怜くん、ごめんね!親衛隊長も楽じゃないんだ!

楢山幕府

文字の大きさ
8 / 50
高等部一年生

007

しおりを挟む
 ぼくが生徒会室に戻ると、そこには怜くんと眞宙くんの姿しかなかった。

「あれ? 他の人たちは?」
「必要事項は決まったから、今日はもう帰らせた。明日からは準備で忙しくなるぞ」
「そうだね、ポスター用の怜くんの写真撮影もあるしね!」
「……」

 ぼくが答えると、怜くんはこめかみを指で押さえた。
 何か不安なことでもあるんだろうか。
 ぼくとしてはゲーム主人公くんを気にしないで過ごせる最後のイベントなので、否応にも力が入る。

「大丈夫だよ! 撮影は写真部に任せることになってるけど、意気込みも凄いらし……痛い、痛い!」

 おもむろに近付いてきた怜くんに、アイアンクローをかけられる。
 怜くん、ぼくの顔を片手に収めるのが好きだね!?

「お前は、それ以外にないのか」
「だってこれがメインイベント……」
「な、わけあるか! メインは、新しい役員の募集だ!」
「そんなの募集しなくても集ま……痛い! 顔が歪んじゃう!」

 事実を口にしただけなのに、怜くんは気に入らなかったらしい。
 ぼくが叫ぶと、締める力を少し緩めてくれるところに、優しさを感じます。

「まぁまぁ、二人ともジャレるのはそのくらいにして。保、親衛隊の件は大丈夫だったの? 怜もそれを心配してたんだよ」
「俺は別に心配してないぞ」

 眞宙くんが間に入ってくれたことで、アイアンクローは外された。
 無愛想に言い放つ怜くんに眞宙くんは苦笑するけど、いつものことといえば、いつものことだ。
 ぼくがチャラ男先輩の親衛隊の子が襲われた話をすると、二人とも揃って天井を仰いだ。
 それぞれの銀髪とワインレッドの髪が宙を揺らぐ。

「またか」
「板垣先輩が素行を正さない限り、なくならないだろうね」

 ごもっともである。
 ぼくとしては親衛隊への風評被害をどうにかしたいところだけど、これといった解決策は浮かばなかった。

「保も気を付けてね」
「うん、上村くんにも注意されたところだよ」

 灯台下暗しの意味は分からなかったけど。
 ぼくが眞宙くんに頷く傍ら、怜くんは眞宙くんから生徒会室のドアへと視線を投げる。

「話は終わったな。じゃあ、眞宙は先に帰れ」
「怜、今の話聞いてた? どうして僕が、怜と保を二人っきりにすると思うの」
「合意の上なら、問題ないだろう?」

 次に怜くんは、じっとぼくを見つめた。
 碧い瞳に正面から見つめられ、一瞬にしてぼくの鼓動は早まる。
 えぇっと……これは……そういう流れなわけで。
 怜くんと二人っきりになった後のことを考えると、じわじわと頬が熱くなるのを止められない。

「保、嫌なら嫌だって言うんだよ?」
「俺は今まで無理強いしたことはないぞ」
「言うまでもなく、それが当たり前なんだけどね?」

 怜くんは生徒会室から眞宙くんを追い出すと、ぼくの手を引いて、応接用の黒い本革のソファに座らせる。
 二人がけのソファに並んで腰を下ろすと、ギシッとスプリングが沈む音がした。
 あああ、どうしよう! 真横に怜くんがいる! いや、いつものことなんだけど!
 これから行為に及ぶ恥ずかしさから、膝に拳を乗せて固まる。
 そこへ怜くんの手が重ねられた。

「大丈夫か?」
「だ、だいひょ」
「落ち着け。お前の周りに怪しい奴はいないか?」
「あ、親衛隊のこと? ぼくのところは大丈夫だよ」

 話を振られて少し気が抜ける。
 あれ? もしかしてぼくの早とちりだった? それはそれで恥ずかしい……っ!
 俯くと、力が緩んだ拳を指でなぞられた。
 怜くんの指先に、指の間を撫でられてくすぐったい。

「緊張が解けたのはいいが、まだ気を抜くのは早いぞ」
「え?」

 声と共に端正な顔が近付いてきて、ちゅっと軽く耳にキスされる。
 間近で聞こえるリップ音が生々しい。

「ぴぇっ!」
「お前は鳥か」
「れ、れれ怜くんが!」
「うん、俺が?」

 顔を向ければ、楽しそうな怜くんが目に入る。
 絶対からかってる……!
 怜くんは、ぼくの拳から手を離すと、人差し指でぼくの顎を持ち上げた。

「俺が、何だ?」
「か、格好良い……じゃなくて、からかわないでよ!」
「からかってない、と言ったら?」
「えっと」

 どう答えたらいいのかわからなくて目が泳ぐ。
 そんなぼくの頬に、怜くんの唇が触れた。

「お前が欲しい」
「~~~っ」

 腰に! 響く! 声は! 反則だよね!?
 顔だけじゃなくて声も良いなんて、天は怜くんに二物も三物も与え過ぎだよ!
 ソファに倒れ込みそうになったところで、腰に怜くんの腕が回される。
 もう片方の手で、そっと髪を撫でられた。

「俺は保だけでいい」

 怜くんと肌を重ねるようになったのは、ご多分に漏れず高等部に進学してからだ。
 けれどチャラ男先輩とは違って、怜くんがぼく以外の親衛隊の子に手を出すことはなかった。

「まだ馴れないか」
「多分ずっと無理……」

 正直に白状すると、珍しくふっと笑った雰囲気が怜くんから伝わってくる。
 数センチも離れていない距離に、怜くんの綺麗な顔があるのだと思うと心臓に悪い。
 普段はできるだけ意識しないようにしてるけど、二人っきりになってしまうとダメだった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

【完結】腹黒王子と俺が″偽装カップル″を演じることになりました。

Y(ワイ)
BL
「起こされて、食べさせられて、整えられて……恋人ごっこって、どこまでが″ごっこ″ですか?」 *** 地味で平凡な高校生、生徒会副会長の根津美咲は、影で学園にいるカップルを記録して同人のネタにするのが生き甲斐な″腐男子″だった。 とある誤解から、学園の王子、天瀬晴人と“偽装カップル”を組むことに。 料理、洗濯、朝の目覚まし、スキンケアまで—— 同室になった晴人は、すべてを優しく整えてくれる。 「え、これって同居ラブコメ?」 ……そう思ったのは、最初の数日だけだった。 ◆ 触れられるたびに、息が詰まる。 優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。 ——これ、本当に“偽装”のままで済むの? そんな疑問が芽生えたときにはもう、 美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。 笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の 恋と恐怖の境界線ラブストーリー。 【青春BLカップ投稿作品】

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

処理中です...