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第2話 訪問者
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その日もリントブルムは変わらず一人で怪獣ごっこをして遊んでいた。
「ごぎゃぁぁぁぁ!!!!! ぐるあああああぁぁぁぁ!!!!」
一人で何役もするこの怪獣ごっこは思いのほか長続きしている気に入っていた遊びだった。
何百年もこうして一人で遊んでいるのだが、やはり飽きは来てしまう。
様々なものを試した結果、いくつかの遊びが残った。
その一つがこれである。
こういった知識も魔王に教えてもらったのだろうか?
平穏と言えば平穏な時間が今日も流れている。
そんな時だった――
「はぁはぁ......なんだ? ここだけやけに明るい.......まさか、やっと最終層にたどり着いたのか? 」
美しい赤い髪、華奢そうな雰囲気ではあるが白銀の重厚な鎧を身に着け、その鎧はいたるところがへこみ、裂け、潰れていた。
美しかったのであろう刃こぼれしたボロボロの片手剣を杖代わりにし、その女はおぼつかない足取りをしながらリントブルムの待つ400層へ足を踏み入れたのだ。
人類未到達の場所、400層。この女勇者の功績は本来ならば人類史の歴史で語り継がれる偉業であるのだが、今それを語るのは酷な事だろう。
見ただけでわかる彼女の残酷な姿はここまでの道のりが楽ではなかったことが伺える。
片足はおかしな方向へ折れ曲がり鎧の隙間から血が出ては固まり分厚い層になっていた。
体力もほとんど残されておらず疲弊の度合いは明らかだ。
おそらく放っておいても勝手に死ぬ。そんな状態だ。
誰も見てはいない偉業。すでに見えた彼女の末路から考えるとそれはほぼ価値のないものだと言えよう。
それでもひとひらの希望をもってここまで進んできた彼女の勇気は真の【勇者】と呼ぶにふさわしいものだと感じる。
だがその雄姿もこのダンジョン【ユグドラシル】では役には立たない。
ここは人外の世界。数多の勇気がうち破れた場所なのである。
そして女勇者はすぐにその存在に気づく。
目の前には恐ろしい咆哮をあげながら狂ったように暴れ狂う巨大なドラゴンの姿があった。
「ぎゃごぉぉぉぉぉ!!!!!! ぐるるるぅぅぅわぁぁああああああ!!!!!!」
すぐわかった。理解した。この世にはどうしようもできない存在がいるという事を。
例え万全の状態でこのフロアに足を踏みいれたとしてもどうにかなったとは思えない。
というかこれは、もはや世界が総出で相手をしないといけない存在なのではないか?
人類 対 このドラゴン それでも勝てるイメージなどつかめないほどの、底のない縦穴でも覗くような感覚が女勇者を支配していた。
あっという間だった。女勇者の戦意は簡単に折れ曲がり、静かに涙を流しながらあっけなく生きることを諦めた。
「う、うぅぅ......私もつくづく運がない.......。すまん、みんな。すぐに後を追うぞ。」
女は大粒の涙を止めようともせず、杖代わりにしていた片手剣をカランと地面に掘り投げ、その場に腰を下ろし、「煮るなり焼くなり好きにしろ!」と言った具合に覚悟を決め、静かに最後の時を待とうとした。
投げた剣が地面に当たる音でリントブルムもやっとその女勇者の存在に気づく。
「ぐるぅあああ、あ、あ、あぁ?? あれ?」
リントブルムは何が起きているのか理解できなかった。
(......なんかいる? あれ? あれ? なんかいるよ?)
今まで自分以外の動くものを見たことがなかったリントブルム。
それが勇者であるとすぐには気づくことなどできるはずがない。
どしん!どしん! とその女勇者の元へ近づいていく。
女勇者は震え、目から止めどない涙を流しながら恐怖で強張り切った顔をリントブルムに見せていた。
このダンジョンに入った時点で覚悟はできているはずだった。
だが目の前の存在に自らの死、以上の恐怖を感じてしまっている。
だがその表情を理解できないリントブルムは――
「キミ......もしかして人間?」
女勇者の何倍もある大きな顔をグイっと目の前まで近づけ、純粋に質問をしてみるリントブルム。
荒い鼻息が女勇者の恐怖をさらに煽る。質問に恐怖を超えた絶望の表情を見せながら声も出せずコクコクと必死にうなずいてみせた。
さらに顔を近づけ覗き込むリントブルム。
確かに魔王から聞いていた人間という生き物と特徴が似ているような気がする。
ならばと。
人間が来たときは背筋を伸ばし大きな声であいさつしなさいと常日頃から魔王に言われていたリントブルム。
体を起こし胸を張り背中の翼を大きく広げ――
「 人間よ、よくぞこの階層まで足を踏み入れた!!!!!! 我はこの階層のヌシ 暗黒竜リントブルム!!!! 真に勇気のある者よ。貴様の名前を我に刻むがよい!!!!(おはよう。よく来てくれたね。僕の名前はリントブルム。ここに住んでるんだよ。ねぇねぇ、君の名前を教えてよ。)」
その声はダンジョンを揺らし、空気が震え、すべてがひれ伏す。
暴力的な威圧が女勇者の体を通り過ぎるころ、何度も自分の人生を走馬灯でくりかえした挙句、我慢する事も耐えれる事もなく、あえなくあっさりと座ったまま失神してしまった。
(ドキドキ......たくさん魔王様と練習したからうまく話せたぞ。ちゃんと僕の話聞こえたかな?)
リンドブルムはフンフンと鼻を鳴らしながら凛々しい顔を崩さずチラリと女の方を見る。
当たり前だが女勇者にリアクションはない。
「あれ? どうしたの? 怒っちゃった? 具合悪いの? ねぇねぇ?」
顔を近づけるがそれでも反応はなく、リントブルムの荒い鼻息で女勇者はコテンと横に転がってしまった。
何が起こったのかわからないリントブルムだったが女勇者が苦しそうに息をしていることに気づく。
「もしかして苦しいの? 大丈夫?」
反応のない女勇者を心配してリントブルムは優しくその体を大きな口で咥え込み、自分の寝床まで歩いていくと優しくその中心に体を寝かせてあげた。
「ここは魔素が一番豊富な場所だから疲れてるのもすぐ治っちゃうよ。僕もね昔、大きいあくびをしたらあごが戻らなくなっていっぱい泣いたんだよ。すごい痛かったもん。でもね、そんな時でもここで寝てたらどんな痛いのもすぐに治っちゃうんだ。この前もね、怪獣ごっこしてたらね.........。」
リントブルムは苦しそうに息をする女勇者に話しかけ続けた。
自身が眠れないとき、魔王に眠るその時まで話を聞かせてもらった時、リントブルムは安らかに眠ることができた。
苦しそうな女勇者を見て、それを思い出したリントブルムは彼女の呼吸が楽になるまで誰も聞いていない話を続けるのだった
「ごぎゃぁぁぁぁ!!!!! ぐるあああああぁぁぁぁ!!!!」
一人で何役もするこの怪獣ごっこは思いのほか長続きしている気に入っていた遊びだった。
何百年もこうして一人で遊んでいるのだが、やはり飽きは来てしまう。
様々なものを試した結果、いくつかの遊びが残った。
その一つがこれである。
こういった知識も魔王に教えてもらったのだろうか?
平穏と言えば平穏な時間が今日も流れている。
そんな時だった――
「はぁはぁ......なんだ? ここだけやけに明るい.......まさか、やっと最終層にたどり着いたのか? 」
美しい赤い髪、華奢そうな雰囲気ではあるが白銀の重厚な鎧を身に着け、その鎧はいたるところがへこみ、裂け、潰れていた。
美しかったのであろう刃こぼれしたボロボロの片手剣を杖代わりにし、その女はおぼつかない足取りをしながらリントブルムの待つ400層へ足を踏み入れたのだ。
人類未到達の場所、400層。この女勇者の功績は本来ならば人類史の歴史で語り継がれる偉業であるのだが、今それを語るのは酷な事だろう。
見ただけでわかる彼女の残酷な姿はここまでの道のりが楽ではなかったことが伺える。
片足はおかしな方向へ折れ曲がり鎧の隙間から血が出ては固まり分厚い層になっていた。
体力もほとんど残されておらず疲弊の度合いは明らかだ。
おそらく放っておいても勝手に死ぬ。そんな状態だ。
誰も見てはいない偉業。すでに見えた彼女の末路から考えるとそれはほぼ価値のないものだと言えよう。
それでもひとひらの希望をもってここまで進んできた彼女の勇気は真の【勇者】と呼ぶにふさわしいものだと感じる。
だがその雄姿もこのダンジョン【ユグドラシル】では役には立たない。
ここは人外の世界。数多の勇気がうち破れた場所なのである。
そして女勇者はすぐにその存在に気づく。
目の前には恐ろしい咆哮をあげながら狂ったように暴れ狂う巨大なドラゴンの姿があった。
「ぎゃごぉぉぉぉぉ!!!!!! ぐるるるぅぅぅわぁぁああああああ!!!!!!」
すぐわかった。理解した。この世にはどうしようもできない存在がいるという事を。
例え万全の状態でこのフロアに足を踏みいれたとしてもどうにかなったとは思えない。
というかこれは、もはや世界が総出で相手をしないといけない存在なのではないか?
人類 対 このドラゴン それでも勝てるイメージなどつかめないほどの、底のない縦穴でも覗くような感覚が女勇者を支配していた。
あっという間だった。女勇者の戦意は簡単に折れ曲がり、静かに涙を流しながらあっけなく生きることを諦めた。
「う、うぅぅ......私もつくづく運がない.......。すまん、みんな。すぐに後を追うぞ。」
女は大粒の涙を止めようともせず、杖代わりにしていた片手剣をカランと地面に掘り投げ、その場に腰を下ろし、「煮るなり焼くなり好きにしろ!」と言った具合に覚悟を決め、静かに最後の時を待とうとした。
投げた剣が地面に当たる音でリントブルムもやっとその女勇者の存在に気づく。
「ぐるぅあああ、あ、あ、あぁ?? あれ?」
リントブルムは何が起きているのか理解できなかった。
(......なんかいる? あれ? あれ? なんかいるよ?)
今まで自分以外の動くものを見たことがなかったリントブルム。
それが勇者であるとすぐには気づくことなどできるはずがない。
どしん!どしん! とその女勇者の元へ近づいていく。
女勇者は震え、目から止めどない涙を流しながら恐怖で強張り切った顔をリントブルムに見せていた。
このダンジョンに入った時点で覚悟はできているはずだった。
だが目の前の存在に自らの死、以上の恐怖を感じてしまっている。
だがその表情を理解できないリントブルムは――
「キミ......もしかして人間?」
女勇者の何倍もある大きな顔をグイっと目の前まで近づけ、純粋に質問をしてみるリントブルム。
荒い鼻息が女勇者の恐怖をさらに煽る。質問に恐怖を超えた絶望の表情を見せながら声も出せずコクコクと必死にうなずいてみせた。
さらに顔を近づけ覗き込むリントブルム。
確かに魔王から聞いていた人間という生き物と特徴が似ているような気がする。
ならばと。
人間が来たときは背筋を伸ばし大きな声であいさつしなさいと常日頃から魔王に言われていたリントブルム。
体を起こし胸を張り背中の翼を大きく広げ――
「 人間よ、よくぞこの階層まで足を踏み入れた!!!!!! 我はこの階層のヌシ 暗黒竜リントブルム!!!! 真に勇気のある者よ。貴様の名前を我に刻むがよい!!!!(おはよう。よく来てくれたね。僕の名前はリントブルム。ここに住んでるんだよ。ねぇねぇ、君の名前を教えてよ。)」
その声はダンジョンを揺らし、空気が震え、すべてがひれ伏す。
暴力的な威圧が女勇者の体を通り過ぎるころ、何度も自分の人生を走馬灯でくりかえした挙句、我慢する事も耐えれる事もなく、あえなくあっさりと座ったまま失神してしまった。
(ドキドキ......たくさん魔王様と練習したからうまく話せたぞ。ちゃんと僕の話聞こえたかな?)
リンドブルムはフンフンと鼻を鳴らしながら凛々しい顔を崩さずチラリと女の方を見る。
当たり前だが女勇者にリアクションはない。
「あれ? どうしたの? 怒っちゃった? 具合悪いの? ねぇねぇ?」
顔を近づけるがそれでも反応はなく、リントブルムの荒い鼻息で女勇者はコテンと横に転がってしまった。
何が起こったのかわからないリントブルムだったが女勇者が苦しそうに息をしていることに気づく。
「もしかして苦しいの? 大丈夫?」
反応のない女勇者を心配してリントブルムは優しくその体を大きな口で咥え込み、自分の寝床まで歩いていくと優しくその中心に体を寝かせてあげた。
「ここは魔素が一番豊富な場所だから疲れてるのもすぐ治っちゃうよ。僕もね昔、大きいあくびをしたらあごが戻らなくなっていっぱい泣いたんだよ。すごい痛かったもん。でもね、そんな時でもここで寝てたらどんな痛いのもすぐに治っちゃうんだ。この前もね、怪獣ごっこしてたらね.........。」
リントブルムは苦しそうに息をする女勇者に話しかけ続けた。
自身が眠れないとき、魔王に眠るその時まで話を聞かせてもらった時、リントブルムは安らかに眠ることができた。
苦しそうな女勇者を見て、それを思い出したリントブルムは彼女の呼吸が楽になるまで誰も聞いていない話を続けるのだった
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