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本編
剣舞祭(当日)
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いよいよ当日。思った以上に人が来ていて、これは緊張すると背筋を伸ばしていると、昨日の騒ぎで協力してくれた子達が話しかけてきた。
皆、顔が強張ってる。当たり前だ、私達は一年生。こんな大役を僅か入学一ヶ月からするなんて、誰も思っていなかっただろう。空気に飲まれてる、が一番近いかもしれない。
「……今日は、楽しめると良いな」
ぽつりと呟いた言葉は、ガヤガヤと騒がしかった部屋が一瞬静かになるほど効力を発揮したらしい。次の言葉を待ってるようだった。
そんな大層なものじゃないのに、と苦笑しながら続けた。
「嫌なこともあったし、休みたくても休めない日もあった。でもそんな日は、きっともうこない。来年あると思っても、その頑張りは来年のもので、今日のためじゃない。だから、今日の演舞の時間を楽しめると良いなって思って」
その時ようやく、私の話をほぼ全員聞いていたようだということに気づいて顔が熱くなる。こんなこと、柄じゃないんだけど。
ああでも、周りの硬くなっていた表情が和らいだのなら、別に良いかな。適度以上の緊張は、事故の引き金になるから。
「そうだよなー。今日を成功させるために頑張ってきたのに、楽しめなかったら損だよな」
「つかお前、ヘマすんじゃねえぞ。昨日こけたろ」
「あ、あれは間合いを前のままにしただけで、今日は平気だよ!」
「私も同じ失敗してるから大丈夫大丈夫。何とかなるって」
あちこちで色んな会話が、でも今日のことを前向きに捉えられるようになってきた時、今までずっと教えてくれていた外部指導の先生が集合! と呼びかけた。
一糸乱れず、いつも通り動く。そのいつも通りが、心の中に余裕を持たせてくれた気がした。
「今日はいよいよ剣舞祭だ。皆、よく頑張ってくれたな。一生懸命頑張り、そして励んだからには報われる。それを実感してもらえたら嬉しい」
その一言に引き締まる。でもそれは、さっきの緊張感のようなマイナスを伴うものじゃないからか、何だか心地いい。
いい意味でリラックス出来てるのかな。これは本番も楽しめると信じて、会場へ足を運んだ。
☆
太鼓の音。笛の音色。この世界特有の楽器、鈴のような物をいくつも吊るして鳴らすシャランのリズムにのって、それらは奏でられていく。
それに合わせるように、合わせられるように舞っていく。目の前に敵を想定して動く一人舞から、切り結びの舞、そして神様へ今年の安寧を願う祈りの舞。
周りの人は騒がず、ただ静かに見ている。まるで清浄な雰囲気に飲まれてるかのように。その雰囲気を創り出しているのが私達だと気づかず、ただただ舞う。
今までの稽古を振り返りながら。豊穣を祈りながら。そして、今この時を楽しみながら舞っていた、その時だ。
『皆さんに、祝福を。我が加護を与えよう』
そんな声が聞こえたと思っていたら、演舞は無事に終了していた。
何が何だか分からずに会場を去ると、口々にあれは何だったと言っている。どうやら私だけじゃなく、周りの人も聞こえたらしい。見れば先輩達も初めてなのか、困惑してる。
先生は私達の様子から何かを悟ったのか、満面の笑みを浮かべていた。
「君らが聞こえたのは天啓だ。自分達の時以来、なかったこと。それだけ真剣に祈り、舞ったからこそ、神様も楽しんでくださった。それに応えてくださったのだ」
え、と驚きの声があがる。この世界において神様からの祝福や天啓は、聖職者を除けば王族でしかありえない。それだけ異例のことが起きたとなると、嬉しいを通り越して畏れ多いものへ変貌する。
だけどそれを知ってか知らずか、胸をはれと言葉は続いた。
「一般人である人間に何故、と思うだろう。だけどこれは、神様のお礼と思えば良い。その分勉学に励み、日々の練習に精を出せ。
選ばれた者なんかじゃない。驕るな。神様は常に、加護を与えた者を見ている」
神様が祝福を与えて良かったと思う人間になれ。
締めくくられた言霊は、何でか私の心を鷲掴みにした。
皆、顔が強張ってる。当たり前だ、私達は一年生。こんな大役を僅か入学一ヶ月からするなんて、誰も思っていなかっただろう。空気に飲まれてる、が一番近いかもしれない。
「……今日は、楽しめると良いな」
ぽつりと呟いた言葉は、ガヤガヤと騒がしかった部屋が一瞬静かになるほど効力を発揮したらしい。次の言葉を待ってるようだった。
そんな大層なものじゃないのに、と苦笑しながら続けた。
「嫌なこともあったし、休みたくても休めない日もあった。でもそんな日は、きっともうこない。来年あると思っても、その頑張りは来年のもので、今日のためじゃない。だから、今日の演舞の時間を楽しめると良いなって思って」
その時ようやく、私の話をほぼ全員聞いていたようだということに気づいて顔が熱くなる。こんなこと、柄じゃないんだけど。
ああでも、周りの硬くなっていた表情が和らいだのなら、別に良いかな。適度以上の緊張は、事故の引き金になるから。
「そうだよなー。今日を成功させるために頑張ってきたのに、楽しめなかったら損だよな」
「つかお前、ヘマすんじゃねえぞ。昨日こけたろ」
「あ、あれは間合いを前のままにしただけで、今日は平気だよ!」
「私も同じ失敗してるから大丈夫大丈夫。何とかなるって」
あちこちで色んな会話が、でも今日のことを前向きに捉えられるようになってきた時、今までずっと教えてくれていた外部指導の先生が集合! と呼びかけた。
一糸乱れず、いつも通り動く。そのいつも通りが、心の中に余裕を持たせてくれた気がした。
「今日はいよいよ剣舞祭だ。皆、よく頑張ってくれたな。一生懸命頑張り、そして励んだからには報われる。それを実感してもらえたら嬉しい」
その一言に引き締まる。でもそれは、さっきの緊張感のようなマイナスを伴うものじゃないからか、何だか心地いい。
いい意味でリラックス出来てるのかな。これは本番も楽しめると信じて、会場へ足を運んだ。
☆
太鼓の音。笛の音色。この世界特有の楽器、鈴のような物をいくつも吊るして鳴らすシャランのリズムにのって、それらは奏でられていく。
それに合わせるように、合わせられるように舞っていく。目の前に敵を想定して動く一人舞から、切り結びの舞、そして神様へ今年の安寧を願う祈りの舞。
周りの人は騒がず、ただ静かに見ている。まるで清浄な雰囲気に飲まれてるかのように。その雰囲気を創り出しているのが私達だと気づかず、ただただ舞う。
今までの稽古を振り返りながら。豊穣を祈りながら。そして、今この時を楽しみながら舞っていた、その時だ。
『皆さんに、祝福を。我が加護を与えよう』
そんな声が聞こえたと思っていたら、演舞は無事に終了していた。
何が何だか分からずに会場を去ると、口々にあれは何だったと言っている。どうやら私だけじゃなく、周りの人も聞こえたらしい。見れば先輩達も初めてなのか、困惑してる。
先生は私達の様子から何かを悟ったのか、満面の笑みを浮かべていた。
「君らが聞こえたのは天啓だ。自分達の時以来、なかったこと。それだけ真剣に祈り、舞ったからこそ、神様も楽しんでくださった。それに応えてくださったのだ」
え、と驚きの声があがる。この世界において神様からの祝福や天啓は、聖職者を除けば王族でしかありえない。それだけ異例のことが起きたとなると、嬉しいを通り越して畏れ多いものへ変貌する。
だけどそれを知ってか知らずか、胸をはれと言葉は続いた。
「一般人である人間に何故、と思うだろう。だけどこれは、神様のお礼と思えば良い。その分勉学に励み、日々の練習に精を出せ。
選ばれた者なんかじゃない。驕るな。神様は常に、加護を与えた者を見ている」
神様が祝福を与えて良かったと思う人間になれ。
締めくくられた言霊は、何でか私の心を鷲掴みにした。
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