夏は短し、恋せよ乙女

ぽんず

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episode:3

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
「…。」
 
ここは、都会の一等地に大きな豪邸を構える夏目財閥の屋敷。
何部屋もある中でひときわ広い部屋に暮らすお嬢様。
 
夏目梨々花。
 
彼女は生まれながらの財力に恵まれ、なんともお嬢様気質に育っていった。
 
悩みはお金が解決し、特に周囲へも関心がない。
 
 
そんな彼女は朝からある一点を険しい表情で見つめていた。
 
 
「どうしたものかしら…。」
 
 
その視線の先には先日、佐々木幸太郎から預かった帽子であった。
梨々花は幸太郎と同じ高校であるが、クラスは知らず、学校では一言も話したことがなかった。
まして、学校で男性と話したことなど一度もなかったのである。
 
 
「とにかく…なんとかするしかないわよね…。」
 
 
梨々花は仕方なく、紙袋に帽子を入れて学校へと足を進めるのであった。
 
「おはようございます。梨々花様。」
 
「今日は少しやることがあるの、もう学校へ行くわ。」
 
「かしこまりました。車を玄関まで運んでおきます。」
 
 
桐の運転でいつも通り学校へ到着した梨々花は、現在最も会いたくない友人にばったり会ってしまった。
 
「り~り~か~ちゃん!!」
 
“ガバッ”
 
「うっ!!ちょっと!!麗、あんた朝から抱き着かないでくれる?!」
暑苦しいし、うるさいし、疲れるのよ。
 
 
いつも通りの朝であったが、麗はそこで終わりにはしなかった。
 
「もしかしたらと思って、連絡待ってたのに~~。」
 
「?なんの話よ。」
 
 
とぼけちゃって~~!!
 
 
麗はニコッと笑うと。
 
「水族館デート!!」
 
?!
 
「麗、あんたデートとか変なこと言わないでよ!!」
 
よろめいている梨々花を見てさらにグイグイと麗の質問は続く。
 
 
「それで!実際どうだったの?」
 
「どうって…別に普通よ。」
 
「普通って?どんな感じなの??私デートしたことないもん…。」
 
 
「だから…」
デートじゃないってば!と梨々花は麗を突き放し、教室まで走って逃げた。
 
 
「…。あんな梨々花ちゃん初めてだな。ますます怪しい。」
 
麗はなにかを察したのであった。
 
 
“♪~♪~♪~”
 
「もしもし~真琴ちゃん?麗なんだけど~ちょっと調べてほしいことがあるんだけど~。」
 
「えっ?風紀を乱すことならダメ?大丈夫だよ~~!!へへへ。」
 
麗は小悪魔な笑顔で何かを企んでいるのであった。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
「さてと…。」
 
教室についてしばらくしたが、紙袋のせいでそわそわしていた。
 
(まず初めは…クラスを調べなくちゃね…。)
 
なんで梨々花がこんなことしなくちゃいけないのよ。とまだブツブツと言いながら案を考えていた。
 
 
梨々花にクラスで話せる友達は麗しかおらず、いきなり躓いていた。
 
 
「梨々花ちゃん!やっと追いついた!」
 
急いで追いかけていたのか、若干息を切らした麗がやっと教室に到着していた。
 
 
「麗が悪いのよ。」
 
フンッと鼻を鳴らす梨々花に
 
 
「せっかく佐々木幸太郎君について知っているのにな~。」
 
 
?!?!
 
「麗…あんたどこでその名を?!梨々花なにも言ってないのに!!」
 
「ちょっとね~!」
麗は得意げにニコッと微笑んでみせた。
 
 
(ほんとに…こういうところは麗を敵に回したくないわ。)
 
 
「クラスも知ってるし~。知りたい??」
 
 
「別に知りたくなんかないわよ。」
 
 
「なんだ~じゃあ忘れちゃおっと。」
 
 
「?!?!」
 
「じゃあ梨々花ちゃん、またあとでね!」
 
「ちょっと、待ちなさいよ!!」
 
 
「?」
麗は振り返ると、驚いた。
そこには顔を真っ赤にした梨々花がプルプルしながら立っていた。
 
「麗…少し教えてほしいのだけれども…。」
 
「梨々花ちゃん…かわいい!!!」
 
そういって麗は再び梨々花に抱き着いたのであった。
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
少し離れた教室では男子高校生が机へ伏せていた。
 
 
「幸太郎~おはよ!今週も寂しく頑張ろうな!」
 
なにがだよ。とめんどくさそうに幼馴染に突っ込みを入れつつ体を起こす。
 
「今週は全然休んだ気がしないんだよな。」
 
「幸太郎はまた妹とお出かけか?」
 
「あぁ。」
 
「お前のところも大変だよな…。」
亮はなにか察したらしく深くは聞いてこなかった。
 
 
“ザワザワ”
 
 
「なんか廊下のあたりが騒がしくないか…。」
 
「ほんとだ。朝からうるさいな…。めんどくさい…。」
 
 
そういうと自分の世界にこもるため再び幸太郎は机へ顔を伏せたのであった。
 
 
 
(休みにいろいろあったし、今日からは静かに生活したい…。)
 
 
「おいおいおい!幸太郎!!お前呼ばれてるぞ?!」
 
幼馴染に起こされて、幸太郎の願いは跡形もなく消えていったのであった。
 
「えっ…。なんで…?!」
呼ばれた先をみると、人が集まっている中心に最近よく見る人物が手を挙げて立っていた。
 
 
「ちょっと、用事があるから来なさいよ。」
 
“ザワザワ”
「えっ、梨々花ちゃんが呼び出し?!」「相手誰だよ!!」
「麗ちゃん、すごく楽しそう。」「もしかして彼氏とか?!」
 
 
「おいおい…なんだよあの人だかり…。ぜってー行きたくない。」
 
「おい!あれ絶対幸太郎を呼んでるぞ!梨々花ちゃんがこんなクラスに来るなんて…。」
 
 
皆は目を丸くしていた。
 
「ちょっと!梨々花がわざわざ来たのよ?無視するつもり?!」
 
 
「梨々花ちゃん、なんかすごい人だかりができちゃったし…どうしようか…。」
さすがに麗もびっくりして困っている。
 
 
「ここまでわざわざ来たのに、引き下がれるわけないでしょ!」
 
天下の梨々花様なのよ?!
 
そういうと梨々花は幸太郎の教室へずかずかと入っていった。
 
「ちょっと。佐々木君、こっちきなさいよね!」
 
そういうと幸太郎の腕をつかみ廊下を全力で走っていった。
 
 
!?
 
その場にいた全員が固まり、麗だけが目をキラキラさせていた。
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
「おい…どこまで行くんだよ。手いつまで握ってんの…。」
 
気が付けば校舎を抜けて体育館まで来ていた。
 
「はぁ…はぁ…はぁ…手は握ったんじゃなくて…掴んだの!…ちょっと待って、苦しい。」
 
普段は全く運動しない梨々花は肩を大きく揺らして息をしていた。
 
はぁ…とため息を漏らしながら幸太郎は梨々花の復活を待っていた。
 
「梨々花は何も悪くないわよ!これ!」
 
そういうと持っていた紙袋を渡した。
「あぁ…帽子、忘れていたな…わざわざありがとう。」
 
 
 
「本当よ、なんで梨々花がこんな事をしなくちゃいけないのよ…。」
 
 
「夏目さん、髪の毛乱れすぎ。お化けみたいだけど。」
 
 
「はぁ?」
 
梨々花は恥ずかしくなり、髪の毛をかくした。
 
 
「別にいいんじゃない?お化けみたいで。」
 
「ちょっと!お化けみたいですって?それ、絶対にほめてないでしょ!!」
 
 
「…。」「…。」
 
一瞬目が合い
 
「ふっはは…」「ぷっふふふ…」
 
二人は一瞬目が合い、笑ってしまった。
 
体育館には2人の笑い声だけが鳴り響いていた。
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
 
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