女剣士の道は険しい?

星野 夜空

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本編

パーティのお話

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 彼女達が会場に着いたという知らせはすぐに耳に入った。堂々としているけど不安そうに周りを見るラナを、苦笑しながら見ているマリを見て、無事に来れたことにまず安堵した。
 ラナは、勉強がさして秀でているわけじゃないけど、人の行動や言動に鋭い上に敏感すぎるほど反応することがある。だからか、マリの口調から僕ら二人の素性も察したらしい。今日のパーティを是非と誘ったのに断ったのもいい例だ。
 うちは元が成り上がりの家系だから身分なんて気にしてる家風なんてない。そもそも学校が学校だし、将来が将来なんだから気にしていたらやってらんないけど。そんなだからパーティの準備やらなんやら、こっちがやるつもりだったのに。
 挙句マリがラナの家に行くことによって、マリ自体このパーティに来づらくなった。まあ、親から離れるってことに僕は大賛成だから良いんだけど、ここまできたら学園から退学なんてないと思うけど、帰ったら束縛強くなるだろうから後期の学校生活が若干心配だ。
 本当彼女の親、どうにかしないと。
 そう思いながら二人へ話しかけると、視界の端に見慣れた、そして昔から忌々しく思う人間がきた。
 色々マリへ向けて話しかける彼女の親は、本人が見たくないとでも言うように顔を下へ向けたことにすら気づかない。僕を、本来なら今日の主役であり、無礼講とはいえ蔑ろにするような発言を控えるべきなのに気にせず言う様にもイラっときた。
 だから多少の嫌味を込めて注意したのに、相変わらずの様子で聞く気がないらしい。自分達はマリに対して正しいことをしているとか抜かした時には、やっちゃいけないことだと分かっていても攻撃魔法を入れてやりたくなった。

「ねえマリ。あんな風に貴方のことをお人形としか思えない親、何ていうか知ってる? 私の地域ではね、毒親っていうんだよ」

 その時聞こえたラナの声は、いつも聞く声音じゃなかった。驚いて彼女を見ると、無表情という言葉が合うかのようだ。
 その目にすら、今何を思っているのか分からないくらい無だった。

「な、な、何を申すのですか貴方は! 侮辱も良いとこですよ!」
「侮辱? それはお二方の方でしょう。マリの顔を見ているようで見ていない。さっきから顔をあげようとしない彼女を不安にすら思わない。心配すらしない。彼女の気持ちを尊重しない。それでマリのことを考えている? 戯言にもならないですね」

 ハッとしたかのようにマリを見た二人は、次いで顔を青ざめた。今更か、と笑いたくなる。
 散々僕が言ってきたことをようやく理解したらしい。改めて声をかけようと一歩踏み出そうとしたが、ラナはそれをさせるつもりはないらしい。
 前に出ることによって、自分の後ろにその小柄な人を隠した。

「今の今まで、貴方方は何を見ていたのでしょうね? 可憐で美しい彼女を鳥籠に閉じ込めて愛でて、飼い殺す気でいたのですかね? その心を労わることをせずに」

 そこまで言って、出過ぎた真似をしてしまい申し訳無いと謝る彼女は、正直言って好ましい。場の雰囲気を壊したと感じられるほどの人間なんて、貴族でも早々いない。まして僕らくらいの年頃は、当主教育を受けた人にしか分からないだろうに。
 まあ、周りがさっきの夫人の声で談笑を止めてこっちを見始めたからっていうのもあるだろうけどね。

「ラナ、マリは疲れてるみたいだ。今から帰るのは危ないから、客間に行って休んできたら? 案内させるよ」
「……そうね。マリ、それで良い?」

 返事の代わりに頷いた彼女を、侍女と共に気遣いながらここから出ていく。その際僕の方を見た、のは間違いじゃないだろう。
 この場を収める続きを任された僕は、今度は怒りを隠しもせずに二人へ向き合った。
 最愛の者を傷つける人は、例え両親だとしても赦さないから。
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