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夏目家のとある一室、そこに部屋の主が数か月ぶりに帰国をしていた。
私の名前は、夏目 亮子(なつめ りょうこ)。
夫と結婚して20年、夏目財閥の女帝なんて呼ばれるまで…夏目家には必要不可欠な人物。
生活のほとんどをアメリカで過ごさなければならない。
娘と離れ離れなんて、なんて寂しい人生なのかしら。
もちろん娘の事が可愛くて可愛くて…たまらないわ。
じゃあなんで娘と暮らさないかって?
簡単な質問ね。
娘をアメリカに連れて行こうなんて考えたことはないわね。一度も。
だって…
(かわいい子には旅をさせよっていうじゃない?)
夏目家の女帝は今日も楽しそうに笑っていた。
「マイケル、あの子は相変わらずかわいいわね。」
「はい、梨々花様は立派に成長なされています。」
「少し出かけたいの、車を出してくれる?」
「かしこまりました。どちらまで行かれますか?」
「娘の親友に会いに行くわ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕食を食べ終わった頃、我が家“春野家”にはとある客人が来ていた。
「相変わらず立派なおうちね~。」
「…。」
「なによ~親友の母親が会いに来たのに、冷たい反応ね。」
「亮子さん…ご無沙汰しています。」
春野麗(はるの うらら)の表情は険しかった。
「う・ら・ら・ちゃん~。」
なんの用事で来たかは…わかっているわよね?
そう送られてきた視線に麗は、言葉を濁す。
「分かりたくありません。」
「佐々木幸太郎。」
「?!」
「麗なら知っているわよね?」
「…知りませんけど。」
麗の目は明らかに泳ぎ、尋常ではないほどに冷や汗をかいていた。
「へぇ~知らないの~何も知らないの?」
「……知りませんってば…。」
「じゃあ佐々木幸太郎君に手を出してもいいわよね?」
「?!」
大人とはなんとも酷い事をするのだ!と麗は思ったのであった。
(さすが亮子さん…名前だけじゃなくて色々と調べているのか…。
本当に昔から怖い人だ…。この人だけは敵に回したくない。)
「それは人間として間違っていますよ…。」
「今日の麗はえらく強気じゃない?けど、佐々木幸太郎君が私の梨々花に酷い事をしたらしくてね~。」
酷い事されたら黙っていられないじゃない?
「?!彼はそんなことをする人間ではありません!!」
亮子は次の瞬間“まってました!!”と笑顔を向ける。
「あら~麗ったら、佐々木幸太郎君の事を随分信頼しているのね~。知らない人なのに?」
しまった…やってしまいました…。
今回は一言一言に最新の注意を払っていたのに…。
夏目家の女帝恐るべし…。梨々花ちゃん…ごめん…。
麗は涙目になりながら梨々花に心で謝罪をするのであった。
「さぁ。早く話して楽になりなさい~。」
それから麗は亮子に今までの出来事と真琴から入手したあらゆる情報を泣く泣く伝えたのであった。
「ほんとに私が知っているのはこれで全てです。」
「フフフ~いつも梨々花の事を教えてくれてありがとね~!」
「…そもそも気になるなら、梨々花ちゃんに直接聞けばいいじゃないですか。」
梨々花ちゃんの交流関係に対してはいつも亮子さんが訪れてくるけど。
本人に聞くことが一番の情報となるのに…。
「私って昔から梨々花に嫌われてるじゃない?」
「そんなこともないと思いますが…。」
「これは私の勘だけどね~。私の勘は外れたことないから、きっとそう。」
亮子は少し寂しそうに笑った。
「だからいつも遠くから邪魔者を排除してるってこと!」
亮子は梨々花ちゃんの周りに少しでも変な事をする人がいたら、男も女も関係なく彼女は全てを排除してきたのであった。
(これも母親の愛かもしれないけど、梨々花ちゃんが初恋もまだなのは亮子さんのせいでもあると思う。)
麗は静かに確信したのであった。
「さてと~」
そういうと亮子は立ち上がった。
「幸太郎君の事はどうなさるのですか?」
「さぁ~ね~。」
ひ・み・つ!と言い残して夏目家の女帝は春野家から去っていったのであった。
「梨々花ちゃん…大丈夫かな…。亮子さん絶対になにか企んでいるよ。」
その後日、麗の嫌な予感は的中したのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後、梨々花の熱も下がり復帰する初日。
生徒でにぎわう校門で事は起こったのであった。
「キャ~見て!あのひと!!」「カッコいい~~!!」
「誰を待っているのかしら~。」「誰かの彼氏なの?!」
「誰だあの男…。」「朝からなんの用事だ?」
梨々花と麗と珍しく一緒に登校していたのであった。
視線の先には先日あった男が爽やかな顔で手をふっていた。
「おはよう。待っていたよ。梨々花ちゃん。」
「?!」
梨々花は目を見開いて驚いた。
視線の先には先日会ったばかりの見覚えがある男性が立っていた。
「あなたは確か…。」
「東條 響だよ。覚えてくれた?」
「天下の梨々花様がなんであんたみたいな男の名前を覚えるわけないでしょ。」
梨々花はいつもの調子で言い放った。
「あんたみたいって事は存在や顔は覚えてくれたみたいだね!」
嬉しいよ。と東條は優しく笑ってみせた。
「梨々花ちゃん…誰あのひと…。」
「こないだお母様が連れてきたのよ。」
「君は、亮子さんから聞いているよ。春野麗さんだろう?」
王子様のような笑顔に麗もドキッとするのであった。
「はじめまして。春野麗です…。」
まるで漫画の王子様みたい!!なんて呑気に麗はニヤニヤしていた。
「はじめまして。僕は東條響です。梨々花ちゃんの」
“婚約者です。”
表情を何一つ変えないまま響は爆弾を投下したのであった。
「「「「?!?!」」」」
周囲は一気にざわめき、麗は状況が読めないと泡を吹き始める。
「あんた!いったい何言ってるのよ!!!」
気絶寸前の麗を無理やり引っ張り、校舎の方へと進んでいく。
「そんなに照れなくてもいいじゃないか。」
この男…いったい何を考えてるの?!
天下の梨々花様が…今なんて言ったの?!
テレル…?
「寝言は寝て言いなさいよ!!!」
それから重大発表にザワザワしている人込みをかき分けて麗と2人教室へと向かうのであった。
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