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“キーンコーンカーンコーン”
幸太郎の願いもむなしく、時計を見ると12時を指していた。
周りの生徒は次々に教科書を片付けて、個々に移動を始める。
幸太郎のみ時間が固まっていた。
ついでに表情も固まっていた。
「お~い。幸太郎~約束があるだろう?」
他人事のため若干面白がっている亮を横目にため息を吐く。
「…わかってる。」
いつもは賑やかな昼休みの教室も何やら膜を張っているように感じる。
「幸太郎、閉じ込められたらいつでも呼べ!」
ピースサインで亮はニコニコしている。
「…閉じ込められるって…ドラマの見すぎじゃないか。」
重い体を動かして、特別室3へと向かうのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5組から離れて、ここは特別室3という四天王の知られざる隠れ家である。
幸太郎よりも一足先に彼女たちは3人集まっていた。
「梨々花ちゃんから連絡来ないな~。」
「相当状態が悪いのだろうか。」
「…知恵熱…かもね…。」
2人の視線が華恋へと集まる。
「それ絶対に私のせいだよ~~。昨日嫉妬なんて単語を出しちゃったから…。」
「その知恵熱は結果オーライなのではないか?」
少し考える時間も青春には必要だろう。
そういいながら真琴は深く頷いた。
「梨々花ちゃんって昔も熱出したことあったよね~あの時はすごかったな~!」
「あの日の事は私も覚えているぞ!」
「私も…。」
「確かあの時の梨々花ちゃんって…」
「驚くほど素直だったな!」
「素直過ぎて怖かった…」
「そうそう!急にいつもありがとう。大好き!なんて言ってたもんね~!!」
「素直な時に、佐々木幸太郎にあったら…。」
「!!」「!!」
「もしかしたら、気持ちに気付くかも…」
「「それだ!!」」
3人は同じ目的を再確認したのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
“ガラッ”
いつもより気を使って開けた扉の先には既に3人が揃っていた。
もちろんメンバーは春野麗、千秋真琴、冬城華恋であった。
「来た来た~!幸太郎君いきなりごめんね!」
「…。」
「佐々木君。悪かったね。せっかくのランチタイムに!」
「いえ…別にいいっす。」
幸太郎は3人からなぜか期待の眼差しを向けられて、後ずさりをするのであった。
「さぁさぁ!ようこそ我らの楽園へ。」
こっちに来たまえ!と真琴が嬉しそうに手招きをする。
「何も怖がることはない…。」
(…俺はこれからどうしてしまうのだろう。)
「ふふふ!幸太郎君に頼みたいことがあるんだけど~ふふふ。」
笑顔が駄々漏れになっている麗が一枚の紙きれを渡す。
「えっ?」
素直に受け取り内容を確認する。
「それは梨々花の住所だ。」
「なんで住所なんて…。」
「いや~私、親友の家にお見舞いに行きたいんだけど…。今日はどうしてもいけない用事があるのだよね。」
幸太郎はその瞬間嫌な予感を悟った。
「生憎、私もだな。今日に関しては残念ながら多忙なのだよ。親友としてあるまじきだが。」
「両サイドに同じく…。」
「っということで、梨々花の親友同好会は幸太郎君しかいないのよね~。」
ね?っと麗がニコッと微笑んで見せる。
「…。」
「佐々木幸太郎…あなた梨々花が嫌いなの?」
“ズキッ”
「いや。嫌いじゃないです…けど。」
(女子の家にお見舞いって…)
「じゃあ、決まりだね!!いや~大変申し訳ないけど!今日はよろしくね!!」
「これ」紙袋に入ったお菓子を渡される。
「お見舞いに渡しといてくれ!頼んだぞ佐々木君!」
華恋もグーサインを出している。
「…はぁ。」
幸太郎は紙袋と住所の書かれたメモを受け取り、特別教室3を後にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おっ!幸太郎帰ってたのか~!早かったな!」
期待の眼差しでニヤニヤしてくる亮を睨み付ける。
「その目はなんだ?」
「あの人たちのところ行ってきたの?」
幸太郎が帰ってきたことに気が付いた礼も話へと入ってきた。
「礼にも関係ない事だから。」
「関係なくない!なんか変なことでも言われたの?」
「…ちょっと飲み物買ってくるわ。」
教室を去ろうとした幸太郎を礼が手をつかんで引き留める。
「待って。今日の放課後、話したいことがあるんだけど…。」
「悪い。今日は忙しいから。」
「…また?さちかちゃんのお迎え?」
「いや、今日は母さんに頼む。今日は別件。」
「なんの用事?」
「礼には関係ない用事だから…手離して。」
礼はなにも言い返せず、手を放した。
「…もしかして…。」
幸太郎は、礼を残し自動販売機へと足を進めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
授業中、幸太郎は先生に隠れながらメモに記載された住所を検索していた。
歩いて20分前後の距離に目的地は指定されていた。
(よくよく考えたらいきなり訪ねて大丈夫なのか…?)
一度ナビを閉じて、梨々花へ連絡をする。
【今日、見舞いに行くことになったから。迷惑だったら言って。】
幸太郎の確認連絡に返信はなく、既読もつかないまま夕方へと時間ばかりが進んでいくのであった。
(携帯を確認できないほど重症なのか…?)
考えても仕方がないため午後の授業は精一杯集中して受けたのであった。
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