そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府

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18.とあるタンクの分析

 「青き閃光」でタンク――前へ出て、敵の攻撃を受けることで味方を守る盾役――を務めるリヒュテが、ユージンに興味を持ったきっかけは、サーフェスだった。
 人に対して壁をつくりがちなあのサーフェスが、会って間もない人間を構っている。
 その表情は、自分たちと一緒にいるときと同じくリラックスしていた。
 ここまでくればユージンという見た目は平凡な青年が、どういう人物なのか気になるというものだ。

 まず前提として、サーフェスは人間嫌いのようでいて、実は逆である。
 幼少期の人間関係に恵まれたおかげか、両親に愛されて育ったサーフェスは、社交的で人が好きだった。
 しかし成長するにつれて、綺麗な容姿から情欲をぶつけられる機会が増え、自分を守るため次第に人と距離を置くようになった。
 なのでサーフェスに欲情さえしなければ、傍にいるのは許された。
 そして中でも気の合ったリヒュテとネオが、仲間として一緒に行動するようになった。
 ちなみにネオは見たままというか、猫が二足歩行しているような性格である。自分が構われたいときにやって来ては、満足すると離れていく。仕事をこなす社会性だけはあるのが救いだ。

 見張りをしつつ、視界の端でユージンに髪を梳かれているサーフェスを見る。
 ユージンへ向ける姿が、本来の――人を避ける前の――サーフェスに近いとリヒュテは考えていた。
 サーフェスにとってユージンは、自分を取り戻させてくれる相手なのだ。
 リヒュテも気持ちはわかった。
 二メートルを超す体格と、あまり表情が変わらない強面な外見から、初対面の相手にはまず怖がられる。
 ユージンだって、最初近付いたときは反射的に体をビクつかせた。
 彼の面白いところは、恐怖に理性が引きずられないことだ。
 誰だって大きな生き物が近付けば怖いと思う。
 飛竜を例にするとわかりやすい。本能的に警戒心を抱くようになっているのだろう。
 多くの人間は、恐怖を覚えると、思考も固くなる。
 しかしユージンは違った。
 いくら恐怖に体が強ばっても、理性で状況を判断し、相手が敵か味方かを区別する。
 ユージンにとって、リヒュテは味方だった。
 だから恐れを抱いても、すぐに笑顔を向けられた。

(そして相手の好意を、素直に受け取る)

 裏を考えない。
 人を疑うことによって消費する時間や労力がない分、ユージンからの好意も直球だった。
 大きな体を持つリヒュテに対し、ユージンはかっこいいと言う。力の強さに憧れると。
 それは子どもの頃、自分が冒険者に抱いた気持ちと一緒だった。
 童心を、初心を、ユージンは思いださせてくれる。
 赤眼のドウキをはじめ、他の冒険者たちも悪い気がしないはずだ。
 サーフェスもそうなのだろう。
 本来、人が好きだった自分を取り戻せる。ありのままでいいのだと思わせてくれるから、ユージンのそばへ吸い寄せられるのだ。
 勢い余って、加虐心まで表に出ているが。

(これは少し行き過ぎか?)

 結局のところ、ユージンが許すからサーフェスも調子に乗るのである。

(人を拒まないのは、考え方が幼いのか)

 直感が鋭いのか。このあたりは判断が難しいところだ。
 仕事に責任を持ち、騎士団との一悶着には青臭い面もあった。しかし伯爵邸の夜会でサーフェスを助けた方法を鑑みるに、考えが幼いとも言い切れない。
 今後も付き合っていけば、もっと内面が見えてくるだろうか。
 糸目のせいで、いまいち思考がわかりにくい青年の。
 砦では仕事への姿勢から、見た目より成熟しているのだと誰もが考えていた。
 しかし騎士団の前に立ち塞がった件で、年相応に青い部分があるのだと知れた。
 あの一件で、ユージンの意図が読めず距離を置いていた一部の冒険者たちも、心を許すようになった。
 ユージンは浅はかな行動だったと悔いているが、悪い面ばかりじゃない。
 体を張っただけあって、しっかり味方も増えていた。
 満足したのかサーフェスが隣へやって来る。
 視線を向けるとユージンは横になっていた。

「睡眠は大事ですから。ネオは叩き起こしますけど」

 こくりと頷いて答える。
 リヒュテ、サーフェス、ネオと見張りの順番が決まっていた。

「おまえも、寝ろ」
「そうします」

 言うなり、サーフェスは横になった。
 てっきりユージンの傍で寝るのかと思っていた。なんやかんやネオより、サーフェスのほうがユージンに懐いている。
 特性から動物に好かれやすいらしく、気付けば馬たちもユージンのそばで寝ているのが面白い。
 女児が憧れる童話の世界を見ているようだ。
 さながらサーフェスは王子様だろうか。まだお姫様の隣で寝るのは早いらしい。見張りの交代時に、寝起きする物音で起こしたくないからかもしれないが。
 星空の下、不穏な気配はない。
 リヒュテの耳に届くのは、時折風が葉を揺らす音と、焚き火の音。
 そして仲間たちの健やかな寝息だった。
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