夏は短し、恋せよ乙女

ぽんず

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「いったい何がどうなってるの?!」

 

周囲が朝の噂で持ち切りの中、昼休みに特別室3では4人による緊急会議が行われていた。

 

特に声を大きくして混乱する様子を見せたのは、

梨々花×幸太郎を誰よりも応援していた麗であった。

 

「梨々花は知っていたのか?」

 

真琴は心配そうに梨々花に問う。

 

「お母様が勝手に決めたのよ・・。」

 

「梨々花のお母さん・・亮子さんは昔から変わらないわね。」

 

やることがいつも大胆。

 

そう付け足した華恋も表情は変わらないが心配そうだ。

 

 

「こんな大きな話になるなんて・・。」

 

「梨々花ちゃん、まさか本当にあの男と婚約するの?!」

 

「するわけないでしょ。」

 

今までお母様の言うことはできる限り守ってきたけど・・

 

「あんな得体の知れない男と仲良く過ごすつもりは全くないわ。」

 

これが今回、梨々花の出した答えである。

 

「それを聞いて安心した~!!」

 

「学校中も噂で持ち切りだぞ、どうする?」

 

4人は頭を抱えていた。

 

「もっと大きな噂を流せば?」

 

「そんなに都合よく噂なんて転がっているわけがないじゃない・・。」

 

“はぁ・・。”

 

4人の想い空気だけが教室内に響いたのだった。

 

なんの解決もできないまま時間が過ぎていき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。

 

 

「麗。教室に戻るわよ。」

 

「じゃあ、2人ともまたね!!」

 

真琴と華恋に別れを告げて特別室3を後にする。

 

残された教室では、引き続きプチ会議が始められていた。

 

「華恋、今回の事どう思う?」

 

「亮子さんらしいわね。」

 

「あぁ、愛情表現は少し変わっているが・・きっと佐々木幸太郎君の存在を知ったのだろうな・・。」

 

「どっち・・かしらね・・。」

 

「?」

 

「佐々木幸太郎と近づけたいのか、それとも遠ざけたいのか。」

 

「亮子さんの行動と思考は謎に包まれているからな・・。」

 

平和ならいいのだが。真琴はそういうと時計に目を向けた。

 

「私もそろそろ教室に戻るぞ。」

 

「昔は良く2人でサボっていたのに。」

 

「生徒会長という立場があるとね。なかなか自由がきかないものさ!」

 

そういうと真琴も特別室3を後にした。

 

「・・。」

 

残された華恋は一人、机に顔をふせるのであった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「結局どうなんだろうね。」「本当に婚約したのかな?」「お似合いだよね~。」

「あんなイケメンじゃあ勝ち目無いよな~。」「ふられるのを覚悟で告白しようかな。」

 

授業中にも関わらず、教室内はヒソヒソ声があらゆる場所から聞こえてきた。

 

“イラッ”

梨々花の事を陰でヒソヒソ言うなんて・・いい度胸してるわ。

あの男も本気で許せないわね。

 

梨々花の表情は更に険しいものになっていった。

 

授業の内容はほとんど耳へは入っておらず、

“どうやってあの男との婚約を破棄するか”

“母親の意見に逆らうか”

“そして最近心に引っかかっている感情”
 

この3つの問題のみが頭の中を支配していた。

 

 

(家にも帰りたくない、なによりあの男とお母様に会いたくない。)

 

「梨々花ちゃん・・この世の果て!みたいな顔になっているよ・・。」

 

休み時間になり、駆け寄ってくる麗もさすがに心配していた。

 

「現にこの世の果てレベルよ。」

 

「確かに・・。」

 

「学校にも居たくないけど、家にも帰りたくない。」

 

最悪だわ・・。

 

梨々花の気持ちとは関係なく、時間はいつも通り過ぎて放課後を迎えていた。

 

 

「麗、今日は先に帰るわね。」

 

「待って!!一緒に帰ろうよ!!」

 

1人で帰すのは危険な気がする!と麗は察し梨々花を引き留めた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

梨々花と麗は下駄箱から靴を取り、裏口を抜けて裏門を目指す。

 

正門にはいつもの倍の人数が待機していた。

 

「絶対あれ、梨々花ちゃんの出待ちだね。」

 

「あんなに門に群がって何が楽しいのかしら。」

 

「?!」

 

先を進んでいる麗が何かを発見したらしく、急に立ち止まる。

 

「ちょっと!急に・・」

 

麗が急に梨々花の口と目を手でふさぐ。

 

 

 

「?!」

 

口と目を手でふさがれた梨々花は反抗するのだった。

 

反抗して見えた視線の先に梨々花は固まった。

 

裏口の先、裏門の手前。

麗の手と手の間。

密着をする男女の姿。

目に映ったのは、礼が幸太郎に抱き着いている姿であった。

 

「梨々花・・ちゃん・・?」

 

「なにあれ・・。」

 

梨々花と麗の視線に気が付いた幸太郎が我に返ったのか、急いで礼を引きはがした。

 

「?!」

梨々花と幸太郎の視線が一瞬重なる。

梨々花にとってはその一瞬が随分長く感じた。

 

“ズキンッ”

 

心のよく分からない部分がひどく傷んだ。

 

「私はね。幸太郎がずっと好き。男として好きなの。」

 

「あはははは!!」

 

梨々花の笑い声に3人の視線が集まる。

 

「夏目梨々花・・。」

 

「梨々花ちゃん?!」

 

「あははは!2人とも一般市民同士お似合いじゃない~!!あははは!」

 

何かを隠すように梨々花はひたすら笑った。

 

梨々花は目が熱くなっていた。

 

「はぁ~笑い過ぎて涙が出ちゃうわ~!!本当に面白い~!」

 

じゃあ!のぞき見して悪かったわね!!

 

そういうと梨々花は裏門へと走っていった。

 

「ちょっと!梨々花ちゃん?!まってよ!!」

 

麗もその後を急いで追いかける。

 

「待って梨々花!」

 

幸太郎の声にも振り向かなかった。

振り向けなかったのだ。

 

「幸太郎、私を女として見て。」

礼は幸太郎の腕をガッシリとつかんだ。

 

「俺は・・。」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

はぁはぁはぁ

 

学校からしばらく走った場所で梨々花は息を切らした。

 

目の下には生暖かい感触が流れていた。

 

 

 

「梨々花ちゃん・・やっと追いついた・・。」

 

「ズッ麗・・梨々花・・」

 

 

小さな声で続けた。

 

 

「幸太郎君が好き。」

 

口に出した瞬間、梨々花の目からは涙があふれた。

 

「梨々花ちゃん。」

 

麗は優しく梨々花に抱き着いた。

 

(まったく~気付くの遅いよ~。)

 

「なななな泣いてなんか・・いないっいないから・・!」

 

「分かってる。私はなにも見ていないから。」

 

梨々花の泣き顔を麗は初めて見たのであった。

 

「梨々花・・変な事言っちゃった・・どうしよ・・。」

涙と鼻水でグチャグチャになった顔を麗に向ける。

 

「こういう時は・・素直に幸太郎君に伝えに行こう!」

 

麗は持っていたハンカチで梨々花の涙と鼻水を優しくふき取る。

 

「梨々花、幸太郎君のところに行ってくる!」

 

 

「あら~。そうはいかないわよ~。可愛い私の娘よ。」

 

待っていました!と言わんばかりのタイミングで亮子が近くの車から降りてくる。

 

「お母様・・」

 

「かわいい娘を泣かせる男のところになんて行かせないわよ?」

 

亮子は今日も楽しそうに微笑んでいた。

 

「別に泣いていたわけじゃないわよ。」

 

「まぁいいわ、帰るわよ。あなたの婚約者が家で待っている。」

 

「それは!」

 

「話は後よ。まずは家に帰ってから。その後聞くわ。」

 

そういうと亮子は車へと戻っていった。

 

 

「亮子さん・・もしかしてずっと見張っていたのかな・・。」

 

「麗、今日はそばに居てくれてありがとう。梨々花、今日は帰るわ。」

 

「でもっ」

 

せっかく幸太郎君への気持ちに気付いたのに・・

 

「もう気持ちに嘘はつかないわ。けど、まずは問題を解決してくる。」

 

そういった梨々花の目はもういつもの梨々花であった。

 

「分かった。なんかあったら連絡してね。」

 

返事の代わりに笑顔を返して梨々花は、車へと乗りこんだのであった。

 

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