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第一章、かくてあさひはスカウトされる
003
釈放されたものの、まだ手続きが残っているのか、神宮さんの後についていく。
神宮さんは警察署のロビーを通り抜けると、そのまま自動ドアから外へ出た。
隣接する建物に入るのかと思いきや、駐車場に行き着く。
「乗ってください。説明は道すがらおこないます」
「どこに行くんですか?」
「現場です」
そういえば交通事故の現場で、指差ししながら警察官と加害者が現場検証しているのを見たことがある。
オレはすぐに連行されたので、改めて現場に戻って検証するのだろうかと、車の助手席に乗り込んだ。
「発進する前に、写真だけ撮らせてください」
「え……」
了解を待たずに、フラッシュで視界が真っ白になる。
何か強引な人だな……。
神宮さんは身分証をオレに見せると、車を動かした。
「改めまして、地域安全課の神宮です。怪人に関する事件は、全てうちで取り扱います。混合されがちですが、警察ではありません」
「管轄が違うって聞いてますけど……じゃあ、どこの?」
「神寺庁の者です。神社や寺の関係者だと思ってください」
「神社本庁とは違うんですか?」
神社関係の組織で、真っ先に思いつくのがそれだった。
だけどあそこは、伊勢神宮の関連組織だっけ。
「おや、お詳しいですね。端的に言うと、違います。ただ怪人という怪異を担当する以上、警察とも、神社仏閣とも切り離せない立場にいると、ご理解ください」
「怪異……」
「貴方が相手をした怪人は消滅しましたね? 怪人は、人の恨み辛みが具現化したもので、昔から怪異として我々は取り扱ってきました」
車は大通りを抜けて、住宅街へと入っていく。
ネオンの明るさがなくなると、静けさが増したように感じられた。
「怪人は調伏されると消滅します。貴方の相手は乳牛の怪人で、給食に出される白飯と牛乳の組み合わせが不満だったようです」
「小さっ!? 怪人の発生理由、小さっ! 今は献立も変わってきてるのに!?」
「塵も積もれば、というやつです。襲われていたのは給食の栄養士をされている方です。襲われる人にしてみれば、理由の大小は関係ありません」
「それは……確かに」
けど、そんな小さな不満で襲われるのは嫌だなぁ。
「裏を返せば、気付いていないだけで、怪人は身近な場所で発生するのです。……着きました」
「あれ? ここって乳牛の怪人がいた場所じゃないですよ?」
似たような路地ではあったものの、オレが事をいたした場所でないことは明らかだった。
「本山あさひさん」
「はい」
名前を呼ばれて、神宮さんと目を合わす。
「貴方を地域安全課にスカウトします」
「はい?」
意味を理解するのに、数秒を要した。
「待ってください、スカウトって何で!?」
「警察での調書を読ませていただきました。貴方は有望です。初見で怪人を調伏できるなんて、素人にはまず無理なのです」
「そう言われても……」
彼氏にフラれ、むしゃくしゃしていたのも事実で。
怪人相手なら誰も困らないだろうと、勢いでヤッてしまったことだ。
「危険がないよう、こちらで準備は整えます。そろそろですね」
「そろそろ?」
「怪人が発生します。現場に行くとお伝えしたでしょう?」
「現場ってそういう意味かよ!?」
ここが今から現場になるのか!
どうやら地域安全課は、事前に怪人が発生する場所がわかるらしい。
「でもオレのときはいなかったよな?」
「残念ながら、我々も万能ではありません。ニュースになるということは、未然に防げなかったということです」
そうか、襲われる人がいなければ、ニュースにはならないんだ。
「とにかく行きましょう。大丈夫、手順はお教えします」
「オレまだやるって決めてないけど!?」
しかし襲われる人がいるのに、時間を無駄にはしていられない。
オレがやらなくても、神宮さんが何とかするだろうとついていく。
オレたちは車から降りると、路地の角に潜んだ。
住宅街だと思ってたけど、視線の先にはチラホラとお店の看板が見える。
「カフェが見えますか? あそこに怨嗟反応がありました」
神宮さんが指差すカフェを見る。
個人経営のようで、店舗は大きくない。コーヒーをメインにしているようだけど、外観は白を基調としていて、女の子でも気軽に入れそうだ。
カフェで発生する恨みってなんだ?
「店主が出てきました」
「案外若い……」
カフェの店主というから、ロマンスグレーなおじさんを想像していた。
けど出てきたのは、モデル体型のお兄さんだった。よく見えないけど、顔も整っていそうだ。
もしかして恨みって、色恋沙汰か?
「来ました、発生します。どうやら怪人の狙いは店主のようです」
「マジかよ」
神宮さんがどうやって察知しているのかわからないけど、言葉どおり、店主の後を追うように黒い霧のようなものが発生していた。
それがどんどん形付いてくる。
ウネウネと動く黒い霧に顔を顰めていると、遂に怪人が姿を現した。
「イカ……?」
八本の触手をマントのように靡かせる怪人は、カフェの外観と同じ白色の肌なのもあって、イカを連想させる。
オレの呟きに神宮さんは首肯で答えた。
「そのようです。調伏の手順は簡単です。怪人はターゲットを襲っているときが一番無防備になりますので、その隙に犯してください」
「身も蓋もないな!?」
「私は店主を保護します。タイミングが大事ですよ。さぁ、行ってください!」
「ちょ、ちょっと……!?」
問答無用で送り出され、怪人に向かって走る。
こうなればヤケクソだ!
目の前で襲われそうになってる人がいて、無視もできないしな!
神宮さんは警察署のロビーを通り抜けると、そのまま自動ドアから外へ出た。
隣接する建物に入るのかと思いきや、駐車場に行き着く。
「乗ってください。説明は道すがらおこないます」
「どこに行くんですか?」
「現場です」
そういえば交通事故の現場で、指差ししながら警察官と加害者が現場検証しているのを見たことがある。
オレはすぐに連行されたので、改めて現場に戻って検証するのだろうかと、車の助手席に乗り込んだ。
「発進する前に、写真だけ撮らせてください」
「え……」
了解を待たずに、フラッシュで視界が真っ白になる。
何か強引な人だな……。
神宮さんは身分証をオレに見せると、車を動かした。
「改めまして、地域安全課の神宮です。怪人に関する事件は、全てうちで取り扱います。混合されがちですが、警察ではありません」
「管轄が違うって聞いてますけど……じゃあ、どこの?」
「神寺庁の者です。神社や寺の関係者だと思ってください」
「神社本庁とは違うんですか?」
神社関係の組織で、真っ先に思いつくのがそれだった。
だけどあそこは、伊勢神宮の関連組織だっけ。
「おや、お詳しいですね。端的に言うと、違います。ただ怪人という怪異を担当する以上、警察とも、神社仏閣とも切り離せない立場にいると、ご理解ください」
「怪異……」
「貴方が相手をした怪人は消滅しましたね? 怪人は、人の恨み辛みが具現化したもので、昔から怪異として我々は取り扱ってきました」
車は大通りを抜けて、住宅街へと入っていく。
ネオンの明るさがなくなると、静けさが増したように感じられた。
「怪人は調伏されると消滅します。貴方の相手は乳牛の怪人で、給食に出される白飯と牛乳の組み合わせが不満だったようです」
「小さっ!? 怪人の発生理由、小さっ! 今は献立も変わってきてるのに!?」
「塵も積もれば、というやつです。襲われていたのは給食の栄養士をされている方です。襲われる人にしてみれば、理由の大小は関係ありません」
「それは……確かに」
けど、そんな小さな不満で襲われるのは嫌だなぁ。
「裏を返せば、気付いていないだけで、怪人は身近な場所で発生するのです。……着きました」
「あれ? ここって乳牛の怪人がいた場所じゃないですよ?」
似たような路地ではあったものの、オレが事をいたした場所でないことは明らかだった。
「本山あさひさん」
「はい」
名前を呼ばれて、神宮さんと目を合わす。
「貴方を地域安全課にスカウトします」
「はい?」
意味を理解するのに、数秒を要した。
「待ってください、スカウトって何で!?」
「警察での調書を読ませていただきました。貴方は有望です。初見で怪人を調伏できるなんて、素人にはまず無理なのです」
「そう言われても……」
彼氏にフラれ、むしゃくしゃしていたのも事実で。
怪人相手なら誰も困らないだろうと、勢いでヤッてしまったことだ。
「危険がないよう、こちらで準備は整えます。そろそろですね」
「そろそろ?」
「怪人が発生します。現場に行くとお伝えしたでしょう?」
「現場ってそういう意味かよ!?」
ここが今から現場になるのか!
どうやら地域安全課は、事前に怪人が発生する場所がわかるらしい。
「でもオレのときはいなかったよな?」
「残念ながら、我々も万能ではありません。ニュースになるということは、未然に防げなかったということです」
そうか、襲われる人がいなければ、ニュースにはならないんだ。
「とにかく行きましょう。大丈夫、手順はお教えします」
「オレまだやるって決めてないけど!?」
しかし襲われる人がいるのに、時間を無駄にはしていられない。
オレがやらなくても、神宮さんが何とかするだろうとついていく。
オレたちは車から降りると、路地の角に潜んだ。
住宅街だと思ってたけど、視線の先にはチラホラとお店の看板が見える。
「カフェが見えますか? あそこに怨嗟反応がありました」
神宮さんが指差すカフェを見る。
個人経営のようで、店舗は大きくない。コーヒーをメインにしているようだけど、外観は白を基調としていて、女の子でも気軽に入れそうだ。
カフェで発生する恨みってなんだ?
「店主が出てきました」
「案外若い……」
カフェの店主というから、ロマンスグレーなおじさんを想像していた。
けど出てきたのは、モデル体型のお兄さんだった。よく見えないけど、顔も整っていそうだ。
もしかして恨みって、色恋沙汰か?
「来ました、発生します。どうやら怪人の狙いは店主のようです」
「マジかよ」
神宮さんがどうやって察知しているのかわからないけど、言葉どおり、店主の後を追うように黒い霧のようなものが発生していた。
それがどんどん形付いてくる。
ウネウネと動く黒い霧に顔を顰めていると、遂に怪人が姿を現した。
「イカ……?」
八本の触手をマントのように靡かせる怪人は、カフェの外観と同じ白色の肌なのもあって、イカを連想させる。
オレの呟きに神宮さんは首肯で答えた。
「そのようです。調伏の手順は簡単です。怪人はターゲットを襲っているときが一番無防備になりますので、その隙に犯してください」
「身も蓋もないな!?」
「私は店主を保護します。タイミングが大事ですよ。さぁ、行ってください!」
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問答無用で送り出され、怪人に向かって走る。
こうなればヤケクソだ!
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