60 / 81
本編
二人のお話
しおりを挟む
話し合いというなの暴露を聞かされたリンはしばらく意識をどこかに飛ばしていたかと思うと、一言断りをいれてすぐ部屋を飛び出した。
行き先は言わずもがな、ドーレのいる場所。こんな祭りに浮かれそうな日でも日課になってるだろう剣の素振りはしているはずだと思い、攻撃系統の人がよく使う自主練場へ行けば予想通りそこにいた。丁度一区切りついたのか、汗を布で拭っているところだった。
ドーレ、と声をかけるとまさかの人物からだからか、はたまた今日という日に声をかけられると思ってなかったからか、目を見開いてリンを見つめてきた。
「……ラナから聞いたわ。貴方、軍で働きたいのですって?」
「な、あいつ……。あぁ、そうだ。だけど俺には働き続けられるか、今の時点では分からない。もちろん学園を卒業したら所属はそこになるのだから残り一年ちょっと頑張ってみるが、もし駄目だったらその後どうなるか分からない。領主としての仕事も、そちらの父親が存命なら俺はいらないし、俺達に子が出来たら尚のことだ。だからお前に苦労をかけてしまうと思って言えなかったんだ」
情けなくてすまない、そう言って頭を下げてきたドーレに、リンは心の底から息を吐き出した。
「その前に一つ確認して良いかしら。私、貴方から正式に言葉をいただいてないのだけど?」
「え、あ……いや、それは……その……お前は、俺を嫌っているのかと思って……」
先日祭りを一緒に回らないかと誘ったのに断られたから。続けて言われた言葉に、はて? と思う。リンの中では一切言われた記憶がないからだ。
「ほら、この前。今日予定がないか聞いただろ。その時お前、ないけど何でだって。王学祭一緒に行かないかって言ったら、それも何でだって言うし……」
「それは、だって婚約者としてなら、そんな気遣いいらないわよって」
「俺は! ……婚約者としてでも良い。お前と一緒に、行きたかったんだ」
相手が自分のことを好きかどうか分からないけど、立場という権利を利用してでも。けれどそれは、やってはいけないことだとも思う気持ちが確かにあって。結局諦めたのだと。そういうドーレは、確かにヘタレだと言われても仕方ないとリンは思う。
同時に、どうしてそこまで自分のことを、とも考えるのも事実だ。幼い頃から知っているわけでもない、知ったのだって学園に来る数ヶ月前に決まった時で、初顔合わせに出会った日から今まで数える程度にしか話したことがない。
貴族として、いってしまえば政略結婚の部類なのだ。愛を求めるほどリンは現実を知らないわけでもないし、それはきっと彼も同じはずである。つまりそこまで心を砕く必要もないのだ。
疑問にドーレも気づいたのだろう、しばらくあーとかうーとか呻き声をあげたかと思えば、覚悟を決めたのか顔を上げリンを見つめた。
「リン。一目惚れという言葉を知っているか」
「えぇ。初めて会った人をその瞬間好きになることよね? ……え、まさか」
「そのまさか、だ。顔合わせの時、俺はお前に惚れてしまった。
それだけじゃない。家のことやお前自身のこと、今後のこと、それら全てを父から聞いた時、素直に驚いたんだ。心の芯が強くなければ耐えるなど到底出来ないだろうに耐えてきた。なら、それを少しでも和らげてあげたい。そう思ったんだ」
だから、もしお前が良いというなら。軍が合わなかったとして辞めても良いと思ってもらえるなら。領主としての俺を、求める時がくるまで求めないと思ってくれるなら。俺と正式に結ばれてくれないだろうか。
そっと差し出された手を数秒見つめ、リンは──。
行き先は言わずもがな、ドーレのいる場所。こんな祭りに浮かれそうな日でも日課になってるだろう剣の素振りはしているはずだと思い、攻撃系統の人がよく使う自主練場へ行けば予想通りそこにいた。丁度一区切りついたのか、汗を布で拭っているところだった。
ドーレ、と声をかけるとまさかの人物からだからか、はたまた今日という日に声をかけられると思ってなかったからか、目を見開いてリンを見つめてきた。
「……ラナから聞いたわ。貴方、軍で働きたいのですって?」
「な、あいつ……。あぁ、そうだ。だけど俺には働き続けられるか、今の時点では分からない。もちろん学園を卒業したら所属はそこになるのだから残り一年ちょっと頑張ってみるが、もし駄目だったらその後どうなるか分からない。領主としての仕事も、そちらの父親が存命なら俺はいらないし、俺達に子が出来たら尚のことだ。だからお前に苦労をかけてしまうと思って言えなかったんだ」
情けなくてすまない、そう言って頭を下げてきたドーレに、リンは心の底から息を吐き出した。
「その前に一つ確認して良いかしら。私、貴方から正式に言葉をいただいてないのだけど?」
「え、あ……いや、それは……その……お前は、俺を嫌っているのかと思って……」
先日祭りを一緒に回らないかと誘ったのに断られたから。続けて言われた言葉に、はて? と思う。リンの中では一切言われた記憶がないからだ。
「ほら、この前。今日予定がないか聞いただろ。その時お前、ないけど何でだって。王学祭一緒に行かないかって言ったら、それも何でだって言うし……」
「それは、だって婚約者としてなら、そんな気遣いいらないわよって」
「俺は! ……婚約者としてでも良い。お前と一緒に、行きたかったんだ」
相手が自分のことを好きかどうか分からないけど、立場という権利を利用してでも。けれどそれは、やってはいけないことだとも思う気持ちが確かにあって。結局諦めたのだと。そういうドーレは、確かにヘタレだと言われても仕方ないとリンは思う。
同時に、どうしてそこまで自分のことを、とも考えるのも事実だ。幼い頃から知っているわけでもない、知ったのだって学園に来る数ヶ月前に決まった時で、初顔合わせに出会った日から今まで数える程度にしか話したことがない。
貴族として、いってしまえば政略結婚の部類なのだ。愛を求めるほどリンは現実を知らないわけでもないし、それはきっと彼も同じはずである。つまりそこまで心を砕く必要もないのだ。
疑問にドーレも気づいたのだろう、しばらくあーとかうーとか呻き声をあげたかと思えば、覚悟を決めたのか顔を上げリンを見つめた。
「リン。一目惚れという言葉を知っているか」
「えぇ。初めて会った人をその瞬間好きになることよね? ……え、まさか」
「そのまさか、だ。顔合わせの時、俺はお前に惚れてしまった。
それだけじゃない。家のことやお前自身のこと、今後のこと、それら全てを父から聞いた時、素直に驚いたんだ。心の芯が強くなければ耐えるなど到底出来ないだろうに耐えてきた。なら、それを少しでも和らげてあげたい。そう思ったんだ」
だから、もしお前が良いというなら。軍が合わなかったとして辞めても良いと思ってもらえるなら。領主としての俺を、求める時がくるまで求めないと思ってくれるなら。俺と正式に結ばれてくれないだろうか。
そっと差し出された手を数秒見つめ、リンは──。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
56
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる