕方ない。誰もが非難しないよ」
行事中に魔法を使うなんて、精々祭りの際に起こる騒ぎや、急病者の発生時に発動するものくらいだ。今回のように、常に悪意がない使い方をされるわけじゃない。
その為暗黙の了解として、かしこまった場所において魔法を使用することは非常によろしくないとされている。たまたま事情が事情で許されたけど、本来責任者(この場合先生)に頼れば良かったわけで。つくづく判断ミスしたことが悔やまれる。
「だが、本題はそこにないということを分かっているだろう?」
思わず、ですよねーと声が漏れそうになった。ええ勿論、心当たりは別にありますよ。
「単刀直入に言う。君の魔法系統はどれにあたるんだ?」
「……攻撃、及びそれにあたる補助系統だと告げられております」
誤魔化したところで意味はないだろう。そのメリットも特にない。むしろデメリットしか浮かばない。なら、素直に話した方が良い。
理事長はというと、案の定、難しい顔をして唸り始めた。おそらく学園初、下手をしたらこの国初となる存在が私なのだ。その扱いをどうしたものかと思っているのかもしれない。
「君が正直に明かしてくれたから、私も言おう。攻撃系統に適性がある者は心身に問題がある場合を除いて、軍に属することとなる。しかしこの国では、女性で攻撃系統に適性がある者など君が初めてだ」
「つまり、その為の設備は勿論のこと、制度もないということで合っていますか?」
「あぁ、そういうことだよ」
君は聡い子だ、と静かに笑うその目に、一種の哀れみが見えた。
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