女剣士の道は険しい？

本編

事情把握.２

　ここで「素直に話せない」というドーレの悩みに直結する。男の見栄なのか、単にかっこつけたいだけなのか、体力のない自分が軍には向かない、下手すれば庶民から時たま穀潰しだと揶揄される事務に肌が合ってる。なんて言えないが、将来のことを考えると話さないといけない、と。
　断っておくと穀潰しだと言われるのは、現場系は当たり前だけど事務の才能すらない、魔力適性が高いだけの人を指すからこの悩みは全く不要のものだ。ドーレ自身はちゃんとできる人だと思うし感じるからね。
　それでも話し合えていない事実は変わらない。加えてリンの家事情や家督問題などなど、婚約を交わす際に親からそれとなく話されたらしい。だからもしかしたら変な方向に考えが向いてるかもしれない、とグダグダ言ってきた時は私や周りにいた連中が、容姿はもちろん名前すら教えてくれなかった婚約者の女性に今の姿を見せてやりたいと思った。満場一致で。

「というわけで、彼は本気で軍で働きたいけど自分に合っているか分からないから将来貴方に苦労をかけるかもしれない。そうなったら外から好奇の目を向けられるかもしれない。もしもの時は守るけど貴族の女は貴族の女であしらうしかない、自分が力になれなかったら義父に申し訳ない。と入学前後から今日までず──っと言ってきてるのよ」
「……そこに領地運営、及び税収の設定といった、いわゆる貴族特権といわれるやつへの未練は」
「これっぽっちもないね、聞いてる限りは」

　学園に入ってから知ったけど、王族へ納める税と領主へ納める税は毎年一括、一緒に支払う。私達が王税と領税って分けてるそれは、王税は飢饉でも豊作でも災害でも変化しない上に滅茶苦茶低い。領税は変化がある分、高い時は高いし低い時は低い。でも全部が全部領主にいくんじゃなくて一部はそのまま領主が支払う王税へ回す、といった動きになるから一定の金額になることが常だ。
　リンが懸念してたのはここ。甘い蜜を吸おうと思ったら吸えてしまうんだろうね。だからもし、ドーレが将来心変わりをしたら、と思ったら不安なのだろう。なまじ言葉を交わさない分、どっちの人間か分からなかったから余計に悩んだろうし。
　それらに未練どころか興味関心がないときたら、肩透かしも良いとこだ。
　未練なら将来ふとした時に復活することを考えたら確かに不安になるけど、興味関心がないことは永遠にない。無関心は永遠に無関心なのだから。たとえきっかけがあったとしても、だ。

「……何よ、それ」

　小さく呟いたかと思えば、壁に突撃する勢いで頭を後ろへ下げる。うん、気持ちは痛いほど分かるよ。